第635話 久々の旅路

 カローラ城を出発して一日が経った。ぶっちゃけな所、ただカイラウルに行くだけであれば、飛行魔法で飛ぶなりドラゴンになったシュリに乗せてもらうなりした方が圧倒的に早い。以前なら荷物の運送があるので、人だけの輸送の時に限られたが、今では収納魔法があり、使える人員も俺とシュリとカローラ、後同行させているミリーズとネイシュも使えるので、収納魔法の中に支援物資を詰め込む事も出来る。


 だが、収納魔法自体、秘匿技術であるので他人しかも他国の者には見せる事は出来ない。それに今回の事柄が公式の使節団と言う事なので、わざわざ支援物資を積んで練り歩く事も外交交渉のルールに示されている、いわば儀式のようなものだ。


 俺の馬車と、シャーロット達の乗るバス馬車はビアン・ロレンス・ディートの最新技術が詰め込まれているのでもっと速い巡航速度を出す事ができるが、支援物資を積んでいる荷馬車は普通の荷馬車なので、普段の俺たちの巡航速度から比べるとまるで牛車のような速度で進行している。


 そんな速度で進んでいるもんで、一日目は国境の森手前辺りで一泊した。そして二日目、アンデッドの大軍を阻止するために燃やし、その後シュリの作った苗木を俺が蒔いた国境の森に到着する。


 すると、シュリがやはり森の様子が気になったのか、御者台の方に出てくる。


「よっこいしょっと、あぁ…こうしてみるとやはり盛大に焼けておるな… この広さを見るとあれだけの泥団子では足りんかったであろう、あるじ様よ」


「あぁ、俺も蒔き方が分からなくて燃え残った端から蒔けばいいかなと思ったけど、一列も蒔けなかったよ」


 苗を蒔きに行った時、空からざっと焼け跡を見てみたが、凡そ幅1キロ近く奥行き5~6キロの円錐形といった感じだった。


「そうじゃろうな… もっと木の種を仕入れて泥団子を作らねばならんのぅ… ん? なんじゃろ? あの木は一本だけあんな所に立って居るが、あの木だけ焼け残ったのか?」


 そう言ってシュリは焼け跡のど真ん中に立っている一本の木を指差す。


「ん? あれ…栗の木か…となると、俺が一番最初に試しに落とした奴だな、落としてすぐは1~2メーター程の丈だったけど、泥団子を蒔き終わって戻って見たら4メーター程の育っていた、そこから横に広がったみたいだな… これだともう苗木ではなく立派な成木だな… しかし、ここまで育つとは…ディートの魔法処理は凄いな」


「ディートの魔法処理が凄いのもあるが、ディートの説明では、最初は魔法でその他の雑草に負けない程成長させて、その後は土地の養分を吸って大きくなるそうじゃ」


「へぇ~ と言う事は、ここらの土地は肥えているのか? じゃあ、シャーロットが国を治めるようになったら、ここらあたりまで開墾するのもありだな」


 この世界は現代日本のような雇用先や世帯収入が人口増加のボトルネックになるのとは違って、純粋に食料供給量を満たせるかどうかが人口増加に関わってくる。やはり、生き物は食い物がないと数を増やせないのだ。


「ん~ あるじ様よ、それは止めておいた方が良いじゃろ」


 シュリが渋い顔をする。


「どうしてだよ、肥沃な土地は重要だぞ?」


「確かに肥沃な土地じゃが、それは森で焼き畑をしたのと同じで、生えていた木々が燃え落ちて一時的な肥料となっているだけじゃ、それに肥料になっているのは燃えた木々だけではない… 人にとっては忌避する物が肥料になっておる…」


 シュリの言葉に思い当たる節がある。


「ん? もしかして、それって…アンデッドの大軍の事か?」


「そうじゃ、アンデッドとなった人の死体じゃ… 人の死体が肥やしになったもの、気持ちよく食えんじゃろ… だから、時が過ぎて世代が代わり、人々の記憶が薄れて森が元に戻るまではそのままにしておいた方が良いと思うぞ」


「あー確かにそうだな… 実際に農作業する時にゴロゴロと人骨が出てきそうだしな…」


 こんな感じに御者台で誰かと話したり、馬車の中でゲームや会話など、いつもの旅のように過ごしている俺たちだが、シャーロットの乗るバス馬車の方では俺たちの馬車とは異なった様相を呈していたようだ。


 先ず、ミリーズが出発の際に、愛娘ルイーズから『バイバイ』と素っ気ない一言の見送りを受けた事で落ち込み、シャーロットは受験生の最後の仕上げの様に勉強に集中し、ネイシュはメイドに扮してシャーロットの護衛をする為、同行していた蟻メイドや肉メイドからメイドの指南を受けていたようだ。とてもカオスな状況だ。


 とは言っても二日目には落ち着いたようで、ミリーズは立ち直ってシャーロットの勉強の面倒を見て、ネイシュはメイドの実践を行う為、蟻メイドや肉メイドの代わりにメイドの仕事をしていたようだ。


 そんな事もあったが、我々一行は国境の森だった場所を抜け、カイラウル側の領地に入る。


 実際にカイラウルの領地側に入るとその悲惨な状況が詳細に分かってくる。カイラウルから俺のアシヤ領に向かう道沿いは軍隊が通った後の様に踏み荒らされており、ちょっとした荒れ地になっている。


 また、本来の目的を忘れてウロウロと徘徊しているアンデッドが残っており、俺たちの姿を見つけると思い出した様に襲って来た。


 まぁ、俺たちからすれば雑魚中の雑魚なのだが、今後の交易の再開を考えれば、邪魔な存在なので、荷馬車の所為でゆっくり進んでいる事も相まって、道沿いのアンデッド達を丹念に一匹残らず駆除しながら進んでいった。


 とは言っても戦えるものが四六時中警戒するのも疲れるし、全員で相手をするほどの敵では無いので、俺、シュリ、ポチ、カローラの四人の交代制で当たる事にした。


 そんな訳で、朝のローテーションだった俺は仕事を終えて馬車の中で本を読んで寛いでいた。すると、今の時間の担当であるポチが、人化した状態で御者台に通じる連絡扉から馬車の中に入ってくる。


「いちろーちゃま!」


「おぅ、どうしたポチ!」


 俺はポチを抱きかかえるとムツゴロウさんのようにわしわししてやる。


「カズオちゃんがイチローちゃまにお話があるから来て欲しいって言ってた」


「カズオが? なんだろ?」


 俺はポチをぬいぐるみの様に抱きかかえながら連絡扉を潜り御者台へと向かう。


「どうした? カズオ、話があるって、何の事だ?」


「旦那ぁ、すみやせんね、お休みのところ、大した話じゃないんですが、一応、旦那には声を掛けておいた方がいいかと思いやして」


「それで改まってなんの話なんだ?」


 俺はカズオの横の席に腰を降ろす。


「…もうそろそろ… あの村に差し掛かる所なんでやすけど…」


 カズオの顔をが曇る。


「あの村?」


「へい、旦那とあっし、それとシュリの姉さんにとっての黒歴史の村でやすよ」


「あーっ! あの村か! 俺が襲った爺さん婆さんばかりの村か!」


 思い出して声を上げる。


「そうでやす… 前回の魔獣の群れがわいた後は、皆さん存命でしたけど…今回はどうなんでしょうね…」


「どうなんだろうな…前回が幸運過ぎたってのもあるけど、今回は流石に無理かな? 数が数だし…」


「でしたら、どうしやす? ただ廃村となった村を通り過ぎるには、あまりに縁ができてしやいましたからね… 死体は無くても皆さんの墓標ぐらいは建てていきやすか?」


 カズオは提案というよりか懇願するような顔になる。


「そうだな…なんだかんだ言っても迷惑かけた村だからな… それぐらいやっても良いだろう、幸いミリーズも同行しているから慰霊祭ぐらいはできるだろうし」


 俺がそういうとカズオの顔がぱっと開く。


「そうでやすね! 今代の聖女のミリーズさんが慰霊祭をすれば、天国の爺さん婆さんたちも喜ぶってもんでやすよ!」


「その時は俺たちの罪と黒歴史もようやく完全に洗い流されるだろうな…」


「旦那、そろそろ近くに来たはずでやすよ」


「どれどれ、様子でも見てみるか…」


 俺は望遠魔法をみょんみょんと使い、遠くに見える黒歴史の村の様子を伺う。


「…ん?…んんっ!?…んんんっ!!」


「どうしたんでやすか? 旦那?」


 俺の反応を怪訝に思ってカズオが声を掛けてくる。俺は冒険魔法を切って、そんなカズオに向き直る。


「あの爺さん婆さんたち! 生きてるぞ!」


「そりゃ! ホントですかい!」


「あぁ… 村の者総出で復興作業を行っている様だ」


「では、また炊き出しでもして皆を応援してやりやすか!?」


 カズオは嬉しそうな顔で言ってくるが、俺は自分の姿を確認する。まだまだカイラウルまで距離があるので、軽装の冒険者の出で立ちだ…


「マズイ…」


「は? 何がマズイんでやすか?」


 カズオはキョトンとした顔をする。


「今のこの恰好って、あの村を襲った時の姿に似てるだろ!?」


「いや、確かにそうでやすけど…一度貴族の姿を挟んでいるから大丈夫じゃないでやすか?」


「それでもマズいんだよ! もし、村を襲ったあの時の事を思い出されたら、シャーロットが王座に着く事のマイナスになる! 前回の様に着替えるぞ!!」


「前回って…あぁ…また女装をしてもよいんでやすね?」


 カズオがニヤリと笑って答えた。


連絡先 ツイッター にわとりぶらま @silky_ukokkei

pixiv http://pixiv.net/users/12917968

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