第584話 英姉カローラ

※近況報告に新しいタイトル絵を投稿しました~ 是非とも見て下さい。


 城へと向かうレヴィン・トレノ、そしてデミオの三人。その目標である城にはほぼ警備の蟻族はおらず、無警戒に見える。


「キャハハハ! これで下等種の人間を攫いたい放題よ!」

「この際だから、城にいる下等種を全て蹴散らせてやらない?」

「いいわね! あの勇者を名乗っているあの男がどんな顔をするか見てやりたいわ!」

「「キャハハハ!!」」


 今まで蟻族やイチローによって苦戦を強いられていたレヴィンとトレノの二人がカローラ城の主線力の不在に笑い声を上げて喜ぶ。


「姉さん! 僕らは城の者たちの血を吸って力をつける事が目的だ! 復讐で血を吸えなくなるような事は止めて下さい!」


 弟デミオが復讐に燃える二人の姉に釘をさす。


「キャハハハ! そんな事ぐらい分かっているわよ! デミオ!」

「そうそう! 血を吸った後、死体を誰か分かるように首だけ残してぐちゃぐちゃにしてやるのよ!」


「また、そんな悪趣味な…ヴァンパイアである我々はもっと気品と節度をもった行動をしなければ、お父様やお母様のような立派なヴァンパイアにはなれませんよ…」


 デミオは呆れた口調で告げる。


「キャハハハ! 蟻を踏み潰すのに気品とか節度とか必要かしら? 私は蟻を踏み潰す作法なんて聞いた事無いわよ!」

「そうそう! しかし、警備の蟻が一匹もいないようだけど…下等種は本当にバカね! 私たちの陽動に引っかかって、誰も城に残していないなんて!」

「「キャハハハ!」」


 自分たちの作戦が完全に成功したと思った二人が高笑いを上げていると、どこからとなく闇の中から声が響く。


「フフフ…誰かの事を忘れてはいないかしら…」


 その声に悦に浸っていた双子の姉妹は、苛立ちを覚えて、その不敵な笑い声を上げる人影に視線を向ける。するとそこには見慣れた人物の姿があった。


「カローラ!!」

「貴方、残っていたの!?」


 城の高台にいる人影は黒髪を流れる様に靡かせながら、その大きな真紅の瞳を開き双子の妹たちを見据える。


「私は…あのイチロー様にこの城を任せるに足ると信頼されて、この場を託されたの… お前たち愚昧如き、この私が成敗してあげるわっ!」


 カローラは片目を手で覆いながら、妹たちに腕を差し伸ばす。


「前回は私たちにやられて下等種の後ろにおめおめと逃げ隠れておきながら、私たちのことを愚昧ですって!?」

「カローラの癖に生意気よっ! 二度と私たちに歯向かえないように痛めつけてあげるわっ!」


 格下だと思い見下しているカローラに挑発された二人は怒りに任せてカローラに襲い掛かる。


「レヴィン姉さん! トレノ姉さん! 怒りに身を任せちゃダメだ!!」


 

 弟のデミオが怒りに身を任せる二人に声を上げる。



「フフフ…フハハハハ、ハーッハッハッハッハッハ!! さぁ、舞うがいい!! 姉の財宝! ゲート・オブ・カローラ!!!」



 カローラは我を忘れて飛び掛かってくる妹たちに、自身の闇の触手を無数に伸ばし、闇の触手ごとに展開した収納魔法の中から、剣を取り出して、妹たちに幾重もの斬撃を繰り出す!


「キャハハハ! 闇の触手に剣を持ったところで私たちに敵うと思って…ギャァァァァァァ!!!」


 カローラの闇の触手が剣を持ったぐらいで自分たちに敵うはずもないと考えていたレヴィンは斬撃を受けた瞬間、猛烈な痛みの悲鳴をあげる。


「レヴィン!! カローラっ! 貴方、レヴィンに何をした… ウガァァァァァァ!!!」


 カローラの斬撃を受けたトレノも痛みの悲鳴を上げる。


「ただの剣だと思ったの? 残念! 貴方たちの苦手な聖氷の剣よ!! 刀身部分は私でも触ることが出来ない聖氷だけど、グリップは聖氷ではない普通のグリップだから、こうして私の闇の触手でも使えるのよ!」


 腕組みをして仁王立ちをするカローラ。その背後に無数の闇の触手が聖氷の剣を携えている。


「キィィィィィ!! カローラのくせにたかが聖氷の剣を持ったぐらいに調子づいちゃって! 生意気よ!」

「しかもヴァンパイアくせに聖水を武器に使うなんて頭おかしいんじゃないの!? でも…

理屈が分かればそんなものっ!!」


 トレノはそう叫ぶと闇の触手が掴む聖氷の剣にファイアーボルトの魔法を投げつける。

するとファイアーボルトが命中した聖氷の剣の刀身は、ガラスが割れる様な甲高い音を立てて砕け散る。


「どう! こうして一本一本潰していけば、今まで通り、ただのカローラに逆戻りよっ!!」

「キャハハハ! 土下座して謝るなら今の内よっ! カローラ! でも、私たちを傷つけたからもう許してやらないんだから!!」


 レヴィンもトレノも勝ち誇った笑みを浮かべるが、一方、聖氷の剣の一本を砕かれたカローラはそんな様子に悔しがる事も無く、逆に口元に不敵な笑みを浮かべる。



「フフフ…貴方たち…今持っている聖氷の剣が全てだと…思っていたの?」



 カローラがそう告げるとレヴィンとトレノの顔が徐々に青ざめていく…なぜなら、カローラが闇の触手によって展開した収納魔法の中から、新たな聖氷の剣が無数に現れたのである。



「愚昧ごときが、姉に歯向かうとか…面白い余興ね!足掻いて見せるといいわ! 姉の財宝の中の聖氷の剣が尽きるまでね!!」



 カローラがそう声を上げると、先程よりも更に増えた無数の聖氷の剣がレヴィンとトレノに襲い掛かる!


「レヴィン・トレノ姉さんっ!!!!」


 二人の姉の危機に様子を見守っていた弟のデミオは、二人を助けようと飛び出すが、不意に目の前に人影が現れ、デミオの身体を切り上げる!


「ぐはっ! なっ! 何者!?」


 切り上げられた事で跳ね飛ばされたデミオは切られた傷口を押さえながら、突然現れた人影に問い質す。


「…お前…カローラ姉ちゃんの本当の弟…なんだろ?」


「カローラ姉ちゃん!? 本当の弟!? お前は何を言っているんだ!?」


 突然現れた謎の人影が口にする言葉に、デミオは意味が分からず困惑する。


「本当の弟なら…なんでカローラ姉ちゃんの側にいて、味方になってやらないんだよっ!!」


 謎の人影の正体…見た事のない鎧を纏った人間の若い男は、再び訳の分からない錯乱したような言葉の声を上げる。


「おっお前…人間の男だな!? そんな人間の男が…なぜカローラ姉さんの事を姉呼ばわりするんだっ! お前! 一体何者だっ!!」


 デミオは訳の分からない事を述べる若い男を睨みつける。



「…俺の名は、ヤマダ・タロウ… カローラ姉ちゃんの魂の弟だ!! この俺が弟としての正しい姉との接し方をお前に叩きこんでやる!!! 歯を食いしばれ! そんな弟!俺が修正してやる!!」


「本当に…お前は…一体何を言っているんだ…」



 デミオはヤマダ・タロウと名乗る男の言葉に更に激しく困惑するのであった。






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