第630話 ムラムラの原因と新たな報告

「何といいますか…まぁ…毎度毎度、よくもこう…何といいますか… 捨て猫でも拾ってくる勢いで魔族のサキュバスを連れて帰って来られますな…」


 マグナブリルが昨日の一件の俺の報告書に目を通しながら、呆れたように声を漏らす。


「いや、そんな事言っても、釣りで小物を釣った時みたくリリースするわけにもいかんだろ?」


「確かにそうですな…イチロー様だから撃退できたものの、普通の者では奴らの虜になっていたでしょうな」


 マグナブリルは報告書から顔を上げ、真面目な顔で俺を見る。


「いや、どうだろう…奴らが言うにはサキュバスの最終兵器三姉妹っていうぐらいだから、なんか凄い必殺技みたいなものがあったんだろ…ムラムラ状態だったから勝てたけど、通常状態ならどうなっていたか分からんな… 不幸中の幸いだったが… なぁ、プリンクリン」


 俺は床に正座させているプリンクリンを見る。


「私が忍ばせた精力剤で勝てたというのなら…もう許してよ…ダーリン…」


 プリンクリンが半べその上目づかいで俺を見上げてくる。プリンクリンが半べそをかいているのは正座に慣れてないのもあるが、この前に俺に散々精力剤を盛ったバツとして、黒板のひっかき音を散々聞かせたからだ。


「いや、精力剤でムラムラしていたから正攻法の致しでサキュバスを撃ち破る事が出来たけど、そのムラムラが中途半だったら負けてたし、そうでなければ、戦闘で奴らを制圧していたぞ?」


「サキュバスを…その性行為で倒すのは正攻法とは言わないと思うのですが… あぁ…『正攻法』と『性交法』を掛けておられるのですか…なるほど、上手いですな…」


 いや…別にそんな事は考えていなかったぞ…マグナブリル…


 そこへ正座をさせられていたプリンクリンが声を荒げる。


「でも! ダーリンだって悪いのよっ!」


「なんで俺が悪くなるんだ?」


「だって、最近、夜はアイリスの相手ばかりして、私たちの相手をしてくれないじゃない… それだから、ダーリンに精力剤を盛ったのよ」


 マグナブリルが、「やっぱりお前の所為じゃないか」という目をしてくる。


「…分かったよ… もう正座を崩していいから…」


「分かってくれたの…ダーリン…でも正座よりもあの黒板をひっかくのは二度としないでもらえるかしら… 未だに身体中がぞわぞわして落ち着かないのよ…」


 プリンクリンは正座を崩して立ち上がりながら自分の身体を抱き締める。 


「殴った拳の方が痛い時がある…俺だってぞわぞわしながら黒板をひっかいていたんだぞ… だからもう二度と精力剤を盛るような事はするな…」


 実の所、プリンクリンにお仕置きするつもりでいたら、自分もお仕置きされていたという有様である。


「さて、プリンクリン様の精力剤を盛った話は、以上でよろしいですかな? 他の報告がございますので…」


 マグナブリルが痴話喧嘩はもういい加減にしてくれという顔をしてくる。


「あぁ、すまんな、マグナブリル… プリンクリンはもう部屋に戻っていいぞ」


 プリンクリンはコクリと頷くと正座で痺れた足を生まれたての小鹿のようにプルプルと震わせながら執務室を後にする。


「じゃあ、マグナブリルは報告を続けてくれ」


「では、良い報告と悪い報告がございますが、どちらから先に聞かれたいですか?」


「なんだ?それ… じゃあ…そうだな…嫌な事は先に済ませたいから悪い方から」


 そう答えると、マグナブリルの顔が少し緊張感を帯びたものになる。


「悪い報告からですな…では、カイラウルを調査させていた者から、カイラウルにて第二のアルフォンソが現れたとの報告が御座いました」


「はぁ!? アルフォンソは死んだんだろ? 蘇ったとでもいうのか!?」


 俺は目を丸くする。


「いえ、蘇ったのではなく、アルフォンソの部下であったプリニオという男がアルフォンソのように振舞って宰相の座についたという事でございます」


「うーん… アルフォンソがいたから今まで目立っていなかっただけで、その男がそれだけの能力を持っていたとかじゃないのか?」


「いえ、私の部下の調査でもネイシュ様の調査でも、プリニオという男は元々凡人の働き者で、アルフォンソのような才覚を持つ者ではなかったとあります」


「有能な上司が消えて自分がやらねばという責任感から覚醒したって話ならいいが…後、それならアルフォンソの代りの人間がいるならシャーロットも急いでカイラウルに戻らなくてもいいって事になるけど… アルフォンソは魔族と繋がっているという事だからな…」


 俺は組んだ手の上に顎を載せ、うーんと頭を捻る。


「左様でございます… 何も知らない者にとってはアルフォンソの代りが出てきて国が安泰になったと胸を撫で降ろすところでありますが、アルフォンソが魔族と繋がっていた事を知っている我々にとっては、魔族が思う所があってカイラウルを手放すつもりはないという事ですからな…」


「つまり、魔族はカイラウルを起点に何かやらかすつもりだという事か… それで良い報告というのはその対策方法なのか?」


 視線だけを動かしチラリとマグナブリルを見る。


「はい、シャーロット様が一応カイラウルに戻るだけの学習の進捗状況になりました」


「えっ!? もう!? シャーロットってそんなに優秀だったの?」


 第二のアルフォンソが現れた事より俺は目を丸くする。


「シャーロット様は生徒という意味では非常に優秀な存在でありますな、先入観や固定概念が邪魔するような事はなく教えられた事を、あるがままに素直に受け入れる…これは奴隷として売られた時に素直にその状況を受け入れるように施されていたお陰ですな… で、国の頂点の為政者としてはまだ及第点には届いていません」


「へ? でも、カイラウルに戻れるだけの進捗状況になったって言ってたけど、どういうことなんだ?」


「それは、今までのシャーロット様は為政者として何を学んでいけば良いのか全く分からなかった状態だったのですが、今では何が必要かをお分かりになりました。後はご自身で経験を踏まえつつ学んでいけば立派な為政者になられるかと思います」


 あ〜なんとなく分かるような気がする。MMOで例えていうと遊び方が全く分からない新規のプレイヤーが古参プレイヤーが案内してもらって、ある程度レベルを上げて装備も整え、狩場や今後お勧めの装備などの知識も得て、後は一人でもレベル上げやアイテム稼ぎが出来るような状態になったようなもんか…


「なるほど… それでシャーロットをカイラウルに戻せる状態だと敢えて言うからには、シャーロットを急いで戻さなければならないと言う事か?」


「はい、左様でございます。このまま新しい時間をかけて宰相のプリニオの台頭を許せば、体制を万全に整えられてしまいます。その前にカイラウルの体制をシャーロット様が奪還せねば、カイラウルは魔族の完全な橋頭堡となってしまう事でしょう」


「それはカイラウルだけではなく、人類にとっても絶対に防がねばならない喫緊の課題だな…」


 この状況を看過すれば、魔族に操られたカイラウルによって、人類同士の紛争が勃発するかも知れない… その後、魔族は人類同士の紛争で疲弊した人類を踏み潰していくつもりなのであろう…


「マグナブリル、シャーロットを含めた皆を呼んでくれるか、緊急の会議を執り行う」


「分かりました、イチロー様、直ちに…」


 こうしてシャーロットのカイラウルへの帰還への針は進められたのであった。


連絡先 ツイッター にわとりぶらま @silky_ukokkei

pixiv http://pixiv.net/users/12917968

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