第555話 八つ当たり

※新しい扉を作りました。今回のキャラはアシュトレトです。


 昼食時にディートの言葉を聞いた後、俺は食堂の談話室でただ呆然としていた。


 人生20年程生きてきて、色々とやらかしてきた俺であるが、今回の様な取り返しのつかない盛大なやらかしは初めてに近い。女を孕ませていったのも結構盛大なやらかしではないかと他人には思われるが、俺の中では甲斐性をもって嫁にして幸せにすればノーカウントと考えているから問題ない。


 では、今回のシュリの事も新しいバナナの木を何処かから手に入れてシュリにプレゼントすればいいじゃないかと思われるかも知れないが、それでは俺も納得しないしシュリも納得しないと思う。

 どのように例えれば適切なのか上手く思い浮かばないけど、それでも敢えていうなれば、人から借りたゲームソフトのセーブデータを上書きしてしまったぐらいのやらかし感を感じる…


 そんな訳で盛大にやらかしてしまったとの自責の念に呆然としていると、なにやら遠くで警鐘の音が響き始める。呆然としていた俺はなんか鳴っているなと思っていると、突然、談話室の食堂側の扉が蹴破るように開かれて、ブラックホークが姿を現わす。



「イチローッ!! こんな所にいたのかっ!! ヴァンパイアが現れたぞ!!」



 ブラックホークのヴァンパイアの襲撃の言葉に、呆然としていた俺の頭は冷や水をかけられたかのように一気に覚醒する。



「マジか!?」


 

 俺はソファーから立ち上がる。

 


「あぁ、新しく設置した広域警戒網に奴らの姿が引っかかった!! イチロー! 前回の様に奴らの一人を引き受けてくれ!!」


「ブラックホーク! 例の物は準備できているか?」



 俺はブラックホークのいる食堂側の扉に歩みながら尋ねる。



「あぁ、奴らが襲撃を二日もサボってくれたお陰でたっぷりと用意出来ているぞ!」



 ブラックホークは口元をニヤリとさせながら答え、俺はその横を通り過ぎ、ブラックホークと一緒に厨房へと足を進める。



「今、やりきれない気持ちでいっぱいで、丁度誰かに八つ当たりをしたい気分だったんだよ… 準備してもらった物を使って、奴らで憂さを晴らさせてもらうとするか…」


 そう言いながら厨房の中を通り、冷凍室の前に立つ。そして、その扉を開くと中の冷気が流れ出し、俺とブラックホークは冷凍室の中に入る。



「これだイチロー、お前の要求に合わせる為、城のメイドを使って2時間置きに作り続けて溜めた物だ。数はどれ程あるか分からないが、三樽分は用意したぞ… しかし、本当にこの状態でいいのか? 刃物にもせず、弓矢のようにシャフトや矢羽も付けていないが…」


「あぁ、それでいい…加工で数が限られる状態よりも、弾数を気にしない方が俺にとってはやり易い」


「分かった、ではすぐに補充するぞ!」


 俺はブラックホークに手伝ってもらいながら、ジャラジャラと樽の中身を収納空間に放り込んでいく。


「これで全部だ! イチローを探すのとコイツの補充で時間が掛かった! 既に戦闘は始まっているはずだ!」


「わかった! 俺は飛行魔法で飛んでいく! ブラックホークはいつも通りに前線で指揮を執ってくれ! 俺はヴァンパイアの一人を釘付けにして戦力を削る!」


 俺たち二人はそのまま食堂を駆け出し、窓から外へと飛行魔法で飛び立つ。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「姉さん!! いつまで恥を晒すつもりなんだっ! いい加減にしてくれっ!!」


「晒しているつもりはないわよっ! 私の存在を生きているだけで恥にように言わないで頂戴っ!」


 カローラとその弟デミオの両者は魔法で牽制しつつも闇の触手を伸ばして互いに一撃を狙う。


「くっ! なんでよけるのよっ!! デミオが小さい頃は私が面倒を見て可愛がってあげたでしょ!?」


「そんな物心つく前の事を未だに恩着せがましくっ!! しかも、僕が何も知らない事をいいことにあのような事をっ!!」


 デミオは顔を赤く高揚させながらカローラをキッと睨みつけ、牽制ではなく大技の魔法を撃ち出す。



「ひぃゃっ!! 危ないでしょっ! デミオっ! 怪我したらどうするのよっ!! それにあのような事って、可愛くて似合ってたでしょっ!!!」


「男の僕があんな恰好喜ぶかっ!!!」



 デミオは更に闇の触手を伸ばしてカローラに襲い掛かる。


「お姉ちゃんはデミオをそんな反抗的な子に育ててないわよっ!!」


 カローラも対抗して闇の触手を増やしてデミオの闇の触手とガブリ四つ手状態になる。


「フフフ、カローラ…闇の触手はそれで全部かしら?」

「背中ががら空きよ、カローラ…」


 カローラの後ろからレヴィンとトレノの二人の闇の触手が伸びて、カローラに掴みかかる!!


「えっ!?」


 隙を取られたカローラは一気に掴み取られ、地面に踏まれたカエルの様に押さえつけられる。



「ぐぐぐっ…ぐやじい…」


「何泣いてんのよ 人の僕のくせに」

「あたしたちに泣いている所見てもらえるんだから感謝してよ」



 ドゥルルルルルルルルルンッ!!!!!!



 その時、鈍い高速のドラムロールの様な音が響き渡り、カローラを拘束していたレヴィン・トレノそしてデミオの闇の触手を撃ち抜く…いや薙ぎ払っていく。



「ひぃっ!!!」

「なによっ! これ!!」


「僕の闇の触手を撃ち抜く!? いや、幾つもの弾で撃ち千切った!?」


 

 カローラを襲っていた三人は異常な危険性を感じ取り、すぐさまカローラから距離を取る。



「お前ら…よくもうちの者に手を出してくれたな…」


「あっ!! イチロー様っ!!」


 解放されたカローラは顔を上げ、自分の危機の為に駆けつけてくれた姿、イチローの姿を見上げる。



「イチロー!?」

「あの聖剣を持つ下等種!?」


「父さんの手を傷つけた男っ!!」


 三人の視線がイチローに注がれる。



「今のうちに逃げよ… 後、レヴィンとトレノの魔素も貰っちゃお」


 

 三人がイチローに気を向けている隙に、カローラは引き千切られた三人の闇の手の魔素を回収して逃げ始める。



「あっ! ちょっと!! どさくさに紛れて何私たちの魔素を盗んでいるわけ!?」

「信じられない~!! ちょっとせこ過ぎでしょ!!」


「せっ…生存戦略よ…」


 そう言いながら、カローラはイチローの元へと逃げ去る。


「さて…お前らでイライラの憂さ晴らしをさせてもらおうか…」


 イチローは聖剣を握り締めた。 

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