第679話 詫びを入れる遺族

「「「はぁ…」」」


 ミリーズ、ネイシュ、カローラの三人が部屋に戻ってきてソファーにどっかりと腰を下ろすと、クソデカ溜息を付く。

 結局、あの後、暫くしてからカスパルの検死の協力依頼があって、それにミリーズ達三人が協力することになったのだ。

 残る俺たちは部屋で留守番をして、三時間程経って、三人が戻ってきたのだ。



「お疲れ様… その様子だと、色々大変だったようだな…」


 

 俺が労いの言葉を掛けると、三人は愚痴を言いたそうな顔をすっと上げる。


「ちょっと聞いてくれる!? イチロー」


 先ず、声を張り上げたのはミリーズだ。


「もしかして、やっぱりカスパルは暗殺されたのか?」


「いえ…私と向こうの宮廷医の二人で外傷が無いか調べたし、ネイシュにも毒物の反応が無いかも調べてもらったけど、何も出てこなかったわ…」


「うん、身体の外側には毒物はでなかった、だから身体の中も調べた」


 ミリーズに続きネイシュも口を開く。


「という事は、やっぱ身体を開いて中も調べたのか… 大変だったな…」


「「大変だった」」


 ミリーズとネイシュの言葉がハモる。


「私も傷を負った者の治療をして来たけど、身体の中にあんなに脂肪のついた人は初めて見たわ… 結局、脂の取り過ぎによる心筋梗塞だと思うわ」


「私もそう思う… 脂肪が多すぎて毒物で変色してないか確かめるのが大変だった…」


 二人がそう言って溜息を漏らす。


「そ、そうか…食べ過ぎには注意しないとダメだな… で、カローラはどうだったんだ?」


「聞いて下さいよっ! イチロー様っ!」


 カローラが待ってましたと言わんばかりに声を張り上げる。


「最後に何かされてないか、死んだ本人から話を聞くために、私が死霊術で通訳させられたんですけど… カイラウルの人間って、あの王子もそうでしたし…頭のおかしい人間しかいないんですか!?」


「まぁ…あの王子もたいがいだったけど…カスパルは何を言って来たんだよ?」


「あの男、私が話しかけるなり、『神にも等しい余の遺体を開くなど、無礼千万!! 死を持って詫びろ! それが嫌なら… 余と同じように身体を開けとまでは申さぬ…代りに三人とも、服を脱ぎ、全裸になって股を開いて見せろ… さすれば余は寛大な心を持って許してやろう…』とか他にも色々と言い出して…」


 カローラは怒りにテーブルをダンダン!!と叩きながら説明する。


「あぁ… そう言う事で、皆、そんなに疲れたような呆れたような顔をしていたのか… しかし、死んでも性欲旺盛だな…」


「すみません…すみません… ガストロノモ王子もカスパル陛下も私の血縁者です… その血縁者が皆様にご迷惑をお掛けして、本当に申し訳ございません…」


 一応、遺族のシャーロットが三人に土下座しそうな勢いで頭を下げる。


「…本当なら、父を亡くした遺族のシャーロットの謝罪を受け入れて、貴方が言った訳ではないと答えるべきなのだけど… そんな余裕を見せられないぐらいにあの男に腹が立っているのよね…」


「本当に申し訳ございませんっ! 本当に申し訳ございませんっ!」


 真顔でゲンドウのポーズで淡々と述べるミリーズに、シャーロットはソファーから降りて、本当に土下座をし始める。


「おいおい! 尋常じゃないなっ! 一体他にも何を言われたんだよ!!」


「…口にするだけでも思い出し怒りが湧いてくるから言いたくないわ…」


 ミリーズがそう答えると、ネイシュもカローラも同意するように頷く。


「しかし、逆にそこまで言われてよく我慢して戻って来たな…」


「いえ、我慢できなかったから、あの男…カスパルを除霊しようとしたわよ…」


 ミリーズは淡々と述べる。


「おいおい! 死んで霊になったとはいえ、元皇帝を除霊するわけにはいかんだろ!?」


 俺も驚いて声を上げ、シャーロットも同じく驚いて、土下座からガバっと顔をあげる。すると、ネイシュが俺たちに向き直って口を開く。


「うん、だから一緒にいた宮廷医が泣いて必死になってミリーズを止めてた…」


「宮廷医に泣いて頼まれたぐらいでよく止めたな」


「いや…止める代わりに、私たちに言われたことを宮廷医がやるなら止めるってミリーズが言って、宮廷医がさらに泣いて私たちの代りをしてた…」


「ちょっ! おまっ! たしかあの宮廷医、60ぐらいの爺さんだったろ!? そんな爺さんに全裸になって股を開かせたのかよ… そりゃ…泣くだろ…」


「うん、ガン泣きしてた… でも、私たちが言われた事を全てやる前に私たちは退出したから…」


 あの宮廷医の爺さん…ガン泣きしたのか…気の毒すぎる…


「えっと…私もした方がよいのですか…?」


 シャーロットが土下座状態から強張った顔を上げてミリーズに尋ねる。


「別にもういいわよ… ガン泣きする宮廷医の姿を見て溜飲は下がったから… あとイチローが喜ぶだけだし…」


「いや…俺でもそんなシチュエーションは萎えるわ…」


 最近NTRがダメになったけど、元々俺は可哀相なのは抜けないタイプだ。



「まぁ…とりあえず、三人はお疲れ様…後、シャーロットも土下座してないでソファーに座り直せ、今後の方針を考えるぞ」


 とりあえず、検死の事は忘れて、気持ちを切り替える。シャーロットも土下座から立ち直り、ソファーに座り直す。


「さて… 俺たち…特にシャーロットの目的は、魔族の企てを阻止するためにこのカイラウルの頂点、皇帝になる事だった… その為に、シャーロットは各所に挨拶回りをして根回しをして、正当なカイラウル王家の証である玉璽も手に入れた… ようやく、戦う道具を手に入れて見通しがついたところだった…」


 俺は改めて皆に現状を説明する。


「で、引きずり降ろすつもりだったカスパルの急な訃報だ… こいつをどう思う? 俺は相手側が俺たちの行動をある程度読んでいて、このままカスパルを担いでいては対抗できないと考えたから、役者を換える為にカスパルを殺したと思うんだが…」


「…一応、診断結果は心筋梗塞だけど、いくらでも誤魔化しようはあるから、その可能性も考えられるわね…」


 ミリーズが同意するように頷く。


「うん、私もそう思う。今まで心筋梗塞にならないように薬を与えていたけど、その薬を与えるのを止めれば、毒を盛らないでも任意のタイミングで人を死なせる事はできる」


「なるほど…毒を使わずに薬を使わないで殺すやり方か… 確かにそれだと検死をしても異常を見つけられんな…しかし、いきなりカスパルを殺してくるとは…カスパルでは色々欠点があるからな…そこをつかれないようにと考えたんだろう…」


 俺はそういうやり方があるのかと感心する。


「それでは…プリニオは新しい人物を立てて、こちらに対抗してくるというわけですか?」


 シャーロットが不安げな顔でこちらを見てくる。


「恐らく、そう言う事だろう… どんな人物を出してくるのか… 相手の出方に警戒せんといかんな…」


「ですね… 向こうが動くのは…恐らくカスパル陛下の葬儀の後でしょうか… 気を引き締めませんといけませんね…」


 シャーロットは唇を噛み締めた。




 

連絡先 ツイッター にわとりぶらま @silky_ukokkei

pixiv http://pixiv.net/users/12917968

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