第558話 恐ろしい予測

※また近況に新しいタイトル絵を投稿しました。

※後、本日五月七日は私の誕生日です。プレゼントにいいねやブクマ、評価やコメント頂けるとありがたいです~



「ふぅ~ さっぱりした~」


「さっぱりしましたねぇ~ そう言えば、イチロー様、女湯の方に領民の方が来てましたが、男湯の方にも領民の方は来ていたんですか?」


「あぁ、来てたぞ、っていうか、大浴場を領民にも解放しろって言ったのは俺だからな」



 今まで大浴場は城の者にしか解放していなかったが、領民にも温泉の良さを知ってもらう為、領民にも無料で解放するように取り計らったのだ。やはり、良い物は皆にも共有して共感してもらうのはいいな。一緒に入っていた領民たちの反応も良い感じであった。



「あっ、旦那ぁ、いらっしゃい! 夕方に来られなかったんで、どうされたかとおもいましたよ」



 ほっこりとした俺とカローラが食堂に入るなり、カズオが声を掛けてくる。



「いや、色々あってな… それで食べそこなったんだよ…で、ヴァンパイアの襲撃があって、それを終わらせて、シュリの様子を見た後に風呂にはいってから飯を食いにきたわけだ」


「そうなんですか、それでシュリの姉さんはどうでしたか?」


「うーん…それがな…」



 俺は明言することをせずに、シュリの部屋から回収した冷めた骨付きあばら肉を取り出し、カズオに渡す。



「あー… やっぱり、シュリの姉さん、まだ機嫌を損ねたままなんでやすね… こちらはいつもの様に温め直して召し上がりやすか?」


「あぁ、頼めるか」


「では、すぐに温め直しやす」



 俺はカズオに冷めた骨付きあばら肉を手渡すと、今日の晩飯をトレイに載せてテーブルへと向かう。


 テーブル席に向かうと、ディートとマリスティーヌが一緒に飯を食っていたので声をかけた。



「おぅ、二人も遅めの飯だったのか」


「あぁ、イチローさんっ!! 私はこれを頂く為に、遅めの食事にしていたんです」


「僕はアインさんに部屋の掃除をするから、食事に行くようにと言われたんですよ」



 二人と一緒のテーブルに腰を降ろすと、ディートは俺たちと同じナンとカレーのセット、マリスティーヌは前にカズオに渡した味噌煮込みトンカツを食べていた。



「これっ! めちゃくちゃ美味しいですよっ!! 卵とじでないのにこんなに美味しいとは思いませんでしたよっ! 残念なのはお米と一緒ではなく、ナンとところが悔しいですね…」


「僕も一切れ頂きましたけど、凄く美味しいですね… お米が欲しくなるのも分かります」


「あぁ、米は輸入品だからな…ヴァンパイアの襲撃で交易が止まっている現状では、常時お米が食べられる状況は無理だな…」



 そう言いながら俺はナンを千切ってカレーにつけて食べる。実の所、カレーもナンよりはお米と一緒に食べる方が好きなのだが、この非常時に我儘は言ってられない。



「シュリが栽培を成功させてくれたら米で困る事は無いんだが…あの状況ではな… 折角、お土産に種もみとか持って帰って来たんだがな…」


「あの状況ではって… シュリさんがどうかされたのですか?」



 マリスティーヌが首を傾げて聞いてくる。



「いやな…色々訳があって俺がシュリを怒らせちまって、それでシュリがトカゲのイグアナになってもう二三日、俺の話を聴こうとはしないんだよ…」


「えっ!? シュリさん、まだ怒っているんですか?」


「ひぃ~ 辛いっ!! 私、ちょっと水を汲んできますねっ!」



 話に目を丸くするディートに、俺が答えようとすると、カレーを食べていたカローラが、カレーの辛さに耐えられず、水を汲みにいく。それと入れ替わりでカズオが温め直した骨付きあばら肉を持ってくる。



「旦那ぁ~ 骨付きあばら肉を温め直してきやしたよ」


「おっすまねぇな、カズオ」


「…しかし…おかしいですね…シュリさんがそんなに長期間、機嫌を損ねたままなんて…」


「あっ、マリスティーヌの嬢ちゃんもそう思いやすか?」


「僕もちょっと、そう思ってました」



 マリスティーヌのシュリに対する発言にカズオもディートも同意する。



「いくら大切なバナナをイチロー兄さんに全部食べられたとしても、ここまで長期間怒るのは珍しいですね…カローラさんなら分かりますけど…」


「ねっとり後まで引きずり回すカローラさんならまだしも…竹を割ったような性格のシュリさんが、ここまでへそを曲げるのは今までのシュリさんからすると信じられないですよ」


「そうでやすよね、カローラ嬢なら兎に角、シュリの姉さんは旦那にバナナを食べられたって、ちょっと愚痴をこぼす程度で、次の日には綺麗さっぱり忘れてそうでやすよね…」


「…ねぇ…なんの話しに私の名前が出てきたの?」


 

 ディート、マリスティーヌ、カズオのそれぞれが今回のシュリの態度に意見をしていると、水を汲んできたカローラが戻ってくる。


 俺たち全員は無言でキョトンとしているカローラに向き直るが、何も答えず、顔を戻し、また皆でシュリの話を再開する。



「いや、俺もおかしいなとは思っているんだよ…イグアナになったシュリに話しかけて宥めようとはしているが、その反応が怒っているというよりは、ホント野生のイグアナの反応なんだよ… まだ、そっぽ向かれたり、逃げ出されたりする方がマシだ…」


「ねぇねぇ!! だから何の話で私の名前がでてきたのよっ!!」



 自分の名前が出てきた事を気にするカローラが騒ぎ始める。



「カローラ、骨付きあばら肉をやるよ」


「私も味噌煮込みトンカツを一切れあげますね」


「わーい! 骨付きあばら肉と味噌煮込みトンカツっ! カローラ、骨付きあばら肉と味噌煮込みトンカツ、大好き~♪」



 カローラは子供の様に喜び始める。



「カローラだけではなく、皆もよかったら骨付きあばら肉を摘まんでくれ」



 そう言って俺は骨付きあばら肉をテーブル中央に差し出す。



「骨付きあばら肉ですか、かつ丼やトンカツも美味しいですが、イチローさんの骨付きあばら肉も大好きですよっ! 初めに出会ったのがかつ丼で無ければ私の一番になっていたはずです」


「では、あっしも一本頂きやすね、旦那の鹿で作った骨付きあばら肉の味が気になりやす」



 マリスティーヌもカズオも嬉しそうに骨付きあばら肉に手を伸ばすのだが、ディートだけは手を伸ばさない。



「ディートは骨付きあばら肉をたべないのか?」


「いや、先程のシュリさんの事を考えていたもので…」


「シュリの事… それで何かいいアイデアが思いつきそうなのか?」



 俺は骨付きあばら肉を齧りながら尋ねる。



「いいアイデアと言うか…ちょっと…いやかなり恐ろしい憶測が思い浮かんだもので…」



 ディートは青ざめた顔をあげて俺を見る。



「…恐ろしい憶測ってなんだよ…」



 俺は齧り付いていた骨付きあばら肉をトレイに降ろす。



「イチロー兄さんは、イグアナになったシュリさんがまるで野生のイグアナの様だって仰ってましたよ?」


「あぁ、そうだ…言葉の分からないただのイグアナにでも話しかけている様だったな…」


「やはり…」



 ディートは更に青ざめた顔で口を覆う。



「やはりってなんだよ! 教えてくれ! ディート!」



 俺は前のめりにディートに尋ねる。



「厳密に調べてないので…こ、これは僕の憶測にしか過ぎませんが…」



 俺はゴクリと唾を飲み込み、ディートの次の言葉を待つ。



「イグアナに変化したシュリさんは… そ、その…知能まで…イグアナになってしまったため…も、元の姿に戻れないのではないかと…」



 俺はその言葉にさっと自分の血の気が引いていくのを感じた…




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