第608話 シャーロットの奇妙な行動

 カローラの魅了の魔眼で、シャーロットになんら企てが無い事が分かって以降、皆のシャーロットへの接し方が、腫物を触るような触れ方から、シャーロットがここの環境に早くなれる様に新人に優しく接するやり方へと変わっていった。


 シャーロットの方も皆の接し方が変わったがそれに困惑することなく皆と接している様だ。特にどういう訳か、シュリとは良く農業の事を話している様で、実際に一緒に作業をしてたりもする。シュリ自身、人によって態度を変える人間では無いので、接しやすいのもあるだろう。


 次に良く接しているのがカローラだ。どうやらカイラウルにいた頃は娯楽が少なかったらしく、娯楽を極めているカローラから紹介されるゲームや本は、目新しく新鮮に感じるのであろう。そんなシャーロットの初々しく感動する反応にカローラもご満悦らしく、甲斐甲斐しくシャーロットにゲームや本を勧めている。つまらなくて面白みのないって言っていた割にはカローラにとってお友達状態になっている。

 

 最後に良く接するのがポチだ。本物のフェンリルで人間の言葉を話し人化も出来るという事なので、オーディンもどのようにすればそうなれるのか話しかけているそうだ。しかし、それに付き合う豆柴のオーディンの方は、ポチ自身がオーディンに特に何もしないと分かっているが、あまりの格の違いを承知しているので、毎回、超ビビりながら主であるシャーロットに付き合っている様だ… 御気の毒様だ…


 こんな感じにシュリやカローラ、ポチと仲良く過ごしているので何の問題も無いかというとそうではない。幾つか問題と言うか奇妙な報告が上がってきている。その一つがメイドからの報告だ。

 シャーロットはここに来るときにメイドの一人も同行させていなかったので、こちらのメイドで身の回りの掃除・洗濯などするつもりであったが、メイドが仕事をするのを全て断ってなんでも自分でこなしている様だ。

 なんでも、「皇族の者は暗殺などを恐れて、部屋の掃除や身に付ける衣服は全て自分自身で掃除・洗濯などの処理をしなくてはならないのよ、ご存じなくて?」と宣うそうだ。じゃあ、飯はいいのかよと思うのだが、そこは良いそうだ。わかんねぇ〜 一番気を付けないといけない所だろ…

 また会食ではない食事の時に、普通の貴族なら食べ終わった後、何もしないのが普通であるが、シャーロットは自分の食器を片づけて厨房まで持っていく様だ。もし、厨房の洗い場に人がいない場合は勝手に自分で食器を洗っている時すらあるようだ。

 自称皇女を名乗っておきながら、なんで躾の良い一般家庭の子女みたいな事をしているんだ?


 また他の仲間からの話もある。ティーナがシャーロットと話した後、難しそうな顔をしていたので、何かあったのか尋ねた時だ。


「どうしたんだ? ティーナ、シャーロットと話していたみたいだが、何か言われたのか?」


「いや…そのシャーロット様に自慢話を聞かされていたのですが…」


「あぁ…最初話していた時からカイラウルの事を帝国だって言って鼻にかけていた所があったからな…俺からあまり自慢話をしないように注意しようか?」


 するとティーナはあわあわと手を振って気をつかわないで良いという仕草をする。


「いえいえ、大丈夫です、イチロー様、その…自慢話と言うのが…大したことない内容なので自慢されている様にも見下されているようにも思えないんですよ…」


「大したことないって、どんな自慢をされたんだ?」


 するとティーナは困った顔をして答える。


「父国王の妻の数と私の兄弟の数を聞かれて、私の方はお父様の妻も私の兄弟の数も100人以上よ! 凄いでしょう!って言われて自慢されたのですが…そんなもの自慢されても…」


「あー ティーナもその自慢をされたのか… 実は俺もされたんだけど… 蟻族の連中を全部含めれば120人以上になるから俺の方が上だなって答えたら、涙目になって、でもお父様の子供の数と私の兄弟の数は私の方が上ですわって言われたぞ… 俺は何かのギャグかと思ってたわ」


「…とりあえず、イチロー様はシャーロット様の様に妻の数を自慢なさったりしないでくださいね」


 ティーナは真顔で言ってくる。他にも妻がいる事は了承してくれたが、やはり100人以上も妻がいるというのは世間体が悪い様だ。


「あと、服装の事についても言われましたね…」


「…麻のドレスを来ているシャーロットが何言って来たんだよ?」


「虫から作ったシルクのドレスを着て気持ち悪くないの? その点、私のドレスは麻で出来ているから、丈夫で通気性もばっちりと仰ってました… 確かに麻製の方が通気性も良くて丈夫かも知れませんが… イアピース…しかもイチロー様の領地は温暖なカイラウルに比べて北方にありますので… 今はまだ温かいのでよろしいですが…麻製のドレスなんか来ていたら… シャーロット様、死んじゃいますよ?」


「俺もその辺りは気にしていた… そもそも自称皇女がなんで衣装の耐久性を自慢しているんだよ… 分けわからん… 後、ティーナの言っている様に寒くなって風邪でも引かれたらたまらんからな… その内、着替えを含めて衣装一式渡そうと思ってる」


「是非とも早急にお渡ししてあげてください…シャーロット様は私に麻の衣装を自慢されていたんですが、実の所、やはりここの気候が寒いのか鳥肌を立てておられました… そんな状況で麻の衣装を自慢されている御姿が痛々しくて…」


 そう言ってティーナはシャーロットの事を心配しているのか目を伏せる。するとそんなところに、アソシエがやってくる。


「あら、イチロー、新妻を困らせているの? そんな事しちゃダメよ」


「いやいや、そんな事してねぇって、シャーロットの事で話を聞いていただけだ」


 俺がシャーロットの名前を出すと、アソシエはあーって感じに察したように表情が変わる。


「ティーナ様もあのシャーロットに変な話をされたのですね?」


「と、いうことはアソシエ様も?」


 アソシエはティーナに溜息で答える。


「えぇ、私の事、魔術師と分かっていたみたいで、この国でどれぐらいの強さなのか聞かれたのだけど… 私より魔法の得意な者なんか腐るほどいるからランキングには入れないって答えたの… じゃあ、私は兄弟の中で10番目に魔法が上手いって言われていたって言い出してきたのよ… 最初、何の事を言っているのか分からなかったけど、後で自慢されていたんだと気付いたわ…」


「国の中でのランキングと兄弟の中でのランキングを比べられてもな~ そりゃアソシエも意味が分からなかっただろ…」


「後、その時、喉が渇いたから食堂に訪れていたんだけど…」


「まだあるのか?」


「えぇ、食事の事でカズオに詰め寄っていたわ…」


 多分、カズオが…女性にとっては人畜無害と言っても、皇女がハイオークなんて直で見たことが無いはずなのに良くあのカズオに詰め寄るな…


「で、何を言っていたんだ?」


「…皇女の私が来たからといって、持て成す為に毎食の食事にあんなにふんだんにバターやチーズの乳製品、高価な肉や卵も使わなくて良い、実家の帝国とは違って、ここはただの一王国の一領地なのでお金が持たないわよって、カズオに言い聞かせていたわ…」


「そりゃ…カズオも困ってただろう…」


 話を聞いた俺は苦笑いを浮かべるが、実際にシャーロットから話をされたカズオも苦笑いを浮かべていた事だろう。


「えぇ、今のイチローみたいに苦笑いを浮かべて困っていたわ… だから、シャーロットが立ち去った後に、面倒ならシャーロットの食事だけ乳製品・卵・肉無しにしたらっていったら、カズオがそれはそれであの娘さんだけいじわるしているようで心が痛むって言ってた…後でイチローがフォローに行ってあげて… カズオとシャーロットの二人にね…」


 アソシエは見た目ツンケンしている所があるがなんだかんだいって、根はやさしい奴だからな…カズオの事も…そしてシャーロットの事も放っておけないのか…


「分かった、二人には俺から話をしておくよ…」


 シャーロットに裏が無い事は分かっても、シャーロットがどこかおかしい事を再確認したのであった。




連絡先 ツイッター にわとりぶらま @silky_ukokkei

pixiv http://pixiv.net/users/12917968

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