第611話 久しぶりの二人

※近況に新しいタイトル絵を投稿致しました。


 牧場でシャーロットと打ち解けて城に戻ろうとした時に、門番をしていたクリスがこちらに走ってくるのが見えた。


「イチロー殿~!!」


「どうした? クリス」


「お客様です! イチロー殿!」


「客人?」


 クリスが報告してくる客人と言う事で、悪い予感がして身構える。


「また嫁が輿入れしに来たとかじゃないだろうな…」


「また嫁の輿入れと言っている所を見ると、女好きは変わってないようだなイチロー」


 クリスの後ろから見知った姿が現れる。


「お久しぶりです、イチロー様、カローラ姉さんは元気にしてますか?」


「おぉ! ブラックホークとデ…ルミィーじゃないか! ホラリスに行くついでに実家にもどっていたんじゃなかったのか?」


 クリスの後ろから姿を現わしたのは、前回のヴァンパイア騒動で世話になったブラックホークとブラックホークに拉致…いや保護されたルミィーの二人だ。


「あぁ、両親にルミィーを取り戻した事を報告しに帰ったのだが… どういう訳か、また二人で旅をするように勧められてな… 丁度、ここにいるカローラにルミィーの事で相談したい事があったので、途中ホラリスからカイラウルに向けての護衛の仕事を受けながらやってきたのだ」


「はい、ぼく…いや私も…姉さ…いえ…カローラさんにお話したい事があるのでお兄様にお願いしたのです」


 デ…いやルミィーは頬を赤らめながら上目遣いで言ってくる。なんだかカローラよりも仕草が可愛いな…でも男だ…


「そうかそうか! よく来てくれた二人とも! 歓迎するぞ! それにここに来る途中でカイラウルに寄って来たんだよな? 丁度カイラウルの事を調べていたんだ。ちょっと話を聞かせてもらえるか?」


「あぁ、構わんぞ、丁度カイラウルからの書状も預かっているからな」


「書状?」


 もしかして、シャーロットの輿入れの事の確認をした返答か? だとしたら公式書類を自国の使者を使って送付するのではなく、言っちゃ悪いが一介の冒険者のブラックホークに運ばせたのか?


「ここでは何だから…そうだな話もあるし執務室で受け取ろう」


「分かった、ルミィーはどうする? 一緒に来るか?」


「いえ、私は姉…カローラさんとお話があるので」


 ルミィーはカローラと話があるようで遠慮する。恐らくホラリスに送った母のセリカの事で報告するつもりなのであろう。


「分かった、カローラとゆっくり話してくると良い、それと今日は城に泊って行ってくれ御馳走するぞ」


「あぁ、それはありがたい。暫くここで美味い飯を食ったお陰で舌が肥えてしまってな、他の場所では満足できず、またここの飯を食いたいと思っていた所だ」


 ブラックホークは以前は見せなかった穏やかな笑みを浮かべる。


「ルミィーもこの城には大浴場の他に一人で入れる風呂もあるから、ゆっくりと旅の疲れを流すといい」


「あっ… ありがとうございますっ!」


 俺の言葉の意図を察したようで、ぺこりと頭を下げる。ホント、仕草が可愛いな… だが男だ…


 こうして俺とブラックホークは執務室へと向かい、ルミィーは恐らくカローラがいるであろう談話室へと向かった。その途中、俺を探していたと思われるマグナブリルと出会う。



「イチロー様、お探ししておりましたぞ…おや? そこにおられるのはブラックホーク殿でございますか? これはこれは御久しゅうございますな、先だっては色々とお世話になりましたな」


 そう言ってマグナブリルは握手の手を差し出す。


「いや、構わん、そのお陰で俺は念願のルミィーとの再会を果す事が出来たのでな」


 ブラックホークは差し出された手を強く握り返す。


「で、マグナブリルは俺を探していたようだが、何の用だ?」


「カイラウルの情報が入ったのですが、後にした方がよろしいですな」


「いや、ブラックホークがホラリスからの仕事を受けてカイラウルに立ち寄ったそうだから、合わせて情報を付き合わせようと思う」


「よろしいのですか?」


 マグナブリルのこの「よろしいのですか?」は恐らくカイラウルの情報に合わせてシャーロットの事をブラックホークに話す事になるという意味だと考える。


「構わん、別に隠し立てするような事でもないしな、それにブラックホークは口が固くて信用できる男だ」


「ん? なんだイチロー、また厄介ごとでも抱え込んでいるのか?」


「まぁ、そんな所だ…詳しい事は執務室の中で話す」




 そういう訳で俺たち三人は執務室の中に移動して腰を下ろす。


「さて…まず初めに何があったのか説明しておいた方が話が分かりやすいと思うから説明しておく… カイラウルから何の報せも無く、突然に皇女…いや王女の輿入れがあったんだ」


「あぁ、例のアレがイチローの所にもあったのか… では俺が託された書状も恐らくその事だろうな…」


 俺の説明にブラックホークがそんな言葉を漏らして書状を俺に手渡してくる。


「ん? 例のアレって… カイラウルのいきなり王女を送りつけるのは有名なのか?」


 俺は書状を受け取りながら尋ねる。


「イチローの所の様に何の報せも無く突然にというのは他でも一緒かは知らんが、カイラウルが王族子弟をそこらの貴族や富豪に嫁がせるのはホラリス近辺では有名だぞ。なんせあそこの王族は子沢山だからな」


「私の方でも同様の事を聞き及んでいます… しかも普通に嫁がせるというよりかは…売り払っているのに近いかと…」


 マグナブリルも自身で掴んだ情報で補強する。


「なんだよそれ… それじゃ王室印の奴隷販売と代りねぇじゃねえか」


 俺はそんな感想を漏らしながら手渡された書状を開き目を通し始める。そして、その書状のあまりの内容に思わず声を上げてしまう。


「なんじゃこりゃ! これじゃまるで送りつけ詐欺じゃねぇか!!!」


「送りつけ詐欺?」


「イチロー様、その書状に一体何が記されていたのですか?」


 二人が俺の反応が気になって尋ねてくる。


「送りつけ詐欺と言うものは、注文していない商品を勝手に送りつけて代金を請求するという詐欺なんだが… なんでも書状によると相手の言い分は、先に輿入れを打診する書状を送ったはずだが、断りの返信が無かったのでシャーロットを嫁がせたそうだ。もし今から断るならシャーロットを綺麗な体で返してくれ、でも手を付けて居たり気に入ってもらえたなら、カイラウルの為に支援してくれだとさ」


「そ…それは誠ですか?」


 マグナブリルが信じられないといった顔をしたので俺はマグナブリルに書状を手渡す。


「なんという阿漕なやり方だな… しかし、手を付けてしまった以上支払いはせねばなるまい」


「してねぇよっ!」


「えっ!? してないのか!? イチローにしては珍しいな… 体調が悪いのか?」


 ブラックホークが目を丸くして驚いた顔をする。ったく…女相手なら、俺が待てが出来ない犬の様に思っているのかよ…俺だって待てぐらいできるわ! なんで体調の心配までされなきゃいけないんだよ!


 そして、マグナブリルが読み終えた書状がブラックホークにも渡り、読み終えた二人は頭にくるような、また呆れるような顔をする。


「王が自分の娘たちをこの様な扱いをするとは…」


「噂以上に酷いありさまだな…」


 二人がそんな感想を漏らす。


「それで、カイラウルの現状ってどんな感じなんだ? やはり二回の騒動の所為で困窮しているのか?」


「俺がホラリスから支援物資を護衛している途中の街や村々は確かに酷いありさまで人っ子一人いない状態だったが、沿岸部にある首都のカイラウルは全く被害は受けていない様子だったな。まぁ、災害から逃れた避難民で一杯だったが…」


「私の方でも同様に沿岸部の都市は被害を受けていないと報告を受けております。また、魔獣やアンデッドによって滅んだ内陸部の貴族の館から金品を回収し、それを使って当座の物資を買い入れているようですな…まぁ、現状ではそれがいつまで持つか分かりませぬが…」


 ブラックホークとマグナブリルがその様にカイラウルの現状を報告する。


「なるほど…どちらにしろ困窮している事には間違いなくて、それでカイラウルにとってはどこの馬の骨ともわからない俺にまで送りつけ詐欺みたいな事をして来た訳か…」


「では、イチロー様、この様な詐欺まがいな輿入れに乗る必要などございませんし、幸いシャーロット様も身綺麗なお身体と言う事ですので… シャーロット様はカイラウルに送り返される方向でよろしいですかな?」


 マグナブリルの確認に俺は言葉が詰まる。以前の俺なら即答でシャーロットを送り返していただろうが、牧場でのシャーロットの言葉を聞き、その人柄を知った今では即答できかねる。


「それは…ちょっと待ってくれ… シャーロット本人からの意向も聞いてみたい、それでいいか?」


「イチロー様がそう望まれるのなら…」


 マグナブリルはそう答えたのであった。



 

連絡先 ツイッター にわとりぶらま @silky_ukokkei

pixiv http://pixiv.net/users/12917968

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