第671話 憶測
図書館の話や爺さんの話をした後、皆が沈黙して押し黙る。一気に様々な情報が集まったが、重要な情報ではあるが一発逆転になるような情報でもないので、皆頭の中で情報を整理しているのだ。
そんな所に、隣に座るカローラが、俺の服をクイクイと摘まんで意見を述べてくる。
「ねぇねぇ、イチロー様、カスパルが玉璽を継承していないってことなら、その事を言ってカスパルを帝位から下ろしたらいいだけじゃないですか?」
物事を簡単に考えるカローラらしい質問をしてくる。
「いや、それをするのは難しいな… 帝位に着く時に玉璽を継承していないと爺さんが言っているだけで、その後、何とかして玉璽を手に入れているかもしれんし、もし玉璽を持ってなかったとしても、こちらも玉璽を持ってないのに帝位を代われって言えないだろ?」
「あぁ、今は玉璽を持っているかもしれないって可能性があったんですね… ゲームならば、一発逆転を狙えるチャンスかも知れないですけど…」
ゲームなら失敗しても次のゲームで勝ちを望むことができるが、これは現実だから失敗すれば下手すれば死、上手くいっても国外逃亡しないといけなくなるな… それだと、カイラウルでの魔族の台頭に手を出せなくなる。
「では、イチロー様はこれまでの情報でどうしようとお考えなのですか? どうやってカスパルを帝位から蹴落とそうとお考えなのですか?」
カローラは自分の考えがダメなので俺の考えを尋ねてくる。
「そうだな… この際、目的と手段についてははっきりさせておいた方が良いな。ぶっちゃけな話、別にカスパルに帝位をおりてもらってシャーロットが帝位に着く必要はない」
「は!?」
カローラが驚いて目を丸くして、シャーロットもはっと顔を上げる。
「いやいや、イチロー様、今までシャーロットを帝位につける為に、シャーロットには勉強してもらって、私たちもここまでついてきたんでしょ? それなのにシャーロットを帝位に付ける必要はないってどういうことですか!?」
「それはだな… 俺たちの大前提の目的を思い出してくれ、俺たちの目的はカイラウルを魔族が人類に対しての橋頭堡にしようとしている事を阻止する事だ。その為にはカイラウルの中に潜む魔族の協力者の排除が必要… だからぶっちゃけ、目先の目的達成を臨むなら、その協力者のプリニオを再び暗殺しても達成できるんだ」
「じゃあ、やっちゃいましょう! イチロー様!」
カローラはゲスい笑みを浮かべながら簡単に言ってくる。
「いや、それをしても…『ククク…私を倒したとて、第二、第三の私がすぐに現れるであろう…』状態になるだけだからな… 実際に、アルフォンソを殺した後にすぐにプリニオが出てきたわけだし…」
「あっ…確かにそうでしたね… でも、第二、第三も殺し続ければ、魔族側も諦めて手を引くのでは?」
…一見、馬鹿な方法に思えるが、もしかするとそれもいけるんじゃないか?
俺がそんな感じに考えていると、まともに戻ったミリーズが真剣な顔で口を開く。
「カローラちゃん、その方法はあまりお勧めできないわ」
「どうして?」
カローラはミリーズに向き直る。
「そんな事を繰り返していては、シャーロットが帝位に着くために暗殺を多用した血塗られた皇女と思われてしまう可能性が高いわ… 実際、過去のホラリスの教皇の選定時にそんな事があって教皇を諦めた人がいるのよ…」
「ぐぬぬ…それは確かに良くないですね…」
ミリーズの言葉でカローラの方法も良いのではと思っていた俺も考えを改める。
「話は脱線したが…まぁ…カスパルが魔族に丸め込まれている可能性の事や、今のプリニオの排除や、その後第二、第三のプリニオが現れても政治の実権を握らせないようにする為にも、一番ベストな方法がシャーロットが帝位について目を光らせるって事だったんだよ…」
「あぁ…なるほど、そういう流れでシャーロットを帝位につけるって話になっていたんですね」
ようやくカローラが納得する。ってか今までお前は城での話を聞いてなかったのかよ…
「しかし、人間というものは面倒じゃのぅ… 基本、ドラゴンの世界では力の強い者の指示した事に下の者が文句を言わずに従うのが当たり前じゃからのぅ~」
シュリがそう言って、考え疲れたように身体をソファーの背もたれに預ける。
「ドラゴンの世界って意外と脳筋なんだな…」
「力の無い者に従っても、一族を守ることが出来なければ一族が滅んでしまうからな、時には物事をゴリ押しする強さも必要じゃ」
「力…ですか… 私にもゴリ押しできるだけの力があれば…」
シュリの言葉にシャーロットが独り言のように漏らす。
シュリの言葉とシャーロットの独り言を踏まえて考える。確かに自身の武力や軍事力を背景に、弱者を黙らせて武断する方法もよく使われる手段だ。しかし、シャーロット個人にはそんな武力も軍事力の背景もない。だから、説得や根回しなどで協力者を増やして民主主義的な方法をとらなければならないのが現状だ。
だが、俺や俺の仲間、イアピースがシャーロットの後ろ盾になれば、様々な災害の直後で弱体化したカイラウルなら、シャーロットをゴリ押しで帝位に就ける事も可能かも知れない。
マグナブリルが警戒していた他国からの心証が悪くなることが問題であれば、偽装離婚のように俺たちがイアピースから脱退してカイラウル側に就くって手もある。なんなら、俺が…
俺はそこまで考えて、はっと気が付く。確かネイシュが盗み聞きした魔族やアルフォンソの目論見は俺を王位につけて魔族側に勧誘すると言う事であったはずだ。
もし、仮に俺がシャーロットの夫としてカイラウルの王位についてプリニオを追い出したとしても、その後、俺がシャーロットを誑し込んで王位を簒奪したと、他国の人類に風潮して回れば、俺は人類側から窮地に追い込まれて、魔族に生存の望みを願うかも知れない…
俺たちにとっての手段であるはずのシャーロットを帝位につける事が、目的を果たしたのと同義に考えていたように、魔族側も俺を篭絡する目的のための手段として、俺を王位につける事が、目的を果たしたのと同義と考えていたのかも知れない。
俺さえ王位につければ、他国に王位簒奪者として追い込む事も、各国の美女を手に入れる為に俺を唆すのも、そこからの色々な方法で俺を魔族側に就かせることも可能だと考えていたのだろう…
もし、魔族がその様な考えをしていたのであれば、現在の魔族の目的は、カイラウルを魔族の橋頭堡にする事と、俺を王位につける事。これらどちらか一つでも達成出来れば、人類側に大きな損害を与える事が出来ると考えているのではないだろうか…
となると、俺たちは魔族のどちらの目的も両方阻止しなければならない…
「あるじ様、どうしたのじゃ?」
そんな考え込む俺にシュリが声を掛けてくる。
「いや…俺たちの目的の事も重要だが、魔族の目的の事も考えていてな… その目的を踏まえるとシュリのように力でゴリ押しにするのではなく、シャーロットが自分の力で帝位につかないとならないと思って…」
「魔族の目的を踏まえると力のゴリ押しは出来ないとは…一体どういうことですか?」
シャーロットが眉を顰めながら聞いてくる。
「うーん、俺の憶測で、自分自身の過大評価かも知れんのだが… 魔族の目的は、一つはカイラウルを魔族の橋頭堡にする事と…もう一つは俺を篭絡する為に俺をカイラウルの王位に就ける事だと思うんだ… 別に女で釣らなくても俺を王位にさえつければ、魔族側に引き込めるんじゃないかって考えているのではないかと… マジで自分自身の過大評価かも知れんが…」
「いえ、イチロー…それは過大評価ではないわ」
突然、俺の目の前に聖剣が現れたのであった。
連絡先 ツイッター にわとりぶらま @silky_ukokkei
pixiv http://pixiv.net/users/12917968
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