第646話 部屋割り
メンバー全員が集まり、カズオのお茶が行き渡った所で、会議を始める訳だが、最初にミリーズが動く。
「先ず念のために盗聴対策をするわね」
ミリーズがそう言って手を掲げると、俺たちを包み込むように透明の球体の力場が発生する。
「この力場は盗聴対策だけではなく、簡易的な透視対策もしているわ、力場の外からは中の様子は見えないから、読唇術でも会話内容を読み取ることは出来ないわ」
「へぇ~ 便利な魔法を知ってたんだな…」
この魔法さえあれば、サキュバスが襲って来た時やアイリスとの廊下の一件も皆から文句言われなかったんじゃないか?
俺はそんな事を考えてミリーズを見ると、何故か、ミリーズは両手の人差し指で俺に向けてバツ印を作っていた。
「だめよ、イチローには教えないわよ」
「なんでだよ…」
「これさえあれば、アイリスやサキュバスの件で怒られずに済んだと思っているでしょ…そんな事の為の神聖魔法じゃないから」
「………」
シュリに続いてミリーズも俺の思考を読む精度が上がって来てるな…
「まぁ、いいや…それよりここでの対策会議を始めるぞ」
俺は気持ちを切り替えて皆を見渡す。中には口をもぐもぐさせている者もいるが、皆は真剣な顔つきで俺を見返す。
「先ずは部屋の人員配置というかチーム分けだな、主要人物が三部屋に分かれているから三チームに分けようと思う。それぞれのチームは、シャーロット、ミリーズ、俺だ」
シャーロットとミリーズはコクリと頷く。
「で、シャーロットの部屋についてもらうのがアルファーとネイシュだ。後身の回りの世話の為にメイドのナギサについてもらう。アルファーとネイシュは常時シャーロットに張り付いて護衛を頼む、特にアルファーは物理的な警戒、ネイシュは毒物などの対処が主な担当だ。ナギサはシャーロットが部屋の外に出かけている時に部屋に何か仕掛けられないように警戒してくれ」
俺の言葉にシャーロット組のメンバーはコクリと頷き、シャーロットは自身の護衛や世話をしてくれるアルファーやネイシュ、ナギサにぺこりと頭を下げる。
「自身の身も守れない私の為にお世話をお掛けしますがよろしくお願い致します…」
そんなシャーロットに俺は注意の言葉を掛ける。
「シャーロット、アルファーやネイシュが護衛してくれると言っても、対人、対物、対毒などだけだ、対魔法や精神攻撃などはシャーロット自身が対処しなければいけない、ディート達が開発してくれた護符も万全だとは思わず、気休め程度に考えて常に警戒を忘れないようにしてくれ」
万が一の事を考えて、シャーロットにはディートを中心にプリンクリンとアソシエが協力して魔法の護符を作ってもらって持たせている。ゲームなどではそういうアイテムは永久的に使えるのものだが、実際にはそうは行かない。強力だが一回限りの使い捨ての消耗品か、魔力を電池代わりに弱い対策をしてくれるものか、警報機代わりのものしか作れないのだ。
今回の場合は、コストの関係上一回限りの使い捨てのものを一つと、魔力で動く警報機代わりのものを用意して、狙撃や毒、魔法、そして精神攻撃をされた時に、護符が反応し、シャーロットが即座に、ミリーズから教えてもらった対策魔法を掛ける手筈になっている。それでも、その対策魔法を突破してきたときに使い捨ての強力な物が発動するようになっているのだ。
「分かりました、イチロー様、気を抜かぬよう心がけますわ」
そう言って、シャーロットは胸元の護符を握り締める。
「うん、今回だけではなく、それらの対処は常日頃から、息をするように無意識に行えるようにしておいた方がいい、組織のトップの為政者に対して害意を向けてくるのは何も魔族だけとは限らん。むしろ人間の方がそう言う事をしてくる方が多い」
俺の言葉にシャーロットの顔が更にキュッと引き締まる。
「為政者になる事、外の世界で過ごす事は厳しい事ですのね…今までの私は…優しい人々に取り囲まれてゆりかごの中にいたのだと分かりましたわ…」
「いや、別に外の世界の人間の全てが他者に害意や悪意を持っている訳じゃない、むしろ行動を伴った悪意を持つ人間は一握りだ。しかし、その一握りが命取りになってしまう…」
「なるほど… そこで私が命を落としてしまえば、私が守りたかった人々までその害意と悪意が及ぶと言いたいのですね…」
「ん? あぁ…そうだな…」
そこまでは考えていなかったが、シャーロットがそう考えてくれるのなら良いか…
「それでミリーズは聖女と言う事で、念のために護衛としてクリスを付けようと思うがいいか?」
茶菓子を貪っているクリスはほっといてミリーズに尋ねる。すると、ちらりとクリスを見た後、溜息を漏らしそうな顔で俺に向き直る。
「こんなんだが、悪運は強いから鉱山のカナリア程度には役に立つ…はずだぞ? 後メイドにヤヨイをつける」
「分かってるわ…別に子守を押し付けられたなんて思ってないわよ…」
思っていたんだな…ミリーズ…
「という事はわらわやカローラはあるじ様と同じグループなのか? 普段なら別にそのグループ分けで良いが、それではシャーロットやミリーズ殿の警護が少ないのではないか?」
話を聞いていたシュリが尋ねてくる。
「あぁ、基本、シュリ、カローラ、ポチは俺のグループだが、交代でシャーロットとミリーズの護衛もしてもらう」
「なんで、そんな面倒な事をするのじゃ? 初めから割り当てれば良いではないか?」
シュリは片眉をあげる。
「そこは、相手にパターンを読まれないようにする為なんだ」
「パターンを読まれないようにする? それはどういうことじゃ?」
自分で説明しようと思ったが、専門のネイシュがいるのでネイシュに向き直って声を掛ける。
「ネイシュ、説明してもらえるか?」
「うん、分かった」
ネイシュは一歩進み出て皆に向かって説明を始める。
「どんなに重厚で完璧な警備をしていても、同じ人間、同じ時間、同じルートで警備していたら、その警備の癖を見抜いて対策をとることが出来る… でも違う人間だったり、別の時間、他のルートをとたっりすると対策が出来ない… だから、警護する時は同じ人間ばかりでは危険…本人は十分気を付けていても隙を見せる事になる。」
「なるほど、そういうことなのか」
シュリは納得して頷く。理由を理解してもらったところで、俺はシャーロットとミリーズに向き直る。
「後、もう一つシャーロットとミリーズに付け加える事があるんだが…」
「なんですか? イチロー様」
「私とシャーロットに付け加える事って?」
「二人はトイレをする時に、扉を開けたままするように」
「はぁ!?」
俺の言葉にミリーズが立ち上がって反応する。
「もしかして、イチロー! さっきの盗聴防止魔法を教えて上げないって言ったから、その仕返しのつもりで…その…国境の森の時のような目に合わせるの!?」
「ちげーよっ!! そんな嫌がらせの意図はねぇよっ!! トイレをする時が暗殺されたり誘拐される恐れがある一番危険な時なんだよっ! そうだろ? ネイシュ!」
俺自身だけの弁明では納得してもらえない可能性もある為、ネイシュに同意してもらうべく尋ねる。
「うん、イチローの言う通り、トイレは密室で油断する場所だから一番危険…横から後ろから上から下から、どこから来るか分からないから予測がつきにくいし、用を足している最中だからすぐに対処もしづらい、後、何かあっても仲間に気づかれない… 誘拐や人身売買を行う連中はトイレに入った途端、トイレの中身ごと入れ替えたりする」
ネイシュはトイレの危険性について説明する。この事はネイシュがトイレをする時に警戒していたり、ドアを半開きにしていたりしたので、理由を聞いた事があったのだ。
「な? ネイシュの言う通り、暗殺や誘拐の危険性があるからであって、別にいけずしているわけではないんだぞ?」
俺はミリーズにドヤ顔を向ける。
「…分かったわよ… トイレを警戒すればいいんでしょ…」
ミリーズは納得して腰を降ろす。
「それぞれのグループの者は、仲間のトイレの時に暗殺されかかったり誘拐されないように注意してくれ」
俺が皆に言い広めると、ミリーズは再び顔を上げクリスを見る。そして、はぁと溜息をした後、ミリーズ担当のメイドのヤヨイを見る。
「悪いけど、トイレの時はお願いね…」
その言葉にヤヨイは「はい」と快く答える。
「じゃあ、歓迎の晩餐が始まるまで準備をしておくか…」
俺たちは晩餐に向けた準備を始めたのであった。
連絡先 ツイッター にわとりぶらま @silky_ukokkei
pixiv http://pixiv.net/users/12917968
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