第623話 イチローの発情期?

 先日の会議でシャーロットを国のトップとして相応しい教育をした上で、カイラウルに送り返す事を決定した。しかし、送り返すと言っても時間的猶予がある訳でもなく、一か月程しか猶予はないであろうとマグナブリルが言っていた。それ以上時間が掛かると秩序と治安が崩壊し、それに伴って残っている有用な人材がカイラウルから逃げ出し、完全に無秩序の無法地帯になるとの事だ。

 

 そうなってくると、現皇帝カスパルからシャーロットへの政権交代だけでは済まず、各地に湧くであろう独立勢力や野盗などの集団を平定していかなくてはならず、カイラウルが紛争状態になる。


 そうなる前にシャーロットが救国の皇女としてカイラウルに戻る事を宣言し、カイラウルの皆に希望を持たせつつ帰国しなければならないのだ。


 帰国するだけなら今すぐにでも出来るが、その後のカイラウルを収めるだけの能力をシャーロットは持ち合わせていない、だからと言って、うちとしてもマグナブリルを貸し出す訳にもいかないし、シャーロットがイアピースの傀儡と思われない為、うちの人材を残す訳にはいかない。


 つまりシャーロットをカイラウルに送り届けて安全が確認できる暫くの間は、俺たちが同行して目を光らせる事ができるが、それ以降は、シャーロット自身が人材を集めてカイラウルを立て直さねばならないのだ。


 優秀な人材が揃っていたら、シャーロットに統治能力が無くても国家を運営できるかもしれないという意見もあるが、優秀な人材が揃わない場合も大いに考えられるし、優秀だけど信用の置けない場合もある。実際の国家運営は将棋やチェスの様に必要な駒が盤面に揃った状態で始められる物でなく、有用だろうが無能だろうが、信用できるできないに関わらず、今ある手駒で戦わなくてはならない。


 だからこそ、その手駒に目を光らせて導くだけの、能力や知識をシャーロット自身が身に付けている必要があるのである。そうでなければ、現皇帝カスパルと同様に家臣から傀儡にされてしまうのだ。


 本来であればそれらの能力を身に着ける為には多大な時間を要する。普通は王位継承権を持つ者達を幼いころから英才教育を施して、その中から一番優れた者を選ぶのが常識だ。

 しかし、シャーロットはアルフォンソの策謀でカイラウル帝国印の愛玩奴隷として売り飛ばすつもりだったので、国家運営に関する英才教育は一切受けていない。だから、僅か一か月という短い期間で一から学ばねばならないのだ。


 それで実際にどんな教育をシャーロットに施すのかマグナブリルに尋ねた所、マグナブリルとティーナが国家運営に必要な政治・法律・経済などを教え、エイミーが治安と国防、ディートが基礎学問、その他、暗殺などから自身の身を護るために、アソシエから魔術、ミリーズから神聖魔法、プリンクリンから錬金術、ネイシュから対暗殺の知識全般を学ぶ。そして雑学としてシュリから農学、ロレンスから木工製作に関わる事、ビアンが金属加工に関わる事を学ぶそうだ。


 もはや受験生状態の過密カリキュラムである。実際にどんな授業をしているのか気になって覗きに行ったのだが、邪魔になるという事で追い出されてしまった。


 その後、とぼとぼと談話室に向かい扉を開けると、忙しいシャーロットと遊べなくなったカローラが俺の姿を見つけて、ニヤリと笑う。そのカローラの顔がなんだか『ようこそ…カローラサイドへ…』と言っているように見えた…



 マズイ…このままでは俺もカローラサイドに堕ちてしまう…



 そう考えた俺は部屋に入らずそのままパタリと扉を閉めて、とりあえずその場にいるだけで仕事をしている感じがある執務室に向かう。

 そして、椅子に腰を降ろして、アルフォンソ暗殺と魔族の繋がりの対応で読む暇がなかったネイシュの報告書に目を通そうと考えた。


 それと言うのは、シャーロットの置かれた状況とシャーロット自身の人柄に疑問があったからだ。それは何かと言うと、アルフォンソがシャーロット達皇族子女をカイラウル帝国印の愛玩奴隷として商品化するならば、何故もっとエロエロな感じにしておかなかったということである。


 先日のミリーズが悶絶していたブラックホークとの晩餐会の時の反応を見る限り、性に関する知識はかなり疎いし、シャーロット自身が俺に色仕掛けをしてくるような事もない。ぶっちゃけな所、シャーロットは見た目こそ皇女と言った感じだが、実際の中身は世間知らずの田舎の貴族令嬢といった感じである。



「うんしょ…」



 俺はネイシュの報告書を捲って目を通し始める。


 カスパルとアルフォンソの体制は凡そ30年前から始まっており、王位継承闘争があった中、当時中堅文官だったアルフォンソが美形だけが取り柄のカスパルを担ぎあげて王位継承闘争を勝ち抜いてカスパルを王位に付け、自分が宰相になったと記されている。


 その後、王位継承闘争で敗北した貴族から娘をカスパルの妻として迎え入れる事で、未来に希望を持たせて貴族たちに敗北の留飲を下げさせ、カスパル体制の協力を取り付けたとある。しかもすぐに勢力を盛り返さないようにする為に、どの妻が妊娠して出産したかを一切口外せずに秘匿し、そして産んだ本人の妻にさえどの様な子か、名前も性別も分からないようにする為に、隔離した王族子女の育成所に入れたが今のシャーロットのいた場所の成り立ちのようだ。

 もちろん、娘を差し出した貴族からの反発もあったようだが、誰が誰を産んだのか分からなければ子供を狙った暗殺を起こす王位継承闘争を再発させない為の処置だといって貴族たちを黙らせたようだ。



「ん…」



 当時、王位継承闘争に関わった全ての貴族から娘を差し出させているので、20人に及ぶカスパルの妻がいたそうだ。そしてカスパルは手あたり次第孕ませていったので当然、出産時期も重なる。それに加えて産んだ本人すら名前も性別も容姿すら分からないと来れば、どれが自分の血筋の者なのか分からないので迂闊に子供の暗殺を行う訳にはいかない。容姿で確認しようとしても、育成所からは成人する15歳ごろまで貴族は育成所の中に入る事は出来ないし、皇族子女も出る事はできない。


 なので、貴族たちは15年後に育成所から自分たちの孫と思われる子女が出て来るまで待たなければいけなかったのだ。その15年の間にアルフォンソは各貴族たちに皇族子女の育成費と言って金を毟り取り、勢力を削いでいったのか…



「あっ…」



 ホント、結構、やり方が上手いな… 貴族からすれば待たなければならないし、金を出すしかない… そうしなければ、育成所を準後宮扱いしていたので、暗殺しようと侵入したのがバレたらその家はお取り潰し、孫と接触しようとした場合、その子女は不貞扱いされて継承権を失い、金を出さなければ自分の孫が育成所内で不利益な扱いをされるかも知れない…えげつないわ…


 そういう訳で、実際に後ろ盾の家がお取り潰しになったり、育成費を払えなくなった家の子女たちをただ飯ぐらいにさせておく訳にはいかないので始めたのが、カイラウル帝国印の高級奴隷という事か…


 最初はちょっとした見せしめの懲罰で行った処置だが、購入側の評判が思った以上に良く、他の者も欲しいと言い出して今の制度が生まれた訳だな。最初は王族の王女が好きにできるというプレミアだけで需要はかなりあったそうだが… 



「んん…」



 ここだな、シャーロットが性に疎い理由が分かるかも知れない…

 後々、最初からエロエロにしてくれとの要望があったので、試しにしてみた所、結局それでは、普通の性奴隷と同じで王女というプレミア感が薄れるので、すぐにその需要はなくなったみたいだ。まぁ、今でも少数ではあるが受注生産のような感じで、好みの外見の子を好みの性格に育成して売り渡す事もやっている様だな。でも、基本的にはプラモと同じで、自分で作り上げていくのが皆好きなようで、逆にエロい知識は全く詰め込まず、無垢な少女を自分だけの色に染め上げて行くのが流行りのようだ。



「あんっ!」



 すぐ近くで、女の子の嬌声が響き、報告書に熱中していた俺は我に返って辺りを見る。すると、どういう訳かシャーロットの妹のアナベルが下着姿で俺の膝の上に座っており、またどういう訳か俺は無意識でアナベルの身体を片手で弄っていたのである。


 俺が慌てて手を離すと、アナベルは高揚した顔で熱い吐息を吐きながら潤んだ瞳で俺を見上げてくる。



「イチロー様… 続けて下さらないのですか…?」



 いや…続けて下さらないのですか?とそんなエロい表情で言われても… 華奢な身体でぺったんぺったんつるぺったんな胸のストライクゾーンをボール一つ外れている女の子に致すつもりは… でも、なんで俺はこんな女の子の身体を無意識で弄っていたんだ?


 この子が人並外れた色気を醸し出している為か…それとも俺がロリに目覚めたというのか?…いや…最近、どういう訳か無性にムラムラするんだよな… 毎晩誰かと致しているはずなのに何かおかしい… 俺が犬猫の様に発情期にでもなったというか?



 KOOL…いやCOOLだったっけな? とりあえずクールになるんだ俺…



 こんな華奢な子に俺のマイSONを使ったらそれは甘美な致しではなく、サイズが合わなくて猟奇的な事になってしまう…



「と…とりあえず…膝の上から降りような…」


 

 俺はアナベルを抱えて膝の上から降ろす。



「えっ…」



 膝から降ろされたアナベルは切なそうな顔で俺を見る。…いや、俺はお前の身体の為に降ろしたんだからな…  


 しかし、何故だか身体の奥底から湧き上がるムラムラ感が収まらない…


 俺は、喉の渇きの様なムラムラ感を押さえる為、備え付けで置いてあった飲み物をぐっと煽る。いつもとは違った味のレモネードだが、ムラムラ感は収まらない…



「ちょっと…城下町の視察に言ってくる…」



 俺はそう言うと、執務室にアナベルを残して執務室を後にしたのであった。


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