第684話 逆転劇

 カスパルの国葬が始まり、式典がプリニオを司会にして執り行われていくが、俺は直前にスタインバーガー教皇よりもたらされたぼっさんの事で、頭の中がいっぱいで式典の事に全く集中出来なかった。


 思い返せば、俺がカローラ城があった周辺の領地の領主になり、ようやく領地として形になった所で内外的にも俺が領主となる事を知らしめるためにアシヤ領生誕祭を執り行ったあの日、魔獣の大侵攻が起きたのが事の始まりだった。


 一般人は知らなかった特別勇者という存在が、魔王の軍勢が人類生存域に侵攻しないように魔族を魔王領に押し止めていたのだが、特別勇者の一人が魔族に討ち取られて、それを機にあの魔獣の大侵攻が始まったのだ。


 俺たちはタイミングよく俺の所へ戻ってきた蟻族の援軍もあって魔獣の大侵攻を撃退することが出来たのだが、その後、俺はその討ち取られた特別勇者の穴埋めに魔王領との最前線に対魔族連合から徴兵される事となった。


 そこで出会ったのがマサムネたちとぼっさんこと母田参次である。ぼっさんはマサムネたちのような戦闘員ではなく技術者であった。しかも、現代日本の技術とこの異世界の技術を融合させた技術者である。特別勇者にとっても最重要人物であり、俺たちの任務も特別勇者と一緒に戦うのではなく、万が一の非常事態の時に、最重要人物であるぼっさんを逃す事が目的であった。


 そんな最重要人物を何故、安全な後方ではなく最前線に置いていたのかというと、ぼっさんの持つ技術や知識を、魔族から守るだけではなく、特別勇者と協力関係にあった対魔族連合にも渡す訳には行かないという情報を、俺が同じ転生者と言う事でマサムネがおしえてくれたのだ。


 その後マサムネたちが大型魔族人との戦いで死んで、マサムネとぼっさんから託された秘密兵器で大型魔族人を討ち果たす事が出来たのであるが、あの威力を見ると確かに、魔族どころか、対魔族連合…いや、この世界の者に渡す事も教える事も出来ない物であった。


 そして、俺は大型魔族人を倒す事が出来たが、その戦いで瀕死の重傷を負い、暫くの間、生死を彷徨い意識を失っていた… シュリやカローラ、アルファーの看病がなければ俺は生きていなかったであろう… 

 その俺が意識を失っている間に、対魔族連合の駐屯地に到着し、そこでぼっさんが対魔族連合に引き渡されたと後で知らされた。当時の俺はそれで大丈夫なのかと不安に思ったのであったが、意識を取り戻した時の俺は満身創痍で一人で起き上がる事もままならなかった。


 そして、今に至り、スタインバーガー教皇からぼっさんが教会の敵の手に囚われていると知らされた。ぼっさん自身が危機的状況にあるのと、その知識と技術が悪用される恐れがある事は分かるが、その教会の敵という存在が何なのかが分からない。それはぼっさんの身柄を手に入れた対魔族連合が教会の敵に回ったという事なのか、それとも対魔族連合から、もっとヤバい敵…つまり魔族にぼっさんの身柄が移ったという事なのか…


 本当は黙ってこんなところで突っ立っているのではなく、すぐさまスタインバーガー教皇の襟首を捕まえて、もっと詳細な情報を聞き出したいところだ。それぐらいぼっさんの持つ知識や技術はヤバすぎる代物だ… たとえ対魔族連合が魔族に対抗する為、その知識や技術を使うと言っても、魔族との争いが終わった後、それらは人類の勢力争いに使われる事は目に見えている。だからこそ、特別勇者達は、対魔族連合にもあの知識と技術を渡したくなかったのだ。


 そう考えると、ぞわぞわした焦燥感が胸の中に湧き上がってきて、居ても立ってもいられなくなってきて、こんな豚のカスパルの国葬なんてさっさと終わって、少しでもスタインバーガー教皇と話す時間が取れないかと考える。



 そんな時、式典の会場全体から、盛大な割れんばかりの拍手が涌き上がり、俺は考え事から我に返り、会場内を見回す。すると、喪主を勤めるシャーロットの挨拶兼演説が終わったばかりの様で、会場の参列者の皆がその内容に感動して、惜しむ事の無い盛大な拍手をしている所であった。


 シャーロットの一世一代の大一番を聞き逃したのは申し訳ないが、演説内容は事前に俺たちで話し合って決めた内容なので予め分かっている。そして、この拍手を見る限り、シャーロットの演説はこの会場に集まる参列者の心を動かし感動させた事も分かる。つまり、大成功だ。


 貴族の重鎮達の支持を集め、前皇帝の国葬の喪主を勤め、会場の皆の心を掴んだ。それに公にしてないが玉璽も所持している。プリニオがカスパルの代わりにどの様な後釜を連れてこようとも、シャーロットの次期皇帝はゆるぎないものになっているだろう。今更、実はシャーロットは俺の所へ嫁がせて皇位継承権が無いと言い出しても、公の場所で自分の口で、シャーロットは嫁いだのではなく支援援助の願いに俺の所へ行ったと言っている。その言葉を今更取り消す事はプリニオであっても出来ないはずだ。


 つまり勝ち確定、もう後は消化試合だから風呂でも入ってくるか状態だな。ここからの逆転劇なんてないだろう。後は帝位に就いたシャーロットがプリニオの今までの悪事を暴いて追放するなり、閑職におくるなり、牢に繋ぐなり好きにすればいい。


 ってか、カイラウルの事はシャーロットにさっさと任せて、俺はぼっさんの救助の事を考えなければならない。ぼっさんの知識や技術が魔族や人類に伝わり、自分たちだけで再現出来るようになれば、この世界が大変な事になる。


 俺はそんな事を考えながら、後からしれっとシャーロットの演説に拍手を送っていた。


 すると、シャーロットが演壇から退き、舞台に設置された喪主席へと戻り、それに伴い、会場の拍手も落ち着いていく。そして、拍手が落ち着いたところで司会を務めていたプリニオが会場の皆に向けて声を上げ始める。



「式典の途中ですが、この会場に御集りの皆さん! いえ、この国の全ての者に提案したい事があります!!」



 俺はそのプリニオの言葉に、プリニオの反撃が始まると考え、気を引き締めてプリニオの様子を伺う。



「先程の救国の英雄であり、前皇帝カスパル陛下の喪主を勤められたシャーロット殿下の演説は素晴らしいものでございました!! それは皆さまもご納得のことでしょう!!」



 その言葉に会場に参列する者は、ある者は同意するように頷き、ある者はそうだそうだ!と賛同する声を上げる。



「そこで私は思うのです… シャーロット殿下のように素晴らしいお方がこの時に歴史の表舞台に立たれた事は、神の思し召しでは無いかと…」



 プリニオは一体、何を言い出すつもりなんだ?



「そして…亡くなられた前皇帝であるカスパル陛下も、喪主を勤められるシャーロット殿下の御姿を天より見てこう思われている事でしょう…」



 俺は自然と生唾を飲み込む。そして、嫌な汗が流れる。



「シャーロット殿下こそ、次期皇帝に相応しいのではないかとっ!!!」



 プリニオは一段と強い語気で言葉を発した後、力強く拳を突き上げる!!


 それと共に会場の皆が、思わず立ち上がり賛同の声が涌き上がる。



「「おぉぉぉ!!! 次期皇帝はシャーロット殿下しかありえない!!」」


「「グローリア!!! シャーロット!! プロスペリダッド!!パラ カイラウル!!!」



 会場の皆がシャーロットの栄光を讃え、カイラウルの繁栄を願う歓声が響き渡る!



「この不肖プリニオは全力を持って、シャーロット殿下を次期皇帝へと推し進めていく所存であります!!」



 その言葉に俺は愕然としたのであった。



連絡先 ツイッター にわとりぶらま @silky_ukokkei

pixiv http://pixiv.net/users/12917968

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