第629話 最後のシ者

 ディートに学校や子供たちのいる前では痴態行為を行わないように泣いてお願いされた後、少し気まずい雰囲気で泥団子の育成処理をしてもらった。


 ディートに泣いて懇願された事を考えると、マグナブリルやその他の者の反応は慣れているかもしくは感情を押さえているかで、大甘な対応をしてもらっていたのだと改めて思い直した。今までの事を小言程度で済ましてくれているマグナブリルに感謝の念が湧いてくる。


 とは言っても俺自身もやりたくてやっている訳では…まぁ、やりたい気持ちは少しはあるが… どういう訳か湧き上がるムラムラの為と魔族からの刺客がサキュバスだった事もあるので仕方ないと言えば仕方ないと考える。でも、ディートのあの反応を思い出すと少しは自重しないとダメだな…


 そういう訳で泥団子の魔法処理が終わると、謝罪と礼を込めて何度も頭をさげてディートの部屋を後にする。その後は泥団子の発案者であるシュリが帰って来てないか確かめる為に温室へと向かった。


 すると、やはりウリクリまでの往復は時間が掛かるらしく、シュリはまだ帰って来ておらず、代わりに集中カリキュラム中のシャーロットの姿があった。


「おぉ、シャーロットじゃねえか」


「あら、イチロー様」


「あんっ!」


 シャーロットは少しぼうっとした顔をむけて答える。元気のないシャーロットを気遣うように従者?のオーディンもいる。


「授業中じゃなかったのか?」


「今は小休憩中なので、気分転換で温室まで来ていましたの」


 少しうわごとのように答える。無理もないだろう… シャーロットは過密スケジュールをこなす為に毎日、プリンクリンの強壮剤を服用して一日16時間の授業や勉強をこなしている。正しく受験生状態だ。


「それで勉強の状況はどうなんだ?」


「そうですわね…カローラちゃんには泣かせてしまって悪い事を致しましたわ…」


 あぁ、ゲームで相手の思考を読んだり勝負どころの勘を掴む話の件だな…カローラの奴、泣かされていたのか… まぁ、俺も泣かした事は何度かあるが…


「後でお菓子を与えるなり趣味の話に付き合えば機嫌を直すはずだからやってみればどうだ?」


「えぇ、ティーナ様もそう仰っていましたので、カズオさんに頼んでお菓子を作ってもらいましたわ…あっそろそろ戻らないと…次の授業の時間ですわ!」


「おう、頑張って来いよ」


 小走りで城に戻るシャーロットの背中を見送ると、俺はどうしたものかと考える。


 シュリがいつ帰ってくるか分からないし、俺のムラムラも解消しないといけないから、一人で国境の森へ泥団子を蒔きに行くかな?



 俺は温室の外に出ると飛行魔法で国境の森を目指して飛び始める。普段は万が一の為に魔力は温存しているのだが、ムラムラを発散する為には致し方ない。何かあったとしても、今はプリンクリンが作ってくれた魔力回復薬もあるしな。


 そんな事を思いながら飛んでいると、違和感を感じる。どうも後ろから俺を付けてきている奴がいるようだ…



 ん? 何者だ?



 気づいてない振りをして視線は前を向けたまま、後方に気配を探る。



 ん~ 何者かは分からないけど、この気配からすると敵だとしたら随分と小物だな… 簡単に返り討ちに出来そうだ… しばらく様子見でいいかな? 万が一の魔力回復薬もあるし…



 そう考えた俺は追跡者を無視して飛び続ける。すると、段々国境の森の焼け焦げた跡が見え始めてくる。



「やっぱ、すげぇ~ 燃えてんなぁ~ 万単位で押し寄せるアンデッドを押しとどめる為だったから仕方ねぇけど…」



 人間の俺でも焼け跡を見て痛々しいと思うぐらいだったから、森の獣を糧にしていたドラゴンのシュリにとってはホント、胸が締め付けられる思いだったんだろうな… しかも、それを自分自身で火をつけていた訳だし…



「さて…どこから蒔いていくか… 先ずはこの泥団子の苗木がどれ程の物か試してみるかな?」



 俺は収納魔法から一つ泥団子を取り出すとポトリと焼け跡に落とす。すると泥団子が割れて中の木の種がにょきにょきと成長を始めて一気に2メーター程の丈のある苗木に育つ。



「おぉ、結構成長するな、これなら1、2年もすれば立派な木に育つし、また種も集めるとシュリが言っていたから、またすぐに泥団子も増産するだろうし… とりあえず…焼け残った森の淵から蒔いていくかな?」



 そう考えた俺は、焼け跡と焼け残った森の端の部分に飛んでいき、収納魔法から泥団子を出して焼け跡に20メーター間隔ぐらいで蒔いていく。しかし、俺の領地側からカイラウルに向けてたった一列程度蒔くだけで、手持ちの泥団子を半分蒔いたところで、500個でも一列蒔くには全く足りない事に気が付く。



「あ~ こりゃ全然足りんな~ もうちょっと考えて蒔けばよかったな…」



 これは本当に疎らに蒔いてそこから自然に木が増えていくのを待つやり方がベストかもしれない。そう判断した俺は最初に試しに一個蒔いた場所に向かいながら、泥団子を蒔いていく。


 自分でも訳の分からん蒔き方で後でシュリに怒られそうだが、その時は謝りながらまた一緒に泥団子を作ればいいだろう…


 そうして泥団子を蒔きながら最初に試しに蒔いた場所に戻ると、最初の苗木は最初蒔いた時より成長しており、4メーター程の丈にまで成長していた。


「あー ここまで成長するなら、マジで疎らに蒔いて後は増えるのを待った方が良かったな…」


 俺は最初の木を確認しようと地面に着地して木に近づくと、その苗木の根元に倒れ込む少女の姿が見えた。


「ん?」


 もしかして、俺を追跡していたのがこの少女か?


 少女は富豪か貴族の娘のような上質のワンピースを着ており、病弱そうな色白の肌をして、貧血でもおこしたような感じで苗木の根元の木陰で横になっている。


 まぁ…ユニポニーやマリスティーヌを拾った俺が言うのも何だが… 美少女がよくそこらに転がっているはずがないよな… となると…教会や学校の件もあったからやはりあれか?


 そう考え付いた俺は、キョロキョロ辺りを見回す。



「右ヨシ!左ヨシ!前ヨシ!後ろヨシ! ついでに上ヨシ!下ヨシ! オールオッケー!!」


 俺は現場猫のように辺りを指差し確認しながら、辺りに人の姿が無い事を確認する。これで何があってもまた公衆の面前で痴態行為に及んだと言われる事はないだろう。


 俺は準備をして木陰に横たわっている少女の元へと近づく。


 すると少女は俺の物音に気が付いたのか、薄っすらと目を開けて口を開く。



「あ…あの…どこのどなたか知りませんが…私、貧血を起こしてしまって…」


「エイヤァァァァァァ!!!!」



 俺は少女が言葉を言い終わる前に、武道家の様な気合の一声と共に少女の足の間に腰を捩じ込む。



「えっ!? ちょっと!? いきなり挿入!?」



 病弱なお嬢さんを装っていた少女は俺の予想外の行動に、演技を忘れて素の自分を見せながら目を丸くして驚く。



「フハハハハハッ!! どうせ、お前も『サキュバス最終兵三姉妹が一人』とか言って名乗りを上げるつもりだっただろ? なら途中の経緯を省いたまでよ!!」



 俺はカクカクと腰を動かしながら高笑いを上げる。



「いや…んっ! それは… あんっ! 勝利を確信した時や… んんっ! …正体がバレた時はそうだけど…」


「なら、やっぱりお前も最近、俺にちょっかい掛けてくるサキュバスの一味だったのかよ、なら遠慮はいらねぇな!!」



 相手は魔族側のサキュバス、そして周りに痴態を伺う衆目もなしとくりゃ、遠慮なくやりたい放題できるな…


 これは日頃、理不尽な誤解を受けている俺にエロスの神が与えたもうたご褒美だ!(感謝)

 その証拠に先程蒔いた苗木にもう花が咲き誇っているではないか!しかもこれは…栗の花?やはりエロスの神の思し召しに違いない!(確信)

 ならば、その神の思し召しを米の一粒も残さぬように良く味わって全て味わなねばなるまい!(義務)


 俺は鼻歌交じりにサキュバスを頂き始める。


 小さな栗の木の下で(歌:アシヤ・イチロー)


 小さな栗の~ 木の下で~♪

 あなたと~ わたし~♪

 な~か~よ~く~ 致しましょ~♪

 小さな栗の~ 木の下で~♪


 

 十分満足するまでサキュバスを頂いた後、サキュバスはぐったりと倒れ込む。


「何が…なかよくよ… 私が一方的にやられただけじゃない…」


 サキュバスはピクピクと身体を痙攣させながら減らず口を叩く。


「そうか? 俺からすればかなり友好的な対応をしたと思うんだけどな… それともなにか? いきなり聖剣で切られて剣の錆になる方が良かったか?」


 俺が意地悪そうにニヤリと笑うとサキュバスは負けを認めたように顔を伏せる。


「分かったわ… 負けを認めるわ… でも…少し飲み物を貰えないかしら… 街からここまで貴方を付けて来るのに疲れたのと、貴方の相手をしたことで… もう喉がカラカラなの…」


 そう言って汗を流し、肩で荒い息をしながら懇願してくる。



「しゃーねぇーなぁ~ これでも飲めよ」



 俺は収納魔法からプリンクリンの作ってくれたレモネード入り皮の水袋を取り出し、倒れ込むサキュバスに投げて渡す。受け取ったサキュバスはすぐに蓋をとってコクコクと喉に流し込むように水袋の中のレモネードを飲み始める。



「俺も喉が渇いたから、飲み終わったら水袋を返してくれよ」



 そう声を掛けるが、サキュバスは自分が飲み終えると、水袋を遠くへと投げ捨てる。


「んあ?」


 驚く俺に、サキュバスは立ち上がって不敵な笑みを浮かべる。



「フフフ…油断したようね…アシヤ・イチロー… 服従したと見せかけた私に、精力剤を飲ませるとは…」


「精力剤? えっ? あの水袋、ただのレモネードじゃなくて精力剤が入っていたのか!?」


 プリンクリンが作ってくれたレモネードの中に精力剤!?…あぁ…なるほど…そうだったのか…


「ウフフ… そのような事…どうでもいいわ… 私はサキュバス最終兵器三姉妹が一人! 三女のアイよ! アシヤ・イチロー 貴方をこのサキュバスの力で虜にしてやるわ!」


 サキュバスは今までの姉妹のように名乗りを上げ始める。


「おいおいおい…長女カスミ、次女ナビキとくりゃ最後はアカネだろ! なんでアイなんだよ! って…あぁ…なるほど分かった…ドッグアイの方の三女アイか… カローラの弟妹みたく最後を捻ってくる訳か…」


「何の事を言っているのか分からんが…完全に力を回復した私に勝てると思っているのか?」


 サキュバスはクククと笑みを浮かべながらにじり寄る。


「ククク…貴様の方こそ、先程の致しが俺の全力だと思っているのか…?」


「なん…だと!?」


 再び起き上がっていく俺のマイSONの姿を見てサキュバスは驚愕する。


 それもそのはず、サキュバスは精力剤を先程一口しか飲んでいないが、俺の方は恐らく、口にする全てのものにプリンクリンの奴が精力剤を忍ばせていたのだ。道理で最近ずっとムラムラしていたはずだ。一口程度比べるまでもない。


「さぁ…続けようぜ… あと一ラウンドでも二ラウンドでもいくらでも付き合ってやんよっ!」


「いや…その… 今からでも降参させてもらう事は…できますか?」


「そんな保険のCMのような言い訳が通る訳ねぇだろっ!!!」


 こうして、俺は日が傾く時間まで楽しませてもらったのであった…



連絡先 ツイッター にわとりぶらま @silky_ukokkei

pixiv http://pixiv.net/users/12917968

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