第659話 図書館に行く理由

 次の日、昨日と同じメンバーのシャーロット達は今日は弟妹達のいる育成所へ向かった。出発する時にカローラがぐずって、「今度、護衛の役目が代わったら、私も美味しい物を食べに連れて行って下さいよ!! 後、カード! カードショップも行きたいです!!」と声を上げていたので、「分かった分かった、ちゃんと連れて行ってやる」と約束してなんとか送り出した。カローラの奴、そんなにシャコエビが喰いたいのだろうか…


 そんな感じにシャーロット達を送り出した後、時間のある俺はコヒーを飲みながらゆっくりと寛いでいた。すると、シュリにしては珍しく大欠伸をしながら遅めにリビングにやってくる。


「おっ、シュリ、今起きたのか、シュリにしては随分とお寝坊さんだな」


 するとシュリはむにゃむにゃと眠たそうに目を擦りながら答える。


「あるじ様…就寝前のわらわの前に突然、聖剣が現れてのぅ…」


「えっ? 聖剣がシュリの前に? またなんで?」


 シュリは俺の横に座ると、再び大欠伸をして、コヒーポットに手を伸ばして、普段飲む事の無いコヒーを飲み始める。


 聖剣の奴…ミリーズやシュリの前に勝手に現れるとかフリーダム過ぎるだろ… 飼い主の俺は放し飼い状態で苦情が言われないように、そろそろ聖剣に首輪でも付けるべきか?


「昨日のレストランで給仕の娘から童話を聞かされたじゃろ?」


 シュリは飲みなれないコヒーを苦そうに飲む。


「あぁ、双子の姉妹の話だろ? それがどうした?」


「聖剣はあるじ様の中であの話を聞いておったそうなのじゃが、わらわの感想に不満があって、話し合いに来たのじゃ…」


「えっ!? マジで!? たかが感想にいちゃもん付けに来たのか!?」


 おいおい…マジかよ…ネットだけでなくリアルでレスバし始めたのかよ…それってマジヤベー奴じゃん…現代日本なら家に来た時点で警察呼ばれるぞ… ってか、怖えーよ…レスバ相手が家に来るなんて…


「そうじゃ…なんでもわらわの感想が真実の愛に反すると言う事で色々罵声を浴びせられたわ…」


「罵声を浴びせるって… 何が真実の愛に反するって言うんだよ?」


 そもそもなんだよ…真実の愛って…


「双子の片割れを捨てた顔だけの甲斐性の無い男がおったじゃろ? 真実の愛があるなら男が気が付くその時まで希望を失わず待つのが当然で、男の不幸を願うのは言語道断だと言われたのじゃ…」


「いやいや、そんな男は不幸を願われて当然で、待つ必要なんてねえだろ… 実際に性病もらって死んでいる訳だし、いくら待ってても帰って来ねーじゃないか」


 男の俺でもあの話の男はとても擁護出来ない。それぐらいのクズだ。


「そうじゃろ? わらわも同じように言ったのじゃが、聖剣は納得せずにそれなら迎えに行けとか言い出してな…」


「アイツ…無茶苦茶言うな…俺だったら、適当にハイハイって答えてさっさと寝るわ…」


「普通ならそうする方が良いのじゃが、わらわはどうも納得できんかって、それは其方にとっての愛の形で、わらわにとっての愛ではないと言い返したんじゃ…」


 シュリはそう言うと眠気覚ましのコヒーをもう一杯ぐっとあおる。


「おいおい、シュリ、スゲー事すんなぁ… あのキチガイ相手に言い返すなんて、逆上して大変だっただろ!?」


「あぁ…あるじ様の言う通りじゃ… だから、こうして今までは聖剣と言い合っておったのじゃ…」


 シュリは飲み干したコヒーカップをテーブルに置いて、ふーと一息つく。


「えっ!? ってことは今まで一睡もせずに一晩中徹夜であの聖剣と言い合っていたのか!?」


「そうじゃ…結局、議論の結論が出ずに次回に持ち越しという事になったがな…」


 そう言うと、再び『ふわぁ~』と大欠伸をする。


「シュリ、とりあえずお疲れ…というかすまんかった…後で俺から聖剣を叱っておくわ」


「別に構わん、あるじ様の所為では無いし、わらわも一晩中話をするのは久しぶりじゃったからのぅ… 今思えば、あの生贄の娘にわらわも酷い事をしておったと自覚したわ…」


 生贄の娘というと、シュリが俺と出会う前に、シュリの巣の近くの王国から捧げられた娘の事か…確か、シュリが人間の事を覚えるのと今の姿を得るきっかけになった娘だったよな…


「シュリ、今日は部屋で休んでおくか?」


 俺はシュリの事を気遣って、部屋で休むことを勧める。


「いや、別に構わん、最近は人間の習慣が身に付いていただけで、ドラゴンじゃった時は、三日三晩飛び回っていた時もあるからのぅ、それであるじ様よ、今日は調べ物をすると言う事で図書館に行くのじゃったな、何を調べるつもりなのじゃ?」


 シュリは気持ちを切り替えて俺を見上げてくる。


「その聖剣と言い合っていた童話について調べるつもりだったんだよ…」


「またどうして?」


 シュリはパチリと目を開いて尋ねてくる。そこへカズオがやってきて、シュリの前に朝食を差し出す。


「これ、シュリの姉さんの分です、温め直しておきやしたので」


「すまんのぅ、カズオよ、それであるじ様、話を続けてもらえるか?」


 シュリはモグモグと朝食を摂りながら話を聞き始める。


「いやな、童話や御伽噺、伝承や言い伝えって奴は、その土地だけの物ではなく、登場人物・過程や結果が微妙に変わって各地にも伝え広まっているもんなんだ」


「あぁ、縄張りを決めたらそこから動かないドラゴンと違って、人間はあちこち動き回るからのぅ… 話も広まるはずじゃ、それがどうしたのじゃ?」


「でも、昨日あのレストランで聞いた童話は他で似たような話を聞いた事がないんだよ、それが意味するのはこの童話が出来てから広まるまで時間が経ってないと言う事なんだ」


「あの話は最近できたという事か?」


 シュリはくじらの竜田揚げを美味しそうにもぐもぐする。


「あぁ、それとあの話…今のカイラウルにとって都合が良すぎると思わないか? 普通、市井の双子の姉妹が揃って、王に嫁ぐのが良い事なんておかしいだろ?」


 シュリは無表情で俺の顔を見ていた後、モグモグしていたものをゴクリと飲み込む。


「わらわの目の前に、ダークエルフの姉妹10人と蟻族100人を嫁にしたあるじ様がおるのじゃが…」


「んなことぐらい自分の事だから分かってんだよ! だから、俺が言いたいのは、俺みたいな事をおかしいと思うのが普通で、おかしいと思わないカイラウルがおかしいって言いたいんだよ!」


 俺はシュリの突っ込みに声を荒げる。


「あぁ、なるほど、そう言う事か、確かに食料品店のおかみさんもレストランのおなごも皇帝の妾になる事になんら忌避感を感じておらんようじゃったな… しかし、この竜田揚げ、美味いのぅ…カズオ、この竜田揚げは何の竜田揚げじゃ?」


「あ、それは鯨肉でやす、旦那に教えてもらいやした」


「あるじ様、美味いぞ!」


 シュリはニッコリと微笑む。


「今更褒めても…まぁいいや… という訳で、俺はあの童話を広めたのが…カスパルってことは無いと思うからアルフォンソ…今のプリニオだと思うんだよ、で、いつ頃からそんな計画を考え始めたのか探ろうと考えてな、その頃の奴の足取りを探る事が出来れば何か糸口が見えて来るんじゃないかと思って」


「なるほど、分かった、そういうことなら、わらわも一緒に図書館で資料を探すとするか」


 そう言って、シュリは食事の終わった口元をナプキンで拭ったのであった。




連絡先 ツイッター にわとりぶらま @silky_ukokkei

pixiv http://pixiv.net/users/12917968

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