第617話 暴走の結果

 シャーロットと別れた俺はマグナブリルを探して城内を歩き回る。いつもの執務室にいるかと思ったが、執務室にはおらず、ぐるぐると城内を練り歩く。そして誰か見かけてないかと聞き出す為、誰か人がいそうな談話室へ向かうとマグナブリルの姿があった。マグナブリルが皆で使えるようにと談話室に移したマッサージチェアを使っていたのだ。



「こっこっこれは…イッイッイチロー様」



 いつぞやのラッパーマグナブリルで俺に声を掛けてくる。



「おう、マグナブリル、こんな所にいたのか」


 こんな時間にマグナブリルがマッサージチェアを使うのは珍しいが、部屋の状況を見てみると、アソシエやネイシュ、それにティーナとプリンクリンもいて、何か話を聞いていたようだ。


「城の主だった皆が集まって、話をしていたみたいだけど、何の話をしていたんだ?」


「私はちょっと、マグナブリルさんに相談事があったのだけど…その…真剣に聞いてもらうには申し訳ない内容だから… マッサージチェアを使って楽な姿勢で聞いてもらっていたのよ」


 アソシエが困った顔で頭を抱えながらそう話す。なるほど、そういう訳でマグナブリルがマッサージチェアを使っていたのか…


「それで何の相談をしていたんだ?」


「ミリーズの事…」


 ネイシュがポツリと答える。


「私も関係者の一人だから一緒にいるの…」


 プリンクリンも困った顔で答える。


「私はこのアシヤ領とイアピース、そしてカイラウルの事でマグナブリルと話をしていたのですが、三人の話を聞いて、無視を決め込む訳にはいけなくなりまして…」


 ティーナも困り顔をしている。


「それでミリーズがどうしたんだよ? 先程の見送りの時に暴走していたから、城の中に連行させたけど…その後、またやらかしたのか?」


 アソシエは困ったような悲しいような瞳を俺に向けると話し始める。


「城の中に連行されても興奮冷めやらぬミリーズは…ディート君の姿を見つけると、爛々に輝かせた目でディート君に詰め寄って、ディート君に女装を勧めたり、イチローと二人きりでお風呂に入って見ないかとか言い出し始めたのよ…」


「マジか…」


「えぇ… 皆が注意しても止まらないから、蟻メイドに頼んでもう一度ミリーズを拘束してもらって、今はマリスティーヌの治療を受けながら城の牢獄に入ってもらっている…」


 アソシエとネイシュが何が起きたのかを説明する… ミリーズ…そんな事になっていたのか…


「恐らく、私が渡した強壮剤の所為でミリーズが暴走していると思うのだけど…」


 プリンクリンが頬に手を当てながら、はぁと溜息を吐く。


「普通に考えれば、強壮剤とBLを禁止すればいいんじゃないかって話になると思うのだけど… プリンクリンの強壮剤は城の各部署で急ぎの仕事をする時に愛用されているし、BLに関してはこのアシヤ領の今後の基幹産業として需要が求められているの… だから、強壮剤もBLも禁止には出来ない… かと言って、何もしないままでは、またミリーズが暴走し始める… もうどうしていいものやら…私には分からないわ」


 アソシエがミリーズにBLを腐教した事を切っ掛けにこの様な事まで発展してしまった事に罪悪感を感じているのか、アソシエは顔を両手で覆って項垂れる。

 俺はマグナブリルに視線を移すと、マグナブリルはマッサージチェアの上で、無表情な顔をして、プルプルと振動している。


 …いや、確かに判断に困る話だよな…真面目な話の様に見えて根本は趣味趣向の話だからな…普通の状態のマグナブリルには話しにくいよな…


「まぁ…ミリーズの事はマリスティーヌもついているんだろ? なら牢獄で暫く放っておけばいいよ…」


「ミリーズを一生牢獄に入れておけばいいというの!」


 アソシエは顔を上げて叫ぶ。


「いやいや、そういう訳じゃねえよ、恐らく、強壮剤の効果が切れれば、ミリーズも賢者モードになって、今までの行いを深く反省すると思うから…」


「賢者モード?」


「あぁ…女の皆には賢者モードって分からないか… 賢者モードってのは、男が主に興奮して致した後にスッキリして冷静になって我に返って、今までの自分の行いを反省する状態なんだよ」


 俺はそう説明しながら、チラリとマグナブリルを見て補足や同意してくれることを願ったが、マグナブリルはマッサージチェアに揺られながら、聞こえてない振りをしている。…くっそ…こういう事に関しては我関せずを決め込むつもりだな?


「…確かに、致した後のイチローは…なんだが毒気が抜けた感じで、いつもの後先考えなさとかヴァイオレンスさとか消えているわね…」


「私は、そんなダーリンも好きよ♪」


「ネイシュも一緒っ」


「私は…」


「ティーナ様」


 アソシエ、プリンクリン、ネイシュが賢者モードについて声を上げ、ティーナも口にしようとしたところで、マッサージチェアに揺られていたマグナブリルが制止するように口を挟む。…やっぱり聞いていたんじゃねえか…


「まぁ、そういう訳で、ミリーズの事は強壮剤が切れるまで放っておけば、解決する。そんな事よりも、新たな問題と言うか謎が発生したんだ、さっき、カイラウルより使者がやって来てな…それで支援物資はいらないし、シャーロットの返品不要とか言い出しているんだよ」


「なんですと!?」


 俺の言葉に、先程までのほほんとマッサージチェアに座っていたマグナブリルが立ち上がる。『わーい! マグナブリルが! マグナブリルが立ったわ!』なんてハイジのように思わず、やはり話がバカバカすぎてマッサージチェアに座っていたのかと確信する。


「驚くだろ? でも、実際に伝令の騎士が持ってきた書状にもそう記されているし…」


 そう言って、俺は書状を取り出してマグナブリルへと渡し、マグナブリルとティーナが書状を覗き込んで読み始める。


「まさか…本当に書いてありますな…」


「確かに貴族・王族の子女は外交道具として扱われる事が多いですが…こんなにあからさまに商品のように取り扱うとは…」


 マグナブリルとティーナは顰め面をしながら書状より顔をあげる。


「それで、イチロー様、相手の意図も分らぬうちに、皇女の追加注文はしておらぬでしょうな?」


「してねぇよ! 流石の俺でも、姉妹丼したいから妹をくれなんて非常識な事をいわねぇわ!」


「ダークエルフたちは皆姉妹で10人がイチロー様の嫁となっておりますが?」


「ぐぬぬ…」


 くっそ…マグナブリルの奴…アイリスの件にしろダークエルフたちの件にしろ、俺の黒歴史と言う名の古傷を掘り返してきやがるな…


「まぁ…姉妹うんぬんは、また暫く擦らせてもらうとして… こうなると今までのようなカイラウルの表面上の思惑だけではなく、もっと奥の真の目的を探る必要がございますな…」


 また擦るのかよ!


「そっちも擦るつもりなのかよ…もう許してくれよ…」


「なりませぬな、それよりも、真の目的を探るにしても、カイラウルの王宮に潜入捜査する人材がおりませぬな…」

 

「ここはイアピースのカミラルお兄様にお願いして、お兄様の調査機関におねがいしましょうか?」


 俺の願いをさらりと流して、マグナブリルとティーナで話を進める。そこへ、ネイシュが二人の前に進み出る。



「ちょっと、待って… その仕事は私に任せて…」


「ネイシュ様が?」


 マグナブリルは肩眉をあげる。


「私は、暗殺機関で洗脳をされて、様々な訓練をさせられてきた…冒険をしている時は、暗殺機関で得たスキルを活用することができたけど、ここに来てからは皆の様に活躍することは出来なった…だから、望まぬ形で覚えさせられた潜入、情報収集、暗殺のスキル…そんな能力しかないけど、私はイチローの為に頑張りたいの!」


 ネイシュが珍しく熱弁する。


「分かりましたわ、ネイシュ様もイチロー様の為に何かをなしたいのですね?」


「そうですな…いつまでもカミラル王子に頼ってばかりいてはいけませんし、アシヤ領として独自の調査機関も持たなければなりませぬな」


 二人もネイシュの言葉に納得する。


「分かった、ネイシュ…今回のカイラウルの調査、お願いできるか?」


「うん! ネイシュ、頑張る!」


 ネイシュは口角を上げて答える。


「でも、危険だと思った時はすぐに引き上げるんだぞ? 絶対に無理をするな!」


 こうして、ネイシュのカイラウルの潜入調査が決まったのであった。



連絡先 ツイッター にわとりぶらま @silky_ukokkei

pixiv http://pixiv.net/users/12917968

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