第610話 シャーロットとの話し合い

※近況に新しいタイトル絵を投稿致しました~


 シャーロットがこのアシヤ領に来てからもう一週間程過ぎた。なんら手紙一つの連絡なしに輿入れの為にやってきたシャーロットを警戒しつつお客様扱いしてきたが、いい加減、お客様扱いからうちの子扱いに切り替えていこうと思う。

 うちの子扱いと言っても、いまだカイラウル本国の思惑の調査が終了していないので、美人局疑惑があり、未だに俺は手を出していない。俺は我慢が出来るいい子だ。


 さて、ここらでみんなのシャーロットに対する要望の事や、カイラウルとうちの領地との環境や認識の違いについてシャーロットに話をしておこうと考えた。


 そういう訳で今、シャーロットを探している所だ。最近のシャーロットの行動からすると、恐らく温室でシュリと一緒にいるはずだ。そんな訳で温室の中を歩いていた。



「この空心菜は塩でさっと茹でるだけで美味いし油で炒めても美味いのぅ、茎一本捥いでも一週間も経てば新しい茎が伸びてくるのでお勧めじゃぞ」


「まぁ、それでは何本も植えておけば毎日のように食べ放題ですわね」


「そうじゃ、こちらの大葉は香りが良いので色々な付け合わせに使えるが、わらわは味噌とごま油に付け込んだものをご飯と一緒に食うのが好きじゃ!」


「それは私も一度食べてみたいですわ!」


「食堂に置いてあるからカズオに頼んで出してもらうとよい!」


「話がはずんでいる所をすまんが…ちょっといいか?」


 二人の会話が終わるのを木陰で待っていたが、一向に終わる気配が無いので、陰からぬっと姿を出して二人に声を掛ける。すると二人がヤギか牛の様に緑の葉っぱをもぐもぐと食べている姿が見えた。


「あるじ様っ!」


「あら、イチロー様」


「…お前ら二人で何やってんの…?」


 二人は葉っぱをもぐもぐしながら答えるので、俺は呆れ気味に尋ねる。


「シャーロット殿に葉野菜の説明をしながら味見をしておったのじゃ」


「イチロー様も食べます?」


 そう言って、シャーロットは笹の様な細長い葉っぱの付いた茎を俺に差し出してくる。この小さな笹の様なものが本当に食えるのかと思ったが、実際に目の前でシャーロットがモグモグと口を動かして食べている。

 実際に二人が食べている目の前で海原雄山のように「こんなもの食えるか!」とは言えないので、素直に葉っぱを受け取り恐る恐る口元へと運ぶ。

 渡された葉っぱはシャキシャキとした心地よい歯ごたえで、癖の無い味で悪くはない…しかし、やはり何らかの調理が必要だ…



「どうじゃ?あるじ様よ」


「お代わりもございますわよ?」


 シュリが期待に満ちた瞳で見てきて、シャーロットがお代わりの葉っぱを差し出してくる。


「あぁ、美味いが…次は火を通した物が食いたいな」


 そう言ってお代わりはやんわりと断る。それよりも俺はシャーロットに用事があって来たわけで、道草…いや笹食ってる場合じゃないんだ。


 俺は口の中にのこる葉っぱをゴクリと飲み込んでシャーロットに向き直る。

 


「シャーロットに話があるんだけど、ちょっといいか?」


「えぇ、別にかまいませんけど」


 シャーロットはキョトンとした顔で答える。


「シュリ、シャーロットを借りていくぞ、じゃあシャーロット、ついて来てくれ」


 俺はシャーロットを引き連れて城の外にある牧場へと向かう。



「まぁ! 牛も豚も鶏も一杯いますわね!」


 シャーロットは牧場にいる家畜たちを見て感嘆の声を上げる。城の皆に満足できるだけの肉や卵、乳製品を食わせる為に数をガンガン増やしまくったお陰で、牛も豚も鶏も結構な数になっている。今では少し過剰生産気味になっていて備蓄をしたり、領民や領外に販売したりもしている。


「そうだろ? 十分毎日、肉や卵、乳製品を食えるだけの家畜がいる」


「イチロー様は毎日、そんなに肉や卵、乳製品を召し上がっておられますの?」


「ん? それはどういう意味で聞いているんだ?」


 俺はシャーロットの質問の意味が分からず聞き返す。


「…私の国…いや…私のいた場所では、牛や豚、鶏などの家畜は全てカスパル皇帝陛下が召し上がる為のものとされていまして、祝日や祭日などにだけ、私たちにも賜暇されるものです」


 真顔でシャーロットが答える。


「あーなるほど、分かった。つまり、ここにいる家畜は全部俺が喰う為だけのものだと聞きたかった訳だな… 確かに城の者で主導して運営・経営しているから領主である俺の物と言えない事もないが、俺一人で食う訳ではない。城の皆で食う為のものだ」


「やはり、そうでしたの…毎食毎食、肉も卵も乳製品を皆が食べているのでおかしいと思っていましたけど、これで納得がいきましたわ」


 そう言ってシャーロットは合点がいったようにポンと手を叩く。


「いやいや、おかしいのはこっちの食生活じゃなくて、そちらの食生活だろ…一体、今までどんな生活をしていたんだよ…」


「そうですわね… ティーナ様やアソシエ様たちは皆、イチロー様の奥方たちですよね?」


「ん? そうだが?」


「それで、ティーナ様方が面倒を見ておられる御子たちは、それぞれイチロー様とその奥方様の御子ですよね?」


「そりゃそうだろ、たまに手の空いているものが、他の子の面倒を見ている時もあるが、基本的には自分が産んだ子の面倒を見ているな」 


 再び、質問の意味が分からないので俺は片眉をあげる。


「私の国…いや私のいた場所では、産まれた御子はすぐに母親から離されて別の場所で、育てられます。私もそうでした」


「えっ!? そうなの? 母親と引き離されて寂しくないのか!?」


 シャーロットの育った環境が余りにも特殊すぎるので、俺は目を丸くして驚く。


「産まれてすぐなので母の顔も知りませんし、乳母や上の姉たちがよく面倒をみてくれていたので寂しくはありませんでしたね。それに兄弟たちも同様で、大きくなってからの教育で、皇族は母方の外戚の権力介入を防ぐための当然の処置だと習いましたから、今こうして他の子供の育て方を見ても、私の育ち方が特に異常だとは思いません」


 他人が聞けば普通に憐れな境遇の様に聞こえるが、シャーロットはその言葉通り、少しも悲しそうな顔をせず淡々と話す。

 

「後、ここに来て思った事なのですが…」


「なんだ?」


「もしかして…私の国…いや私のいた場所… 実は大したところじゃないんじゃないですか?」


 俺はぷっと吹き出しそうになる。


「そうだよ、今まで気が付かなかったのか?」


「だって、私の様な皇族は嫁いで外に出る以外には、外界と接する機会が無かったのですよ。他と比べようがありませんわ」


 そこまで気が付いていたら、カイラウルが帝国ではない事も話そうかと考える。しかし真実を話したらシャーロットが落ち込むのではないかとも考える。…どうしたものか…でも、ここに居たらいずれ気が付く事だ。なら、今話しても問題はないだろう。


「いや、実はな…シャーロットがいた所に限らず、カイラウル事態がな…大したことなくて、その上、帝国でもなく…ただの弱小国家でしか無いんだ…」


「やっぱりそうでしたの、そうじゃないかと思っていましたわ」


 俺は気を使いながら話したのだが、当のシャーロットは何でもないような事の様に答える。


「何だかがっかりとか気にしてないって感じだな…」


「えぇ、私自身が国営を行っていたならまだしも、自分のあずかり知らぬことで、気を落としても仕方ありませんわ」


「確かにそうだな…皇女と言えどシャーロットが国営をしていたわけじゃないからな」


「そうですわ、そんな自分の関与できない事で他人の顔色を伺いながら生きるなんてまっぴらごめんですわ! 私の祖国が帝国でなければ、私のいる場所を帝国にする… 今はまだそうでないとしても、未来に必ずそうなる様に目指す… そんな感じに私は私自身が出来る事で自由に…そして、自分自身で成しえたもので誇りを持って生きたいですの! イチロー様だってそうでしょ?」


 シャーロットは自信に満ちた笑みで俺に問いかけてくる。


「ハハハ! 確かにそうだ! その通りだ! 俺も自分のあずかり知らぬ事で他人の顔色を伺いたくねぇな! 常に何かを目指す自分でもありたい!」


 俺はシャーロットの言葉に笑いながら共感した後、シャーロットに握手の腕を伸ばす。


「じゃあ、シャーロット、これからもよろしくな」


 シャーロットは俺の腕をチラリと見た後、握り返して微笑みかけてくる。


「えぇ、よろしくですわ、イチロー様」



 この日を境に、俺の中のシャーロットの評価は出会ったその日から180度転換したのであった。

  





連絡先 ツイッター にわとりぶらま @silky_ukokkei

pixiv http://pixiv.net/users/12917968

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