第633話 感謝と気遣い

 今現在、城全体がシャーロットのカイラウル凱旋の準備で大わらわな状態である。それというのもカイラウルの民や城の者たちに、為政者としてのシャーロットの優位性を見せつける為、豪華な馬車に乗り、満載の支援物資を後に引き連れるという華やかな凱旋光景をカイラウルの者に見せつけねばならない。

 そして、カイラウルの者には、単身粗末な荷馬車でシャーロットが俺の所に輿入れしたのではなく、物資の支援をお願いしたという体にして見事その大役を勤め上げた事にするのだ。

 この辺りは、アルフォンソが国民には何も知らせず、皇族子女を売り飛ばしていたという手段を逆手にとったやり方だ。今更、国民の前でシャーロットは嫁に出したはずだとは言えまい。


 しかし、ここへ来た時には、くたびれたおっさんが操るボロボロの馬車で従者も引き連れずに来たというのに、カイラウルに帰る時には、俺の自慢の馬車と、アソシエ達が作らせた観光バスみたいな馬車を引き連れ、物資を満載に帰るんだから、故郷に錦を飾るとはこの事だな。


 まぁ、ここからの持ち出しがかなり多いが、その代わりにシャーロットとマグナブリルの二人が話し合って、シャーロットが政権を取った後は、このアシヤ領と優先的に交易をすることや、支援物資の中に入れたうちの領地の特産物を他国に宣伝することなどを取り決めていた。


 短期的な視点で見ればこちら側の得られるものは少ないが、長期的な投資として見た場合には魔獣の群れやアンデッドの侵攻からの復興で多くの資材が必要な事や、その後の人口回復を考えればかなりの利益になるとマグナブリルも読んでいたし、シャーロット側もどうせ復興に必要な資材なら、恩を返せるという事で両者は合意した訳だ。



「それで、シャーロットは政権を取り返して女王…いや女帝になったら、どういった国にしていくんだ?」



 俺はシャーロットに国の行く末について尋ねてみた。



「そうですわね… ここで美味しい食べ物の事を知りましたので、ここと同じように美味しい食べ物がいっぱい食べられるように、農業と畜産に力を入れていきたいですわね!」


 瞳を輝かせて答える。その返事に俺はマグナブリルに小声で相談する。


「シャーロットがうちの食事の真似をする為に農業と畜産に力を入れると言っているけど… その…特産品とかブッキングしないのか? シャーロットが有能というなら国単位で本気を出されたら一領地のここは勝てないぞ」


「その事でしたら心配する必要はありません、ここの領民の収穫量などは基本的に自給自足を少し上回る程度で、交易するほどの生産をしているのはイチロー様の直轄経営の農地や牧場だけです。穀物の過剰生産量は後々地酒の生産に回し、畜産物については既にブランド化しております。また、農地に使える土地の広さもそのうち限界がきますので、職業人口の農業従事者の割合を、ここの独自資源の石灰の採掘をする鉱夫や特産品のガラス職人に割り当てていくつもりです。カイラウルと競合関係になる事はないでしょう」


「なるほど、俺が心配するまでもなく、その辺りは考えていてくれていたんだな…しかし…」


「なんですかな?」


「今更の話だが、イアピースのカミラル王子に相談することなく、ただの一領主の俺がシャーロットをカイラウルの王に据えようとしているんだけど…良かったのか? 後で俺がカミラル王子に怒られない?」


 今更ながらそんな不安を口にする。


「本当に今更ですな…まぁ、確かにイチロー様が懸念することは確かでございますが、その件に関しましては一応私からカミラル王子に連絡はしてあります」


「えっ!? マジで!!」


「いえ、何も…というか、私の方で今回の対応の内容については説明しておきましたので、それ以上の関与は難しいでしょうな…」


「またなんで?」


「前にも申しましたが、今回の政権交代はイチロー様が関わっている事でさえ、他国からすればイアピースの一領主によって他国の政権を交代させ傀儡国家を作る様に見えかねないギリギリのものでございます。それなのに、イアピースの王族が動けば、もはや他国は看過することは出来ずに非難し始める事でしょう。だからこそ、どこで聞き耳があるか分らぬ状況でこちらのやり方に口出し出来なかったのです」


 それでイアピースからの指示が何もなかった訳か…それはそれでどうなんだろ? マグナブリルが予め提出した計画が完璧で口出しする隙が無かったからか?


「あ~ そうだよな~ 他国からすれば魔族との紛争中なのにカイラウルの騒動に付け込んだ侵攻と思われかねないもんな」


「ですな、現在イアピースはイチロー様の活躍もあって北のウリクリ、西のべアール、南の獣人連合の三か国と友好関係を保っておりますが、後方の心配がないから東のカイラウルに侵攻したと思われては他国からの心証は最悪となります」


 戦略ゲームとかでは侵攻予定の国以外と同盟関係や友好関係を結んでから対象国に侵攻するってのは定石だけど、それはゲームの中だけの話で実際にやると友好国からも警戒される事になるからな…


 

 シャーロットやマグナブリルとそんな会話を交わしていたが、いよいよ出発が一晩を残し明日となる。同行メンバーは俺とカズオ、シュリ、カローラ、ポチがいつもの馬車で先導し、その後に観光バスのような馬車にシャーロットと聖女としての権威を借りる為にミリーズ、そして、向こうで暫くの間、シャーロットの身辺警護をする為にネイシュがメイド姿に扮してついてもらうつもりだ。

 

 その他のメンバーは自分も付いて行きたいと言っていたが、観光ではないし、そしてあまり主力メンバーを引き連れて向かうとそれこそ侵攻に来たと勘違いされるので遠慮してもらったのだ。


 かと言って、留守番させるメンバーはもちろんの事、アソシエ達の心的な配慮をしておかないといけないとも思った。


 それと言うのも、いくら魔族が関わっていると言う事や、隣国の関係の事であっても、アソシエ達にとっては他国の女の為に、俺が領地の物資まで供出して後押ししているのは贔屓している様であまり気持ち良い物ではないだろう。


 だから俺は、夕食後に皆がたむろする談話室に向かってアソシエ達に謝罪を兼ねた話をしようと考えた。


「アソシエもミリーズもネイシュもそしてプリンクリンも皆揃っているな」


 子供たちの面倒を見ていた四人が俺に向き直る。


「どうしたのよイチロー、そんな神妙そうな顔をして?」


「ダーリン、やっぱり精力剤がないと落ち着かないの?」


「私が言うのもなんだけど、薬は多用しない方がいいわよ」


「イチロー、また別の問題でも起きたの?」


 アソシエ、プリンクリン、ミリーズ、ネイシュがそれぞれに反応する。


「いや別に問題が起きた訳でもなければ、精力剤を飲みたいわけでもねぇ… ただ、シャーロットの事にかまけていて、みんなの事をなおざりにしてたから申し訳ないなって思って、出発する前に一度詫びを入れておこうと考えたんだ…」


 俺の言葉に四人は最初は目を丸くしてキョトンとした顔をしていたが、アハハと声をあげて笑い始める。


「なんだ、イチロー、そんな事を気にしていたの?」


「私たちはそんな事、一つも思っていないわよ」


「イチロー、心配しすぎ、私たち、イチローの事、信用しているから」


「私はダーリンが出発前に皆と致したいのかと思ってたわ」


「えっ? 俺の杞憂だったの?」


 四人の言葉に逆に俺の方が目を丸くする。


「女の子は確かに男性が自分だけを気に掛けてくれて優しくされる事を望むけど、でも実際に自分だけに優しく、他の人には厳しくぞんざいに扱っている所を見ると、自分に興味を失った時に自分もそんな風に扱われるんじゃないかって逆に不安になってくるのよ」


「そうそう、その点、イチローはたまに…いや頻繁に滅茶苦茶な事をするけど、基本的には自分の女だろうがそうでなかろうが、男女関係なく優しいから、私たちは安心してイチローの側にいてられるのよ」


「現に今こうして、私たちの事を気遣って声を掛けてくれているし、私はそんなイチローの優しさが好き」


「確かにダーリンを独り占めにしたいって思う時もあるけど、ダーリンは必ず気に掛けてくれるから信じて待ってられるのよ」


 四人の言葉を聞いているこちらの方が照れくさくなってくる。


「こんないい加減な俺の事をそこまで想って信じてくれているとは思わなかったよ…」


 鼻の頭を掻いて照れる俺に、皆はウフフと微笑を浮かべる。そして先ず初めにアソシエから口を開く。


「私はね、最初は完璧な人を理想の男性にしていたんだけどね、でも、そんな完璧な男性の横では自分のいる存在価値なんて無いんじゃないかって思うようになったの、だから、イチローぐらいちょっとした欠点があった方が、自分の存在意義を見いだせるから、私にとってイチローは丁度良い関係が築ける男性なのよ」


 次にミリーズが口を開く。


「私は幼いころから聖女候補で、聖女に目覚めてからは、私個人のミリーズという存在ではなく、聖女という肩書…役割でしか見てもらえなかったわ… でもイチローだけは一人の女性としてみてくれて、ミリーズ個人としての私を解放してくれたの、それが私がイチローの側にいる理由なの」


 その次にネイシュが口を開き想いを打ち明ける。


「私はミリーズとは逆で、暗殺機関で育てられた可哀相な存在として腫物のように扱われていた。でもイチローだけが気兼ねなく普通の女の子として接してくれた… そのお陰で、皆も私に普通の女の子として接してくれるようになって、非情な暗殺者から普通の女の子として生きていけるようになったの、だからイチローは私の人生の恩人、イチローの為ならどこまでも付いて行くし、いつまでも待ってる」


 最後にプリンクリンが身を乗り出して口を開く。


「私はダーリンにたっぷりと愛の行為をしてもらってたっぷり愛を注ぎこまれたから、私はもうダーリンの愛無しでは生きていけないわ! だから私もダーリンをどこまでもいつまでも想い続けるわ!」


 ちょっと、愛の行為とかたっぷり愛を注ぎ込まれたとか…もうちょっとマシな言い方は無かったのかよ…でもまぁ…想いのたけは伝わった。



「ありがとな…みんな…明日、カイラウルに向けて出発するけど、今後も頼むな…」



 俺の言葉に皆は笑顔で応えた。



 

連絡先 ツイッター にわとりぶらま @silky_ukokkei

pixiv http://pixiv.net/users/12917968

ブックマーク・評価・感想を頂けると作品作成のモチベーションにつながりますので

作品に興味を引かれた方はぜひともお願いします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る