第601話 知っている様な知らないような新たな嫁

 あ…ありのまま 今起こった事を話すぜ…

 な…何を言っているのかわからねーと思うが 俺もなんで他国の王女が輿入れしてく

 る…のか分からなかった… 頭がどうにかなりそうだった…妄想だとかラッキーチャン

 ス…だとかそんなあり得ないものじゃ断じてねぇ もっと更に嫁が増えるかもとかそんな

 き…らくに思える状況ではない悪い予感を味わったぜ…


 俺がそんな感じにクリスから伝えられた状況を考えていると、そのクリスの後ろからあからさまに不機嫌そうな顔をしたマグナブリルが現れる。…ほらね、悪い予感が当たっただろ?



「イチロー様…」


 早速、背中に『ゴゴゴ!!』と効果音でも背負っていそうな形相だ。


「げっ! マグナブリル様!?」


 そんな恐ろしい形相のマグナブリルが突然背後に現れた事に、クリスが呂布に遭遇した雑兵のように驚く。


「これ、クリスよ! 私の姿を見ただけで汚い言葉を使うでない! それに今はクリスに話があるのではない、イチロー様に話があるのだ」


 そして、マグナブリルは恐ろしい形相のまま俺の方に向き直る。


「先程、新たに他国の姫君が輿入れされたと聞き及びましたが…どういうことですかな…? 先日の大挙式大会は…まぁ…以前の事ですから多めに見ておりましたが… ティーナ様が嫁いできて、まだひと月も立たぬうちに新たな妻を迎えるとは…これは流石に看過できませぬぞ!!」


「いや…ちょっと待ってくれ! 俺も知らないんだ! クリスから聞いて俺も驚いていた所なんだよ!!」


 なんだか主人公に追い詰められた雑魚キャラのような言い訳…いや弁明を必死にする。



「それは本当ですかな?」


「本当だ! そもそもホラリスから戻ってからずっとヴァンパイアの襲撃に対処していたんだ! 新しい女…特に他国の姫を口説く時間なんて無かった!」


「言われてみれば…確かにそうですな… しかし、ヴァンパイアの襲撃があって到着が遅れていただけで、どこかでその様な事をなさった記憶はございませぬか?」


 マグナブリルがギロリと睨み、俺は目を泳がせながらその目を避ける。


 記憶にございませぬか?って…ありまくり過ぎて、どの女だったのかわかんねーよ!


 俺は蛇に睨まれたカエルの様に汗を流し始める。


「ふむ…やはり身に覚えがある…いや…これは…数が多すぎて誰なのか決めかねている…と言ったところでしょうか…」


「なんでズバリそのものを当ててくるんだよ!」


「イチロー様の表情は読みやすいですからな… 腹黒どもが蠢く王宮で勤めてきた私にとっては貴族のポーカーフェイスを持たぬイチロー様の表情など、文字が書いてあるのに等しいですな」


 ぐっ! やはり貴族や王族はそんなスキルを身に付けていて当然なのか… 一般人の俺がそんなスキル持っている訳がねぇ…そんなの一般人で持っているのは京都人ぐらいなものだ…


「まぁ、イチロー様が過去に致してしまって、今こうしてこの城に輿入れしてこられているのなら…丁重にお迎えせねば外交問題になるかもしれませぬ、私も一緒にお迎えに参りましょう… して、クリスよどこの国の姫君なのだ?」


 マグナブリルはくるりと視線を変えて、そろりそろりと忍び足で立ち去ろうとしていたクリスを呼び止める。


「はひぃ! その…あの… 先方は…帝国から参ったと仰っただけで…」


「は?」


「帝国?」


 俺とマグナブリルは二人同時にクリスの言葉に疑問符が浮かぶ。


 それと言うのも、この大陸に帝国を名を冠する国は存在しない。今は魔族の戦いがあるので、人類同士で他国を属国にするような戦いは行われていないし、魔族との戦い前にもある体の協定が組まれていたのでそんな国は存在しない。


「イチロー様、このローラシ大陸を離れて別大陸に行かれた事は?」


「ないよ、ずっとこの大陸で魔族の相手をしていた」


 再び俺に向き直ったマグナブリルに他大陸に行った事が無いと着いた得ると、再びクリスに向き直って考え出す。


「ふむ…魔族との戦いの最中であるこの大陸に、他の大陸の…しかも帝国の姫君が訪れる分けなど無い… クリスよ、その他の聞き間違いではないか?」


「いえ…私が帝国ですかと聞き返してもそうだと仰ったので…」


「数多ある王国とは違って帝国はただ一つだから敢えて国名をなのる必要がない…と昔の帝国の皇帝は申していたそうですが、今はそんな事を偉そうな事を言えるような大層な帝国はございませぬからな… 精々、別大陸の方で、跡継ぎたちに分国した国の本家が帝国と名乗っている程度… クリスよ国名を名乗らなくても、掲げる紋章でどこの国かわかるであろう? 其方も元はイアピースの貴族令嬢、紋章学は学んでおろう?」


 紋章学か…たしかロアンが詳しかったな。あの紋章はどこどこの国の伯爵様とか男爵とか教えてくれた立ち振る舞いに気を付ける様に言われていたな。


「それが…紋章が見当たらなくて…」


「紋章が見当たらない? そんな訳はないであろう、王族であれば馬車に紋章は必須、それも見落とすような大きさではないはずだ!」


 そう言ってマグナブリルは青い顔をするクリスに詰め寄る。


「そっ、それが…王族の使うようなコーチやリッターなどの馬車ではなく…乗合馬車…いや、ほぼ荷馬車に近いの乗り物で来られたので…紋章が…」


「「はぁ?」」


 俺とマグナブリルの声が被る。


「帝国か王国かは知らないけど、姫様がそこらの荷馬車で嫁いでくるなんてあり得るか?」


「あり得ませぬな…」


「じゃあ、どこぞの頭の悪い詐欺師が玉の輿に乗ろうと娘を送り込んで来たとかか?」


「うーん、その可能性が非常に高いですが…事情があって人目を忍んでやってきたのかも知れませぬ...門前払いする前に一度ぐらいは確認した方がよろしいでしょうな。後、この様に思わせた上でのテロを仕掛けて来るやもしれません、クリスよ、蟻族には事態を伝えて最大限の警戒態勢を敷くのだ!」


「わっ わかりました! マグナブリル様! すぐさま蟻族の皆さんにお願いしてきましゅ!」


 慌てたクリスは最後の言葉を嚙みながら駆け出していく。


「なんだか大変な事になったようね、イチローさん」


 事態を眺めていたハルヒさんが声を掛けてくる。


「あぁ、一応念のため、ハルヒさんも安全な場所にいてもらえるか?」


「分かったわ! 部屋に籠っているわね!」


 それもどうかと思うが、実際の所、それが一番安全だろう…


「あるじ様よ、わらわも念のためについていこうか?」


「そうだな、頼めるか…その前に…」


「どうしたのじゃ?」


 シュリが首を傾げる。


「いや、普段着のままだから…もし本物だった時の事を考えて着替えにゃならんな… 着付けの手伝いも頼めるか?」


「あい、わかった。手伝おう」


 こうして、謎の姫君に会う為の準備を行ったのであった。

  

連絡先 ツイッター にわとりぶらま @silky_ukokkei

pixiv http://pixiv.net/users/12917968

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