第557話 乙女な二人
※近況に新しいタイトル絵をあげました。
「イチロー! やったじゃないか! 凄いな!!」
ヴァンパイアの襲撃後、俺が地上に降りると地上で蟻族を指揮していたブラックホークが駆け寄ってくる。
「あぁ、ブラックホークの指示で聖氷弾を弾数を気にする心配がないぐらいに増産していてくれたからな、数の暴力で敵を圧倒することが出来たよ、ところでそちらの方はどうだった? 被害は出てないか?」
「人的被害は出てないな…ただ、向こうもやり方を変えて来て、積極的に一般人の人質を取ろうとして、家屋が破壊されたぐらいだ」
後で修理が効く家屋の被害なら安い物だ。そんな時、俺の腹がぐぅ~となる。
「あっ、すまん夕飯をまだ食ってなかった物で…」
「そうか…なら後始末は俺に任せてイチローは飯でも食ってこい」
そう言ってブラックホークは口元に笑みを作って拳を差し出す。
「じゃあ、済まんが後は頼んだ」
俺はブラックホークの拳に拳同士のハイタッチをすると、後は任せて城へと足を向ける。
「飯も良いが、その前に風呂も入るか…そのついでシュリの様子も見ておかないとな…」
「イチロー様、シュリの所にいくんですか?」
「あぁ、そうだ…ちょっとシュリが機嫌を損ねていてな… ってか、いつまで俺の背中にしがみ付いてんだよ」
背中に張り付いていたカローラが聞いてくる。
「よっと… なんなら、私も一緒にシュリを説得しましょうか?」
「うーん、シュリが機嫌を損ねているのは俺が悪いから俺だけで宥めるつもりだ… でも、カローラからはいい加減、ちゃんと食事を摂るように言ってもらえるか?」
俺の背中から降りて、ちょこちょこと俺の隣を歩いて俺に手を繋いでくるカローラを見下ろす。
「あのシュリがちゃんと食事をしていないんですか? 珍しい事もあるものですね…」
「そうなんだよ… 俺がシュリの事をトカゲを引き合いに出してしまったから、その当てこすりか、これぐらいのオオトカゲ…イグアナになって、ずっと無視を決め込んでいるんだよ…」
「シュリがトカゲの姿をしているなんて…ちょっと面白そうですね…」
「面白くねぇよ…」
そんな話をしているうちにシュリの小屋へと辿り着く。まず初めに俺が梯子を昇る。
「カローラ、昇れるか?」
「ちょっと待って下さい」
そう言ったかと思うとカローラは背中から羽を生やしてパタパタと小屋の入り口まで飛んでくる。
「カローラ、いつからそんな羽を生やせるようになったんだ?」
「さっき、イチロー様に助けて頂いた時に、ついでに弟妹達の魔素を頂いたんですよ。これで姉である私と弟妹達の差を縮める事が出来ましたよっ♪」
差を縮めるって… でも、どうだろうな…先程戦った感覚からして、あのカローラの弟妹達はカローラより強いって感じはしなかったな… 確かに殺意に関しては初めて戦った時のカローラの数倍はあったけど、基礎スペックに関してはカローラを10とすると弟のデミオが7、レヴィンとトレノがお互い6で二人合わせて15ぐらいだろうか。
やる気を出したカローラの方が強いような気がするな。まぁ、そのやる気をあまり出さないのが問題だが…
しかし、当のカローラ本人はあっけらかんとしているが、カローラの事を追放したカローラパパが、弟妹の三人に関しては必死に救助に来た。その様子を見て何とも思わないのであろうか… ちょっと、暫くの間は優しくしてやるか…
「おぅ、すげーな、じゃあ中に入るぞ」
「はい、イチロー様、で、ここがシュリの部屋ですか… もっとなんていうかババ臭いとおもっていたんですが…以外と洒落てますね」
「おまっ、本人がいるかも知れんのに良く言うな」
俺がそう忠告するとしまったと言う顔をして口を塞ぐ。
「シュリ~ いるか~」
俺はカローラの事は置いといて部屋を見回す。夜が更けて暗くなっているが昼間来た時と変わりない様だ。その証拠にサイドチェストに置いといた骨付きあばら肉が手つかずで置いてある。
俺は収納魔法から新しい骨付きあばら肉を取り出すと、冷めた骨付きあばら肉を収納魔法にしまう。
「シュリ~ もしかして、寝ているのか?」
そう言ってベッドの掛け布団を捲ると、例のイグアナになったシュリの姿があった。
「えっ!? このずんぐりむっくりしたトカゲがシュリ!?」
イグアナの姿にカローラが目を丸くする。
「あぁ…シュリだ…俺にトカゲっていわれてトカゲになっているんだよ…」
「いや、そのトカゲになるにしても…なんて言うか…もっと他の姿があるでしょ… なんでこんな不細工なトカゲになっているんでしょうか?」
「さぁ…それは俺にも分らん…」
とりあえず、またシュリを宥めようとベッドの上にいるイグアナシュリに腰を屈めて目線を合わせる。
「なぁ…シュリ…」
「ZZZ…」
声を掛けるが、ベッドの上のシュリは目を閉じて気持ちよさそうに寝ている。
「…これ…マジで寝てる?」
「トカゲの寝方はあまり知りませんが、私にも寝ている様に見えますね…」
ベッドの上のシュリがゆっくりと呼吸で腹部が収縮を繰り返しているのが見える。
「…起こすとまた機嫌損ねそうだし、今日はこのまま寝かせておいてやるか…」
「そうですね、そんなにお腹が空いている様にも見えませんし…」
「じゃあ、ここを立ち去って、風呂でも入って飯にするか」
そう言って、俺は回れ右をして梯子を降りる。するとカローラが梯子の上から俺を見下ろしているのが見えた。
「どうしたカローラ、降りられないのか?」
「ねぇ、イチロー様…」
「なんだよ…急に真剣な顔になって…」
カローラはいつになく真剣な瞳で俺を見つめている。
「もし…私もシュリの様になったら…私もシュリの様に気を掛けてもらえますか?…」
俺はその言葉に押し黙る。
…やっぱり、先程のカローラパパの弟妹達を必死に助け出す行動が引っかかっていたのか… そりゃまぁ、そうだろうな… 自分の父親が自分だけを家から追い出し、でも弟妹達は必死で助け出す光景を目の当たりにして心が痛まない奴なんていないよな…
俺は頭を掻きながら、はぁと溜息をつく。
「カローラ、わかってんだろ? 言わせんなよ」
そして、カローラを見上げて、腕を広げる。
「はい! イチロー様っ!」
カローラはぴょんと俺の腕の中に飛び込んでくる。
「さぁ、この後、風呂行って、飯にするぞ、カローラ」
「はい! イチロー様っ!」
俺とカローラは温泉のでる大浴場へと向かったのであった。
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