第619話 驚きの結果

 俺が昼食を終え談話室で少し寛いでいると、シャーロットも談話室にやってきて俺に話しかけてくる。


「イチロー様、ちょっとよろしいかしら?」


「ん?なんだ?」


「ここ最近…3・4日程かしら… シュリさんとポチちゃんの姿を見かけないのだけど、二人ともどうしたのかしら?」


 俺は読んでいた漫画を降ろしてシャーロットに向き直る。


「あぁ、二人なら、ちょっと用事で外に出かけてもらっているんだよ」


「あら、そうなの? そう言えばネイシュさんも見かけませんけど、彼女もそうなのかしら?」


「そうだ、ちょっと遠方に出かけていてな、その足替わりとして、シュリとポチが協力してんだよ」


「まぁ、そうですの? 事前に話を聞いていれば、私も外の世界を色々と見て回りたいのから同行いたしましたのに…」


 シャーロットはそう言って残念そうな顔をする。今までずっと育成所の様な所に閉じ込められて外の世界を色々見て回りたい気持ちは分かるんだが、残念ながら三人の向かった場所は、シャーロットが居たカイラウルなんだよな…


 実際、どうなっているのかと言うと、ネイシュがカイラウルの中枢に潜入捜査することになったのだが、徒歩や馬で向かっていては時間が掛かるので、ドラゴン化したシュリに首都カイラウル近辺まで運んでもらい、そこから先は何かあった時に緊急避難兼護衛としてポチについていてもらっているのである。


 元々弱小国で更に魔獣とアンデッドでボロボロになったとはいえ、一応正式な国家であり、ほぼ被害を受けていない首都だ。警備体制が万全かも知れない。そんな所に専門家と言えどもネイシュ一人で送り出す事は出来ない。だから、何かあった時の為に、首都から乗って逃げ出す用のポチとカイラウルから飛んで逃げ出す用のシュリをネイシュに付けたのである。



「シュリさんもポチちゃんも用事でいないのなら仕方ありませんね… カローラちゃんと遊んでばかりいられませんので、ダークエルフの方々の仕事のお手伝いでも致しますか…」



 シャーロットは独り言の様にそう漏らすと、談話室を退出し、ダークエルフたちが植物の手入れをしている温室へと向かう。


 シャーロットは俺たちと馴染んできて、外の世界の常識を学びつつあるが、未だに自分自身の身の回りの事は自分自身で行い、一応皇女という立場でありながら、作物の手入れや収穫などの農作業に携わる事が多い。


 それと言うのも、話を聞く限りシャーロットの居た環境は、自称皇帝カスパルの興味の中心が女ばかりで自分の子供たちには一切興味が無かったため、収容所に近い修道院の様な場所であり、食事も毎日代わり映えが無く、俺からするとかなり質素な物であったようだ。


 だが、ここに来て様々な料理を目の当たりにし、実際に口にしたことで食べ物を作る事に興味を持ち始めたのだ。最初の頃は畜産や料理にも興味を示していたが、畜産はと殺で挫折し、料理の方は包丁の持ち方がかなりヤバかったので、カズオからは本格的な料理は教えられないとの事だった。


 なので、興味の中心が農業となり、シュリと話をしながら温室で植物の世話をする事が多くなったのだ。そこで何気にシャーロットが凄いなと思った事が、あの麻製の質素なドレスを着たまま作業をしているのだ。しかも、作業が終わった後もそのドレスが殆ど汚れておらず、その辺りはシュリもシャーロットの事を褒めていた。


 そんな事を思い返していると、食堂側の扉が開き、カローラが姿を現す。


「あれ? シャーロットがここにいると思ったのだけど?」


「あぁ、シャーロットなら温室の方にダークエルフたちの手伝いに行ったぞ」


「そうなのですか、イチロー様、残念ですね…また一緒にゲームで遊ぼうと考えていたのに…」


 カローラが手の中のカードのデッキを見ながら呟く。そう言えば、先程シャーロットは遊んでばかりいられないと言っていたが、カローラは遊んでいる所しか見てないな… まぁ、代りに肉メイド達が24時間忙しく働いているので文句は言わないけど…

 しかし、そんなカローラを見ていると俺も遊んではいられないなと思い、手に持っていた漫画を閉じる。


「俺も城下町をぐるりと回って、何か問題がないか見て来るかな?」


「えぇ~ イチロー様も行ってしまわれるのですかぁ~ シャーロットの代りに遊んでくださいよ~」


「ゲームなら夕食の後、付き合っているだろ?」


「夕食の後じゃなくて、私は今、暇なんですよ~」


 カローラの奴…ホント、フリーダムだな…労働意欲と言うものが微塵も感じられない…


「コゼットちゃん相手じゃだめなのか?」


 同じ子供で暇をしていそうなコゼットちゃんに話を振ってみる。


「コゼットちゃんはああ見えて、畜産の事や乳製品の加工の事で色々と忙しいんですよ」


 カローラ…お前はその事を口にして、自分自身になんら疑問を感じないのか?子供のコゼットちゃんですら仕事に勤しんでいるんだぞ?


「…しゃあないな…一回だけ付き合ってやるか…」


 俺はカローラが色々な意味で不憫で可哀相な子に思えてきたので一回だけゲームに付き合ってやることにする。


「わーい! イチロー様! 私、イチロー様大好き!」


「そういう事は、元のエロムッチムチの姿に戻ってから言ってくれ…」


 俺は無邪気にもろ手をあげて喜ぶカローラに頭を掻く。


「でも、私がそのエロムッチムチの大人の姿になったら、ゲームの相手ではなくエロい事しかしてこないでしょ?」


 カローラは俺の前に座り、カードの準備をしながらそう漏らす。


「…まぁ…確かにそうだろうな…」


「じゃあ、私はまだまだこの姿のままでいます」


 そう言って無邪気な顔で俺を見る。…ホント、しょうがない奴だな…カローラは…


 俺も収納魔法の中からカードデッキを取り出しゲームをしようとした時、部屋の扉がノックされる。


「キング・イチロー様、ネイシュ様たちが戻られました!」


 蟻族の声だ。


「えっ? ネイシュたちがもう帰ってきたの?」


 すると扉が開き、蟻族の後に続いてシュリにポチ、そしてネイシュの姿が現れる。


「ただいま、イチロー」


「帰って来たぞ、あるじ様」


「わぅ!」


「随分と早かったなぁ~ まだ一週間も経ってないぞ?」


 俺は手を止めて三人を見る。シュリやポチは普段と同じ様子だが、ネイシュだけがいつもとは違う様子だ。


「それは、早めにケリがついたから…」


 ネイシュが何故か伏目勝ちに答える。何かトラブルがあったのか? それとも潜入がみつかったとかかな?


「早めにケリがついたって事は、カイラウルの自称皇帝カスパルや宰相アルフォンソの思惑がすぐに分かったのか?」


 俺が尋ねるとネイシュは叱られている子供の様に目を伏せていたが、意を決して顔を上げる。



「イチロー… アルフォンソを殺してきた…」


「えぇ!? ちょ! おまっ!」



 もはや、カローラとゲームをするどころの話ではなくなったのであった。



連絡先 ツイッター にわとりぶらま @silky_ukokkei

pixiv http://pixiv.net/users/12917968

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