第653話 意外と好意的

 園芸店を出た後、俺たちはそこそこ大きな書店を見つけて中に入る。しかし、店内に入ってみると閉店間際のコンビニのように、本棚がガラガラで疎らにしか本が並べられていない。

 国内の近隣で賄えるものはある程度、品をそろえる事が出来るが、国外から入荷するものはやはり殆ど入ってきていないようだ。


「ガラガラでやすね…」


「少しは期待しておったが、これでは新しい本を手に入れるのは無理そうじゃのぅ…」


 カズオとシュリが店内を見て、そんな感想を漏らす。俺はしけた顔をしてカウンターで項垂れる店主の所へ行って声を掛ける。


「よう、おやっさん、景気はどう…いや、店内を見れば分かるな… あまり…というかかなり悪そうだな…」


 すると店主はむくりと顔を上げて答える。


「お客さんは街の外の人かね? 見ての通り、商品の本が入って来なくて商売あがったりだよ…まぁ、災害直後は巣ごもり需要でがっつりと売れたんだがな」


「あぁ、なるほど、災害後に人が外に出かけなくなったから、暇つぶしに本が売れたってわけだな? でもこれだけ売れたんだったら、そんなしけた面しなくてもいいじゃないか、儲かったんだろ?」


「そりゃ、今まで不良在庫になりかけていたつまらん本まで飛ぶように売れたからな… でも、うちのかーちゃんが、そんなあぶく銭に喜んでいないで、ちゃんと店番しろってうるさいんだよ… 確かに本の入荷がいつ来るか分からないからな…店にいないと他の店に卸されちまう…」


 なるほど、このおやっさんはかーちゃんに尻ひっぱ叩かれて店を開けているという訳か…


「それはかーちゃんの言う通りにしておいた方がいいぞ、俺がここにいるように、これから他にも国外の人間が来るようになって、また交易が回復すると思うからな」


「お客さん、街の外じゃなくて、他国の人だったのか、それなら近々荷物が入って来るかも知れないな… 頑張って店番をするか」


 カウンターに寝そべっていたおやっさんはやる気を出して、すくっと背筋を伸ばす。

 俺が自分の領地からこのカイラウルに来るまでの道中、残っていたアンデッド達や、そのアンデッド達に森の奥から追い立てられた虎も退治しておいたので、交易路の安全が確認されれば、また以前のように交易もすぐに回復するであろう。


 店主のおやっさんがやる気を出したところで、店内を回っていたシュリとカズオがそれぞれ本を一冊携えてやってくる。


「古い売れ残りの本じゃが、シソとバジルの育て方の本があったわ」


「あっしの方もカイラウルの家庭料理の本を見つけやした」


「よく欲しい本が見つけられたな」


 二人にそう返す。すると店主が口を開く。


「シソやバジルの育て方にしても、この辺りの家庭料理のやり方にしても、ここの住民は既に分かり切った事だからな、誰も欲しがらず売れ残っていたんだよ」


「へぇ~ そうなんだ、所でおやっさん、カードショップや食料品店とかはどの辺りにある?」


 俺は二人の本の料金を支払いながら店主のおやっさんに尋ねる。


「お客さん、どちらの方から歩きてきなさった?」


「城の方から」


「なら、そのまま道を進んでいけば、カードショップも食料品店もあるよ、ただ品ぞろえは保証しないけどね…」


 店主はおつりを返しながら答える。


「ありがとな、おやっさん、じゃあ店番頑張れよ」


 そう言い残しながら店を出ようとすると、店主のおやっさんはすっと手を挙げて答えた。


「あるじ様よ、店の店主と話が弾んでおったようじゃが、何を話していたのじゃ?」


 店の外に出るとシュリが話しかけてくる。


「あぁ、あの店主のおやっさん、品物の本が無いから休店しようかと考えていたんだけど、かーちゃんに尻叩かれて店を開けていたそうなんだけど、それはかーちゃんの言う通りにした方がいいって話をしていたんだよ…」


 説明しながらシュリを見ていると、何か感じる事が出てきてそのままじっとシュリを見つめる。


「ん? なんでわらわを見つめるのじゃ? わらわの顔に何か付いているのか?」


「…いや、なんでもねぇ…」


 ふと思うと、あの店主のおやっさんがかーちゃんに尻叩かれて働いている様に、俺もシュリに尻を叩かれてるなと考えた。


 その後、書店のおやっさんから教えてもらった通りに歩き、カードショップと食料品店を見つけるが、カードショップは店を閉めていて、食料品店は人気が少ないが店を開けている状態であった。


「ここも期待できそうにありませんね…」


 カズオは眉に皺を寄せて、店の中へと進んでいく。すると先程の書店とは異なり、威勢の良いおばちゃん店主が出てくる。


「はい! いらっしゃいませ! 新鮮な魚介類を取り揃えてますよ!」


 確かに店先には様々な魚介類が並べられている。


「へぇ~ 魚介類は豊富に取り揃えているんでやすね~ でも、野菜とかはないでやすね」


「えぇ、野菜などの作物は出荷していた村が災害で滅んじゃったからね… お国が人員を派遣して出荷できるようにするって話だけど、まだまだ品は少ないから、朝のうちに売り切れてしまうんですよ」


 そう言っておばちゃん店主は野菜を売っていたであろう空になった大ざるを見せる。


「あぁ、なるほど…朝のうちに売れきれてしまうんでやすね… では、ここいらの特産の調味料とかありやすか?」


「塩ならあるよ!」


「他には?」


「他のものは近隣の村がやられてしまったから作る人がいないんだよ…残っていたとしても、コネのある所に優先されて卸されるからね… うちみたいな所には入ってこないよ」


 おばちゃんは手を広げお手上げといった仕草をする。


「おばちゃん、そのコネってのは、商業ギルドの派閥とか血縁とかそんな感じ?」


 コネの話が気になったので、カズオとおばちゃんの話に割って入る。


「派閥じゃなくて、血縁に近いね… 血縁者の中から皇帝陛下に娘を献上出来た所は何かと優遇してもらえるねぇ~」


「娘を献上って… そんな物みたい… みんなそんなんで納得しているのか?」


「ここは海辺の町だから、男は漁師や船乗りとかで何かと働き手になるけど、女はね…それなら皇帝陛下から優遇してもらうために娘を差し出すところも多いんだよ、まぁ、器量よしでなければダメだけどね… 私ももっと若くて綺麗だったら陛下の所に行くんだけどね…」


 おばちゃんまでそんな事を言い出す。


「でも、そんな事をしてたら男余りになってくるんじゃないのか?」


「あはは! 陛下も別に娘を取って食う訳じゃあるまいし、女の数に困るほど召し上げるわけじゃないよ! それに男どもも陛下に目当ての娘を取られないように、頑張って働いて甲斐性をつけるから良い事づくめよ」


 おばちゃんは笑いながら語る。すると話を聞いていたシュリが俺の袖を摘まんで話しかけてくる。


「あるじ様はここの皇帝の真似するでないぞ…」


「しねえよ…俺は昨日のブラックタイガーの件でNTRは絶対にしないって、心に誓ったんだよ…」


「なんでまた、エビの話が出て来るんじゃ…」


 シュリは怪訝な顔をしながら首を傾げた。








連絡先 ツイッター にわとりぶらま @silky_ukokkei

pixiv http://pixiv.net/users/12917968

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