第642話 集団農場

 湖の一件から数日、幾つもの村や集落の跡地を通り過ぎてきた。湖の近辺では誰もいない廃墟の村や集落ばかりであったが、カイラウルに近づくにつれある程度まとまった人影を見るようになる。


 現在状況の聞き込みや支援物資の受け渡しの為、馬車を停車させて炊き出しを行ったのだが、その時に妙な事に気が付く。村や集落を維持するだけの頭数は揃っているのだが、この構成が明らかにおかしい。

 それというのも、普通なら夫婦や親子などの家族単位で行動するのが常だが、その集落の行動単位が子供だけだったり、老人だけだったり、女だけだったり、またそれらのまぜこぜの他人同士の寄せ集めのような感じなのだ。見ていて今日初めてあった者同士がバイトをしているような感じだ。


 そこで炊き出しをするついでに聞いてみると、どうやら今回の災害で孤児になったり身寄りを失ったものを集めてコルホーズ?いやソフホーズだったか、ソフホーズの様な集団農場をしていることが分かった。


 この事に関しては俺もシャーロットもどう判断したらいいのか微妙だった。それと言うのも、元々現代日本人の俺の感覚では、被災民というのは国によって手厚く保護をされて、元の生活に戻れるように支援するのが普通であるが、ここは現代日本とは異なる異世界である。

 また、死んだ人間は生き返りはしない、なのでここに集められた孤児や身寄りの失った者には被災前の以前の生活は二度と戻ってこないのだ。

 そんな者たちが二度と戻らない日々を思いながら無為な日々を過ごさせるほど、この世界は甘くはない。だから、そんな人間を集めてこのような集団農場で働かせて、忙しさでつらい記憶を思い起こさせないようにするのも理解は出来る。


 現に、この農場に集められた人々は最初こそ面識のない他人同士であったそうだが、徐々に知り合いや同僚という意識が芽生え始め、中には親を失った孤児と子供を失った夫婦、子や孫を失った老人が疑似家族を形成するに至ったケースもあるそうだ。


 つまり、現在行われている政策は至極当然で、理にかなっている。


 しかし、その事が俺とシャーロットを悩ませているのも事実だ。それと言うのもこの政策を立案し実行しているのは、魔族と繋がっていたアルフォンソであり、それを引き継いでいるのが第二のアルフォンソとなったプリニオという男で、いわば敵だ。

 だが、アルフォンソにしろ実際魔族と繋がっているのか分からないプリニオにしろ、魔族と繋がっていると知っているのは俺たちだけであり、他の者たちは一切知らないのだ。


 そんな状況で俺たちが、プリニオは魔族の手先で奴のやっている事は悪い事だ!と声を上げた所で、『は?何言っての?俺たち、生きがいと新しい家族ができていますが?』って事になりかねない。

 いっその事、この農場が『北方の拳』に出てくる収容所のように、ヒャッハー共が鞭を振りながら民たちを労働させていたら解放してプリニオを批判する事もできたが、そんな事は無いんだよな…



「参りましたわね… 収穫を終えていない田畑を残して壊滅した集落に、被災民を集めて集団農場を経営する… 至極当然で理にかなった政策で非の打ちどころの無いものに思えますわ…」


 集団農場の人々の様子を目の当たりにして、シャーロットがそう漏らす。


「確かにそうだよな…逆に普通の為政者よりよくやっている様に思えてくるな…」


 シャーロットの言葉にそう返す。


「本当にアルフォンソやプリニオという男が魔族と繋がっているのかと思えるぐらいですわ…」


 そう言ってシャーロットは俺と俺の後ろにいるネイシュを見る。


「その点は間違いない情報だ。ネイシュ、アルフォンソが話している相手というのがヒドラジンって奴だったんだよな?」


 俺は肩越しに振り向いて後ろのネイシュに尋ねる。


「うん、確かにアルフォンソは、使い魔のカラスに『ヒドラジン様』と言ってた…間違いない」


 ネイシュは自信に満ちた顔で答える。その言葉に俺はシャーロットへと向き直る。


「この『ヒドラジン』という名前について、この世界を陰で守っていた特別勇者のトマリさんに確認したんだが、魔族の幹部で間違いないそうだ。念のため、マグナブリルに頼んで、アルフォンソの周辺にそんな名前の人間がいないか確認してもらったが、そんな名前の人間はいないとの事だ。だから、魔族の幹部と話していたという事で確定だ」


 俺がそう答えると、シャーロットは「はぁ…」と困った顔をして嘆息する。


「いっその事、間違いであればと思いましたけど… 尚更、面倒な状況ですわね… 人道的にも特に問題は見当たらず、政策的にも良い手段に思える… 魔族が関わっている事なのに非の打ち所がありませんわ…」


「それに関しては俺も同感だ…」


「今更弱音を吐いてはいけませんけど、こんな者を相手に私は政権を奪う事が出来るのかしら… 心配になってきますわ…」


「確かにそうだけど…心配すんな、相手はきっと尻尾を出すはずだ」


 弱気になっているシャーロットに気休めだが励ましの言葉を送る。


「敵の油断を待つという、もどかしい話ですけど…それしかありませんわね…」



 ………



 その後の旅も同様に点在する集落を見つけたのであるが、どこも同じような集団農場が経営されていた。ただ、最初の集団農場と全く同じかと言えばそうではなく、男だけの集団農場、逆に女だけの集団農場というものもあった。


 炊き出しするついでに今までの集団農場と同じように住民やそこの管理者に事情を聞いてみると、管理者が言うには、夫婦そろっている者、また小さな子供、歳をとった老人など、性犯罪の心配の無い者は同じ集団農場に集められ、独り身の男性と女性と分けて性犯罪がおこらないように配慮をしているとの事だった。


 まぁ、確かに納得できる説明だが…俺の感覚からするとどうも腑に落ちない所が一か所あったんだよな…なんて言うか、他の虫がつかないように見た目の良い女の子の純粋培養をしているような集団農場があった。

 

 あと、男だけの村で、姫様扱いされている男がいたが… その事も思う所はあったが口にしなかった… でも、ミリーズだけは察しがよく鼻息を荒くしていたが…


 そして、そんな事がありながらも俺達一行はようやく首都カイラウルへと差し掛かったのであった。







連絡先 ツイッター にわとりぶらま @silky_ukokkei

pixiv http://pixiv.net/users/12917968

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