第644話 凱旋パレード

「シャーロット様の帰還の凱旋よっ!!!」

「我々の為に単身他国に赴いて、支援物資を持ち帰って下さった!!!」

「きゃー! シャーロット様ぁ~!!!」

「おぉ! 我らの皇女シャーロット様だ!!」

「なんて神々しくお美しい方!!」



 シャーロットはカイラウルの城に向かう道をバス馬車の屋根の部分に立って、道を両脇の人々や建物から顔を出す人々に笑顔で手を振りながら凱旋パレードを行っている。



「あれ!? シャーロット様の隣にいるのはもしかして!? 聖剣の勇者のアシヤ・イチロー様!?」

「そんな凄い方がシャーロット様のとなりに!?」

「それだけでは無い! シャーロット様の隣にいる女性はもしかして、聖女のミリーズ様では無いのか!?」

「うそ! 本当にミリーズ様だわ! 私、ホラリスで買った肖像画を持っているから分かるわ!!」

「シャーロット様が今話題の聖剣の勇者と聖女を引き連れて帰還なさったのか!! これはカイラウル始まって以来の偉業だ!!」



 シャーロットが凱旋パレードを行うにあたって、狙撃などの暗殺に対処する為、俺とミリーズが付き添うふりをして横について警戒しているのだが、俺の聖剣の勇者とミリーズの聖女というネームバリューがシャーロットに箔を付けている。それに後ろに連なる支援物資の荷馬車とくれば、平日に突然、盆と正月とゴールデンウイークが来た様な物だろ。


 しかし、残念だな~ これがシャーロットの凱旋パレードでなければ、この後、俺に「きゃー!イチロー様!」「抱いてぇ~!!」「私を孕ませてぇ~!!」って言い寄ってくる女の子たちをBBQキングのように食べ放題だったのに…


 そんな事を考えながらシャーロットと一緒に街の人々(主に女の子)にキラキライケメン爽やかフェイスで手を振っていると、ミリーズが同じように笑顔で人々に手を振りながら、俺だけに聞こえる小声で何か言ってくる。



「イチロー…何か淫らな事を考えているでしょ… 顔に出ているわよ…」



 その言葉に内心ドキリとするが、極めて平静を装ってミリーズに答える。



「べっ別に…女の食べ放題とか…そんな事考えてねぇよ…」


「だから、今度は口に出ているってば… シャーロットの凱旋パレード中よ…」



 ミリーズに言われて慌てて口元を押さえようとするが、ぐっとこらえて笑顔で人々に手を振り続ける。



「あら…そこの兄弟、可愛いわねぇ~ 創作が捗るわぁ~」



 そんなミリーズも手を振る幼い兄弟の姿を見つけて感想を口にする。



「ミリーズ、お前だって妄想を口にしているじゃないか…」


「いいのよ私は… ちゃんとパレード用の雄マシ…いえお澄ましフェイスを維持しているし、口にしている言葉もただの一般的な感想にとどめているから…」



 ミリーズはそんな言葉を口にしながら聖母のように慈愛に満ちた表情で、幼い兄弟に手を振り返す。



「イチロー様にミリーズ様…」



 そんな時に俺とミリーズに挟まれていたシャーロットが、民たちに対しての笑顔を崩さずに声を掛けてくる。



「その…お二人に私や私の祖国の為に協力して頂いているのは重々承知しておりますが… 私の民で淫らな妄想を膨らませるのは…止めて頂けるかしら…」



 シャーロットは俺たちを見ずに民に顔を向けたままポツリと呟く。



「「はい…すみません…」」



 俺とミリーズは二人でそう答えた。




 そうして俺たちはカイラウルの街を二周ほど回って凱旋パレードを行い、最後には王城へと辿り着いてパレードは終了する。


 城に到着してからは、支援物資の納品や納品目録との照らし合わせはシュリやカローラ、アルファーに任せて、シャーロットと俺とミリーズ、そしてネイシュは応接室に通される。

 そこで再びプリニオに接待を受けるのだが、そこで再び街の入り口と同じシャーロットの支援の取り付けに対する感謝と称賛の言葉がシャーロットや俺たちに送られる。


 シャーロットが犬のオーディンだけを伴ってほぼ単身といっていいような状況でカローラ城を訪れた時や、その後、カイラウルからの使者…たしかアドンだったけな…それともサムソンだったけな…どちらでもよいが、その使者もシャーロットが俺との所へ輿入れしたという事になっていたはずだ。


 しかし、目の前のプリニオはそんな事は最初からなかったかのように、シャーロットが単身で支援と取り付けたとその功績を褒め称える。つまり、俺の所への輿入れなど無かった事にしたいのだ。


 でも、どういうつもりなのであろう…プリニオの前のアルフォンソと魔族の話では、俺に女を貢ぎ続けて女狂いにさせてより多くの女を手に入れる為には、王座を狙わねばならないと囃し立て焚きつけるつもりであったはずだ。


 ならばシャーロットを祖国を救った英雄として担ぎ上げるよりも、シャーロットを娶ったことにした俺を担ぎ上げて、王座を着く事を唆すのが手だと思うのだが、そう言った素振りは全く見せない。


 もしかすると、俺を魔族側に勧誘することを諦めて、シャーロットを次なる傀儡としてカイラウルを魔族の橋頭堡とするための地固めをするつもりなのか?


 シャーロットを待ちわびていた臣下の完璧な態度をとるプリニオからは全く意図が読みとれない… もしかすると、俺たちがどこまで情報を掴んでいるか探っているのか?


 だとしたら、この接待も気が抜けないし、不用意に感情を表に出す事も出来ない…そこから腹を読まれてしまう…



「どうかなさりましたか? 勇者イチロー様?」



 そんな俺にプリニオが急に声を掛けてくる。プリニオは俺の感情の揺らぎに気が付いて声を掛けてきたのかと思い、心臓がビクンと弾む。



「いや…なんでもない… 私は今まで冒険者をしていて、まだ領主や貴族という立場に慣れておらず…こうした公式の場での空気に緊張…していただけです…」


 

 俺は口を開きながら思いついた言い訳をタジタジになって口にする。



「あぁ、左様でございましたか…それは聖剣の勇者様を緊張させてしまって、大変申し訳ございません… 私如きなどに緊張なさらず、もっとゆったりしてもらって結構ですよ?」


 プリニオは笑顔を作ってそう述べるが、それはもっと油断してボロを出せと言う事なのであろうか…


「まぁ、何事にも初めてはございますし、緊張なされるのも無理はないでしょう… それに長旅のお疲れもあるでしょうから… それではご滞在して頂く部屋を用意しておりますので、夜の晩餐までそちらでお休みをなされますか?」


 プリニオがそう言って部屋の隅に控えるメイドに目配せを送ると、隣の控室からさらにメイドが出てくる。


「お客人様方はお疲れだ。お部屋へご案内するように」


「お客様、それではお部屋にご案内いたします…」


 そうして、俺たちは客室へと案内されるのであった。





連絡先 ツイッター にわとりぶらま @silky_ukokkei

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