第636話 RE:黒歴史の村

※九州の方、大きな地震が起きたようですが、大丈夫ですか?


「この馬車、前に一度来なかったか?」


「おまえ、忘れたのか!? 魔獣が襲って来た後、カイラウルの貴族は助けに来ないのに、わざわざイアピースから駆けつけて下さった貴族様の馬車でねぇか!」


「あぁ!思い出した! 立派な貴族の領主さまとその奥方様がわしらに炊き出しをなってくれたんだったな!」


「んだんだ、あんときのお貴族様、そりゃー色っぺい男前の貴公子で、わたしゃ~ 10年ぶりに女の部分が濡れる思いだったべ」


「奥方様もロリっ娘からぼっきゅぼんの色気ムンムンにオークの様な奥方も取り揃えておられましたな~ いや~羨ましい~」


 馬車の外から爺さん婆さんの話し声が聞こえてくる。どうやらちゃんと俺たちの事は覚えている様だ。



「なぁ、俺の着付けに問題ないか?」


 ティーナから貰った『麗し』の衣装を纏った俺は皆に尋ねる。


「何も問題ないですよ、イチロー様」


「わらわと肉メイドのヒカルの二人で着付けを手伝ったからのぅ」


 カローラとシュリがそう答える。


「俺の方は大丈夫か、で、カローラの方はいつものゴシックロリータのドレスだから問題なし、次に…」


 俺はシュリへと目を移す。シュリは以前は緑のワンピースと農作業をする時の作業着しか持っていなかったが、最近、何かと外部との交流や正式な場に出る事もあるので、ドレスを仕立てさせたのだが…その衣装の破壊力が凄い…


 シュリの巨乳は服の上からも分かる大きさだが、ワンピースをふわりと被せるように着込んでいるので、まだ我慢することが出来る… しかし、今着ているドレスは胸元が乳袋状態になっており、大きさも形も一目瞭然だ!

 良かったな…シュリ… これから爺さん婆さんの前に出るのでなかったら、鷲掴みにしていた所だぞ…


 まぁ、ともあれ、ちゃんとドレスを着ていたらあの時、村を襲撃した一味だとは思われないだろう…


 そして、俺は最後の問題の人物へと視線を動かす…



「どうですか? 旦那様♪ 私、似合ってます?」



 カズオが流し目をしながら、衣装と容姿について尋ねてくる。



「いや…キモい事には変わりないが… 以前の見ていられないキモさから、見れるキモさにレベルを上げてきたな… 正直スゲーよ… あと、俺の事を『旦那様♪』って呼ぶな、違う意味に聞こえるだろ」


「では…どのようにお呼びすればいいんですか… その…ご…ご主人様♪…とかがいいですか?」


 瞳をうるうるさせて、身体をもじもじとしながら恋する乙女の仕草で聞いてくる。


「…止めれ…俺にそんな仕草を向けるな…鳥肌が立つ… ってか、立ってきた… そこは普通に領主さまとかでいいだろ… なんで萌えキャラが言ってきそうな呼び名を的確にチョイスするんだよ…」


 そこへ足元にいる幼女の姿に人化したポチが声を掛けてくる。


「わぅ! いちろーちゃま! ぽちはこの恰好でだいじょうぶ?」


 ポチは幼稚園児が着るようなパステルブルーのスモックを着てぴょんぴょんと飛び跳ねている。


「あぁ、可愛くてよく似合っているぞ~ポチ~」


 俺はポチを抱きかかえてわしわしと撫でてやる。


「わぅ! イチローちゃまに褒められた!」


 ポチは身体全身を使って嬉しさを表現する。


「あるじ様よ、そろそろ馬車を出んと爺さん婆さんたちが痺れを切らすぞ、ほれ、ポチはわらわが預かるから、外にでるがよい」


「おぅ、そうだな、じゃあシュリ、ポチを預かってくれ」


 ポチをぬいぐるみの様にシュリに渡すと俺は扉へと向き直る。そして、十八番のキラキライケメン爽やかフェイスを装って、扉を開けて外へ出る。



「キャー! やっぱりあの時の貴公子様よぉぉぉ!!」

「イチロー様よ! イチロー様だわ!!」

「あぁ…麗しのイチロー様に再び会えるなんて…夢のよう…」

「イチロー様! こっち向いてぇぇぇ~!!」

「あぁぁ!!!! 自分が女であることを思い出していくわっ!!」


 外に出た途端、婆さんたちのまるでアイドルの追っかけのような黄色い声援が俺を出迎える。


 マジで言ってることやってることが、アイドルの追っかけそのままだが、見た目は婆さんなんだよな… ディナーショーとかやってる杉良太郎とか松平健とかこんな気持ちなんだろうか…


 婆さんたちの勢いに気圧されるが、俺は気を取り直して、白い歯をキラリと光らせて微笑で婆さん達の声援に答える。



「キャー!!! イチロー様が!! イチロー様が!! 私に微笑みかけてくれたわっ!!」

「どうしましょう!! 私、濡れてきたわっ!!!」

「イチロー様の微笑みだけで妊娠してしまいそうよっ!!!」



 こえーよ…マジこえーよ…だんだん婆さん達の姿が漫☆画太郎の描く婆さんたちに見えてくる… まぁ、俺も爺さん婆さん達が生きていた事に画太郎の「生きとったんか!ワレ!」の顔になりそうになったが…


 そんな様子に再び気圧される俺に、シュリが小声で背中を押してくる。


「あるじ様よ、後ろがつっかえとるんじゃ、早う前に行ってくれ…」


「あぁ…」


 婆さんたちに襲われそうで怖いが、シュリにせっつかれて仕方なく前に進み出て、今度はシュリが爺さん達の前に姿を現す。



「乳神様じゃ!!! 乳神様が御光臨なされたぞ!!」

「おぉぉぉ!! たわわな乳を持つ乳神様じゃ!!」

「奇跡じゃ! なんという大きさと形じゃ! 息子が心を開いておる!」

「その者、乳袋の衣をまといて 我らの里に降り立つべし…」

「荒らされた大地に炊き出しを行い ついに人々を復興の気運にみちびかん」

「古き言い伝えはまことであった!!」


 

 爺さん達は爺さん達でシュリの乳袋ドレスに感涙の涙を流して、シュリの乳に祈りを捧げ始める。


 シュリもその爺さん達の光景に気圧されてギョッとする。そして、どうすればいいかと俺に目配せしてくるが、諦めろと言わんばかりに降りろと合図を送る。そうして、シュリが馬車から降りると次にカローラが姿を現した。



「うぉぉぉぉ!! カローラちゃん!! 俺だぁぁぁ!! 俺を見てくれぇぇ!!」

「L・O・V・E! あいらぶ! カローラ!!」

「カローラちゃんに会えたことでまた100年生きられる!!」



 シュリの場合は、偶然出会った有名人に騒ぎ立てるという感じだったが、カローラの場合はなんだか出待ちしている痛ファンって感じだな…現代日本でもそうだったけど、カローラって変にファンが出来るよな…


 そして、カローラに続いて最後にカズオの女装した姿…カズコが姿を現す。



「あっ! カズコちゃんだ! カズコちゃーん!!」


 一人の老人がカズコに手を振り始める。カズコもその老人に笑顔で手を振り返す。


 …カズコにもファンがいるんだな…


 

「おっ! あちらの馬鹿でかい馬車からは聖女ミリーズ様が出て来たぞ!」

「この前は肩もみしてくれた娘さんもおる!」

「ややや? それと、新しい娘さんもおるのぅ~ どなたじゃろ?」


 爺さん婆さんたちがバス馬車から降りて来る、ミリーズやネイシュ、そしてシャーロットに目をつける。


 すると、シャーロットが爺さん婆さんの村人たちの前に進み出て、恭しく一礼して自己紹介を始める。



「初めまして皆さま! 私はカイラウル帝国、皇帝カスパル・シーサレ・カイラウルが娘、第39皇女のシャーロット・プリンセッサ・カイラウルと申しますわ!」



 シャーロットの凛とした声が辺りに響き渡る。




「えっ!? お貴族様ではなく、お姫様!?」

「しかも、うちの国のお姫様!?」

「一度も貴族が来た事も無いのに、なんで突然、お姫様がくるんじゃ?」


 

 爺さん婆さん達は驚きと困惑で目を丸くする。



「私は魔獣の侵攻とその後のアンデッドの大軍後のカイラウルの窮状を救援をしてもらうために、隣国イアピースのアシヤ領に支援のお願いに行ってまいりましたの!」


「えっ!? 姫様自ら、わしらの為に隣国へ!?」

「わしらは見捨てられたものだと思っておったのに!!」


 爺さん婆さん達はさらに目を丸くする。



「見て下さい!! 心の広いアシヤ領領主のアシヤ・イチロー伯爵は、私たちの為にこれ程の支援物資をご用意して下さりましたわ!!」



 シャーロットはそう言って、バス馬車の後ろに連なる支援物資の馬車を指し示す。



「だから皆さま安心してください! 神も、私も…そしてイチロー様も貴方たちを見捨てたりは致しませんわ!」


 

 シャーロットの声と共に、爺さん婆さん達の歓声が沸き上がったのであった。



連絡先 ツイッター にわとりぶらま @silky_ukokkei

pixiv http://pixiv.net/users/12917968

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