第645話 たまり場
メイドに客室を割り当てられる際に、シャーロットと引き離されるのではないかと危惧していたが、別にそんな事はなく、俺たち主要人物三人は隣同士の部屋に割り当てられた。まぁ、引き離されたとしてもシャーロットの侍女として変装したネイシュを付けているので、問題は無いが少し拍子抜けである。
そして、俺たちに割り当てられた部屋であるが、客室と言っても現代感覚の客室などではなく、ちゃんとこの時代の上級貴族用の客室である。具体的にどの様に違うかというと、冒険者が良く使うような民間の客室は部屋の間取りがトイレ風呂の無いビジネスホテルのようなものだが、上級貴族用の客室は、現代風に言うとたまにテレビに出てくる芸能人が住むペントハウスのようなものだ。トイレ風呂はもちろんのこと、部屋に入ってすぐ、大きなリビングがあり、ベッドルームがいくつかあって、料理を作ることが出来るキッチンまで用意されている。その上で執事や侍女・メイド用の部屋も別にあってかなり広い間取りになっている。家族で暮らせそうなこの部屋が基本上級貴族一人用の部屋なのだ。
「うちのカローラ城も元王族が住んで居ただけあって、豪華な部屋はいくつかあったが、やはり、本家の王族が住む城は凄いな~」
部屋を見渡していた俺は独り言で感想を呟く。するとノックと同時に部屋の扉が開かれ、支援物資の納品を行っていたシュリやカローラ達が部屋の中になだれ込むように入ってくる。
「おぉ~ ここがあるじ様の部屋か」
「やはり私の部屋より大きいですね…」
「旦那ぁ、お茶でも入れやしょうか?」
「わぅ! イチローちゃま!」
「私も失礼しますね、イチロー殿~ あと、カズオ殿は何かお茶のあても作ってもらえますか?」
シュリ、カローラ、カズオにポチ、そしてクリスの五人はいつものカローラ城の談話室のように、俺の部屋のリビングで我が物顔で寛ぎ始める。
「おいおい、お前ら…いくらなんでも寛ぎ過ぎだろ… ってか、自分たちの部屋があたえられなかったのか?」
俺はソファーの両隣に座っているシュリとカローラに尋ねる。
「いや、ちゃんと与えられたぞ、あるじ様の部屋程ではないがな… そんな部屋に一人でおってもつまらんから、こうしてあるじ様の部屋にやってきたのじゃ」
シュリはそう答えるとテーブルの上に置いてあったフルーツの皿からリンゴを掴むとそのまま噛り付く。
「私も似たようなものですね、ゲームをするにしても旅先ですから、ステッキみたいな充電の必要なゲーム機は使えませんし、いつものカードゲームでもしようかと」
そう言って収納魔法の中からカードとどこで手に入れたのかカードのチラシを取り出す。
「わぅ、ポチはオーディンと離ればなれになったから、とりあえずいちろーちゃまのところへきた」
ポチはそう言って俺の膝をよじ登って、ちょこんと膝の上に座る。
「私は小腹が空いたので、イチロー殿のところへ来れば何かあると思って…」
クリスはシュリと同じ果物の乗った皿に手を伸ばしてリンゴを齧り始める。
「クリス、この後、夕方から俺たちの歓迎の為の晩餐会があるんだぞ? あんま、食う…いや、お前は食っといた方がいいな… 晩餐会で卑しい食い方をされたら俺が恥を掻く…」
「何を言う、これでも私は元貴族令嬢なのだぞ? 食事のマナーぐらいは心得ている」
クリスは口にしたリンゴで頬をリスの様に膨らませながら答える。
「自分自身で『元貴族令嬢』とか言うところが貴族令嬢である自覚を忘れてんだよ… それにリンゴは逃げないから、急いで食って頬をリス見たく膨らませるな」
「いや、速く食べないとシュリ殿に次のリンゴを食われてしまうではないか!」
「お前…そういう所だぞ? 皆の分を残そうという考えは無いのか?」
シュリの方は別にクリスと競うつもりはなく、リンゴを手で半分に割って口をつけてない方を俺の膝の上のポチに渡している。
そんな時に部屋の扉が再びノックされて今度はミリーズが姿を現す。
「あら、急いできたつもりだったけど…みんなに先を越されたわね…」
リビングで皆が我が物顔でくつろぐ様子に、ミリーズは少し苦笑いを浮かべながら中に進んでくる。
「ん? 急いでって事は何かあったのか? ミリーズ」
俺は膝の上にポチ、両隣にはシュリとカローラがいて動けないので、首だけミリーズに向けて尋ねる。
「ウフフ、そう言う訳ではないよの、旅の間、イチローとは別々の馬車だったから、たまにはイチローの隣を確保しようかと考えていただけよ」
そう言ってミリーズは別のソファーに腰を降ろす。
「ん? それなら、わらわが場所を代わろうか? ミリーズ殿」
「わぅ! ポチも場所かわってあげる!」
そんなミリーズにシュリとポチが声をあげる。
「ウフフ、別にいいのよ、特にポチちゃんに代わってもらうのは、この歳になるとちょっと恥ずかしいかしら」
「別に俺は構わんのだが…」
「イチローは歳相応の節度と恥じらいを持って…」
シュリとポチには笑顔で答えていたのに、俺だけは怒られた。なんでだ…
すると、再び部屋の扉がノックされて、今度はシャーロットがネイシュとアルファー、そしてオーディンを引き連れて姿を現す。
「イチロー様、失礼いたしますわ」
「あんっ!」
「あっ! オーディンちゃんだ!」
ポチはオーディンの姿を見つけると、俺の膝の上からぴょんと飛び降りて、パタパタと足音を立ててオーディンの所へ駆け寄っていく。
豆柴のオーディンは最初こそフェンリル状態のポチに尻尾を巻いて涙目になって脅えていたが、ポチが幼女の姿で構ううちに最初の恐怖心も消えて友達のように仲良くなったのだ。ここカイラウルに来る道中でも、二人で走り回る姿をよく見かけていた。
そう言う事で、俺の膝の上から降りたポチは今、オーディンとじゃれ合っている。空白になった膝の上を手でパンパンと叩きながらミリーズを見ると、無言で首を横に振られた…まぁ…仕方ないか… 俺は気を取り直してシャーロットに向き直る。
「それでどうしたんだ? シャーロット、何かあったのか?」
「いえ、何かあった訳ではなく、今後の事と… イチロー様の部屋なら皆がいそうなので来ただけですわ」
なんか、俺の居場所が皆のたまり場の様に思われているのか…実際そうなんだが…
「あっ、シャーロット嬢もお越しになられやしたか、丁度、みんなの分のお茶をいれていたところなんでやすよ」
そう言って、カズオが肉メイドのヤヨイに手伝ってもらいながら、みんなの分のお茶を運んでくる。
「ん~ どういう訳か、メンバー全員集まったし、カズオがお茶を入れてくれたから、今後の作戦会議でも始めるか…」
そう言う訳で、俺たちは晩餐が始まるまでの間、作戦会議を執り行う事になったのだった。
連絡先 ツイッター にわとりぶらま @silky_ukokkei
pixiv http://pixiv.net/users/12917968
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