第624話 一人目の刺客

 俺はアナベルから逃げるように城を出た後、気分転換をする為に城下町をウロウロとしていた。あのまま執務室にいたら湧き上がる欲望に耐え切れず、アナベルに手を出していただろうな… 他の年頃の女なら兎も角、あんな小さなロリっ娘に手を出している所を見られたら洒落にならん、皆から総スカンされるだろう…


 しかし、今日は城下の見回りをすると言って執務室を出たが、今後どうするかが問題なんだよな… それと言うのも、シャーロットが勉強に励むという事で、温室の手入れの手伝いの仕事が出来ない分、代りに妹のアナベルが執務室付きのメイドどして働く事になったのだが、ロリっ娘なのにあんなエロエロ体質だとは思わなかったし、いつの間にかマリスティーヌ教に入信して下着姿でいる信仰の自由を手に入れていたもんで、服を着ろとは言えない状態になっていた。


 普通なら仕事に従事する時ぐらいは信仰の自由を我慢しろと言っている所だが、以前蟻メイドに裸エプロン姿をさせていた事や、俺に懐いている肉メイドのヤヨイにマイクロビキニ姿をさせて仕事をさせていた事を、マリスティーヌに突っ込まれて承諾するしかなかったのだ。


 くそ~普段の俺なら就寝前にたっぷりと致しをすれば、あんなロリっ娘の色香など微動だにしないはずなのだが、なんか最近、異常にムラムラとするんだよな… なんとかして、有り余る性欲を発散しないと、また何かやらかしてしまいそうだ…


 俺は項垂れていた頭を上げて、何か有り余る性欲を発散させるものは無いかと、城下の街並みを見渡す。


 城下の街並みはヴァンパイア襲撃を終え、疎開民を受け入れる為の仮設住宅は、城下に定住することを選んだ一部の領民にそのまま住宅として利用され、また一部の仮設住宅はそのまま店舗として改築されている様だ。


 また、今後の城下町の発展を考えて、とりあえず領民を護りやすいように城の城壁の側に固めて立てられていた仮設住宅の解体移設工事や、見張り台の移設工事も行われている。


 俺は工事を執り行う場所に行き、作業をしている領民たちに声を掛ける。



「調子はどうだ?」


「あっ! これは領主さまじゃねえですか!」



 声を掛けられた領民たちは俺の姿を見て少し驚く。



「見ての通り、解体移設作業を執り行っているところでやす」


 領民たちは俺に軽い会釈をしながら答えるが、城下町の区画整理事業の一環にしては作業をする領民の数が十数人程しかおらず結構少ない。


「なんだか頭数が足りずに大変そうだな」


「へい、そうでやすね…ヴァンパイアの襲撃も終わって殆どの者が元居た場所へもどりやしたからね」

「あっしらの様な家も農地も告げない次男三男ぐらいしか残っていないでやすよ」

「でもまぁ~人手が足りないと言っても、ヴァンパイアの襲撃の時みたいに、急いで工事する必要もねえんで、ゆっくりとやっておりますがね…」


 俺は領民たちの言葉を聞いてある事を思いつく。


「じゃあ、俺がちょっと手伝おうか?」


「えっ!? 領主さまがですか!?」


 領民たちは目を丸くする。


「あぁ、今、ちょっと力が有り余っているもんで発散したかった所なんだよ」


 俺は袖を捲って肩を鳴らす。


「いいんでやすか?」


「あぁ、構わん。実際の所、お前たちは大工や石工で組んだりばらしたりは得意だけど、運搬する人員が足りてないんだろ? なら俺が解体した資材を次の利用場所に運んでやんよ。それでどこに運ぶんだ?」


 俺は身体強化魔法を使って木材の束を肩に担ぎあげる。その俺の姿に冗談ではなく本気だと気が付いた領民はキョトンとした顔で互いに目を合わせた後、俺に向き直る。


「あちらの区画でやす、ほら、丁度地面に杭を打ち込んで縄を張っている所でやす」


 そう言って領民の指差す方向を見てみると、凡そ100メーター程先に、言われた通り杭の打ち込まれた場所がある。


「あそこか、じゃあ運んでいくか」


 俺は木材の束を担いだまま早歩きで進みだす。


「あんれまぁ~ あんな木材の束担いだまま、歩き出したべ」

「流石は領主さまじゃ! おれらも頑張んべ!」


 俺は木材の束をドンドンと運び、木材が無くなれば基礎に使っていた石材もドンドンと運ぶ。土壁から出た土を土嚢に入れたものも体力を使う為に収納魔法を使わず抱えて運ぶ。


 そんなこんなで作業を手伝っていたら日が傾く前に、三軒分の解体作業が終了する。


「領主さま! ありがとうごぜいますだ~!」

「領主さまのお陰で、日が落ちる前に作業が片付いただ!」


「今日の作業はこれで終わりなのか?」


 物足りない俺は領民に尋ねる。


「予定の解体分はこれだけで、後は資材を運んでもらった場所に再建するんでやすよ」

「立て直す分の釘や石灰といった資材は明日上がってくる予定でやす」

「だから、仕事は明日、資材がくるまでねえんでやすよ」


 領民の言葉に俺は自分の身体を確認する。…まだまだムラムラが収まっていないな…このまま帰ればアナベルの誘惑に負けてしまう…


 俺は顔を上げ、今日の仕事が終わった領民たちを見る。ここの城下に移住して大工や石工などの職人になっているが、皆元々は農民で農作業をしており、ガタイが良い。



「じゃあ… お前たち、俺とちょっと相撲をとってみないか?」


「はぁ? 相撲…でやすか?」



 俺は首を傾げる領民たちに相撲がどういうものかを説明する。そして、相撲に参加する事と相撲で俺を倒す事に賞金を付けて参加を促す。

 気の良い領民たちは俺の提案を了承して、すぐに取組が始まる。勿論、俺は強化魔法を使わず、ガチの体力勝負だ。しかし、領民たちが体力があって俺が魔法を使わないと言っても、スポーツと言っても戦いの一つである相撲は、冒険者で戦って来た俺に一日の長があり、負ける事は無かった。


 だが、領民は娯楽の少ない中、球技のように複雑なルールも難しい技術も高い道具もいらない相撲を楽しんだようだ。しかし、日が傾き始めたので、皆夕食又は晩酌に家路へと付いて、俺は一人取り残された。


 うーん…相撲で結構体力を消耗したが、まだまだムラムラは収まらないな…これは体力を使って押さえるのではなく、精神を落ち着けさせて押さえる方が良いのではと考えた。


 そんな事を考えながら城下の街並みを見ていると、城下に立てた教会が目に留まる。城門の内側にも教会に変わる聖堂があるが、城内の聖堂は夜になると門を閉じるので、領民の為に24時間いつでもお祈りができる教会を建てたのだ。



 ちょっと、教会で祈りを捧げて気持ちを鎮めるか…



 そう考えた俺は教会へと足を進める。城下に作った教会は疎開民がいた時に建築したもので、簡素な作りであるが大人数を収容できるように大きめに作ってある。挙式や葬儀など式典の時はマリスティーヌやミリーズが執り行うので、普段は無人になっており、他に人がいなければ静かにお祈りが出来るであろう。


 俺は正面扉を押し開き中に入る。すると無人なはずの教会にどういう訳か一人の修道女がいた。


「あら! これはこれは、領主のアシヤ・イチロー様!」


 修道女は俺の姿に気が付くと、何のためのものか分からないが水差しを持ってこちらに掛けてくる。パッと見、まだ20になってない若い修道女であるが、マリスティーヌとは異なり修道服の上からでも分かるナイスバディでぷるんぷるんと乳を揺らしながら掛けてくる。


「あっ!」


 すると、修道女はおっちょこちょいなのか、俺の目の前で何もない所に躓き、持っていた水差しの水を俺の身体に掛けてズボンを濡らしてしまう。


「領主さま! 大変申し訳ございませんっ! すぐにお召し物を乾かしますわ!」


 そう言って修道女はなんの躊躇いも無く、俺のズボンを脱がし始め、俺のズボンの中に封印されていたものを目の当たりにする。


「まぁ! 大変! 領主さまの領主さまが…こんなに領主さまになって…」


 ちょっと待て…ナニ本体とかナニがナニな状態である事とかを俺の肩書に置き換えるのは止めてくれないか…


「ここは…粗相を仕出かした私が責任を持って、お鎮め致さなければなりませんね…」


 そう言って修道女は最後の封印である俺のパンツに手を掛けようとする。



「…ちょっと待て…」



 俺はそんな修道女の頭を鷲掴みにして制止する。



「どういたしました? 領主さま、場所を変えた方がよろしかったでしょうか?」


「お前…何者だ?」



 俺は頭を鷲掴みにしたまま問いかける。



「私はここの教会に新しく派遣された修道女ですが…」


「いや、俺はそんな報告受けてねえぞ…」



 俺を見上げる修道女の瞳がピクリと泳ぐ。



「そ、それは報告がまだ届いていないだけでは?」


「いや…そんな事はない、俺が許可を出さない人事が行われるはずがないし、緊急だとすれば口頭で報告があるはずだが、俺はそんなものを聞いてない…」



 俺は修道女の頭を掴む手の力をキリキリと増していく。



「ど、どこかで行き違いがあったのでは?」


「いや、マグナブリルがそんなポカやらかすはずがねぇ… それにお前… 人間じゃねえな?」



 修道女はビクリと肩を震わす。そんな修道女に俺は鼻を近づけクンクンと臭いを嗅ぐ。



「…お前…サキュバスか?」


「なぜそれを!」



 正体のバレた修道女は俺の手を掴んで振りほどこうとするが、俺はサキュバス程度の力で手を振りほどかれたりしない。



「以前、サキュバスの里って所に行ってアイツらの独特の臭いを嗅いだことがあるんだよな… お前の臭いはそれにそっくりだ」


「くっ! 我らの里を知っていたのか! アシヤ・イチロー! 私はサキュバス最終兵器三姉妹が一人! 長女のカスミよ! 貴方をこのサキュバスの力で虜にしてやるわ!」



 サキュバスは俺に頭を鷲掴みされて、捕まったハムスターの様にバタバタしながら、名乗りを上げる。


「そうか…そうか… お前、魔族側のサキュバスか…」


 俺のマイSONが自らその最後の封印を撃ち破って姿を現す。


「えっ!? 何!? その性能力! ドンドン上昇していくわ! これ以上は計測出来ないっ!」


「湧き上がるムラムラを鎮めようにも…今の状態じゃ欲望を押さえきれなくて相手を乱暴に扱ってしまいそうだから困っていたけど、サキュバス相手なら遠慮はいらねぇな… 思う存分致させてもらうぞぉ!!!」


 その日、教会にサキュバスの絶頂の声が響き渡ったのであった…




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 サキュバス絶頂の声を聞いて、闇に囁く影があった。


「カスミがやられたようね… でも、カスミは我ら三姉妹でも最弱…」


「人間ごときに負けるとはサキュバスの面汚しよ…」


「次は私がアシヤ・イチローを篭絡してやるわ…」


 そして影はまた闇の中へと消えていったのであった…



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