第552話 激おこぷんぷんシュリ
シュリが激おこスティックファイナリアリティぷんぷんドリームで、俺の前から姿を消してから一夜が過ぎた。
晩飯の時でも再び謝ろうと思ったが姿が見えず、どういうわけかヴァンパイアの襲撃もなかったので、一晩ぐっすり眠り、朝一で食堂に向かってもシュリは姿を現わさなかった。
これは相当、拗らせてしまったな…シュリがバナナの事であんなに怒るなんて思っていなかったし、その後のトカゲと口を滑らせてしまったのも止めだ…
今までのシュリなら、いつぞやの骨付きあばら肉エンドレスエイト事件のように美味い肉を食わせ続けたら機嫌治っていたけど、今回用意したA5国産黒毛和牛には一切見向きもしなかったな… やはりフィレやロース肉でなく骨付きあばら肉でなければならないのか?
うーん、ミュリの家にいた時に罠にかかった鹿を解体して得た骨付きあばら肉があるが、猪や豚、牛に比べると数段味が落ちるんだよな…
とりあえず、午前中はマグナブリルと領内の事務仕事を済ませ、昼食時に食堂へと向かう。
「なぁ、カズオ…」
「どうしやした? 旦那ぁ」
「昨日の夜と今朝の飯の時間、シュリの姿を見かけなかったか?」
「シュリの姉さんでやすかい? 昨日の夜も今朝も確かに来てないようやすね… シュリの姉さんはいつも大盛なので来ればすぐにわかりやす」
やはりずっと食堂にいるカズオでもシュリの姿を見てないのかよ…
「なぁ、カズオ、昼食の時間が終わったら、ちょっと厨房使わせてもらってもいいか?」
「別に構いやせんが…なにすんでやす?」
「いや、ちょっと昨日シュリを怒らせてしまってな… それでシュリの機嫌を直す為にアイツの好きな骨付きあばら肉を準備してやろうかと思って…」
俺は自省気味に答える。
「えっ? シュリの姉さんを怒らせたんでやすかい? でも姉さんが三食の飯を抜くほどの怒らせ方って…旦那ぁ、一体何をやらかしたんでやすか?」
「いやな、シュリの部屋に行った時に、バナナがあったんで食っちまったんだよ…全部…」
俺は伏目勝ちに答える。
「えっ!? バナナを食っちまったんでやすか!? それも全部!? そりゃーシュリの姉さんも怒りやすよっ! 毎日の様に蕾が出来ただの、花が咲いただの、実ってきただの嬉しそうに仰ってましたからね」
「その言い方だと、なんか我が子の成長を自慢する母親みたいな感じだな… 自分でもダンダンヤバさが身に染みてきた… 尚更、シュリの為に骨付きあばら肉を作らないとな…」
「旦那ぁ…あっしも手伝いましょうか?」
状況のヤバさに気が付いたカズオも俺に気を使って手伝いを申し出る。
「いや、これに関しては全て俺の責任だから、俺だけで準備するよ、ありがとなカズオ…」
そうして、昼食の忙しい時間が終わった後、俺は厨房で鹿のあばらを使って骨付きあばら肉の仕込みを行う。
「よし! こんなもんで良いだろ!」
10頭分の骨付きあばら肉の仕込みを終えて、俺はほっと一息をつく。
「旦那ぁ、お疲れ様でやす、冷えたレモネードを準備しておきやしたぜ」
「おう、ありがとな、カズオ」
俺は手渡されたレモネードをゴクリと煽る。
「ひゃぁ~ うまい! やっぱ、仕事の後のレモネードは最高だな!」
「旦那はホント、レモネードが好きでやすね… ところで余った鹿の背骨はこちらで頂いてもよろしいでやすか?」
そう言ってカズオは作業台の上にある鹿の背骨を見る。
「別に構わんが、どうするつもりだ?」
「煮込んで出汁でも取ろうかと思いやして」
「鹿の骨で出汁か~ 俺も向こうで少しやっていたけど、アレをまだやってなかったんだよな~」
ミュリの家での事を思い出しながら話す。
「アレとは?」
「鹿骨ラーメンだよ」
「あぁ、豚骨ではなく鹿でやるわけです、ではあっしが今度つくっておきやすよ」
そうこうしているうちに、日が傾き始め、皆がヴァンパイアの襲撃に備えて、どこもかしも慌ただしくなって、食堂も襲撃前に食事をとろうと、城に残って作業をしていた者や城の外で作業をしていた者も帰ってきてごった返す。
「やはり…シュリの姉さん、姿を現わしませんね…」
「そうだな… 機嫌を損ねて城のどこかに隠れて、俺の前に姿を現わさないだけかと考えていたが…もしかして、家出…じゃなくて城出でもしたのか?」
ミケは無事であったが、クリスの事もあるので、俺は段々心配になってくる。
「ちょっと、シュリの部屋に行って様子を見てくるわ」
俺は不安になって居ても立ってもいられなくなったので、カズオにそう告げてシュリの部屋へと移動しようとする。
「あっそれなら、シュリの姉さんが来るかもしれないと思って焼いておいた、旦那の骨付きあばら肉を持って行ってくだせい」
そう言ってオーブンから骨付きあばら肉を出してくる。
「すまねぇなカズオ… じゃあこれ持ってシュリの部屋に行ってくるわ」
カズオから受け取った熱々の骨付きあばら肉を収納魔法にしまい込むと足早に温室にあるシュリの部屋へと向かう。
昼間来た昨日とは異なり、夕方を過ぎて日が沈み始め、薄暗くなってきた温室の中、大浴場からの明りにシュリのツリーハウスが薄っすらと照らされている。
「うーん… 部屋の中で明りが灯されている様子は無いなぁ… やっぱり部屋の中にはいないのか?」
明りがついていないとしても、中で怒っていじけている可能性がある。なので、俺は梯子を昇っていく。
「よいっしょっと… はぁ… やはり、明りを付けてないし、シュリの姿も無いな…」
シュリの部屋の中は、昨日シュリが怒って部屋を出た時のそのままで、人の気配が感じられない。その部屋の中にとぼとぼとゆっくり進んでいくと、シュリを追いかけた時にそのままにしてあった俺が食べたバナナの皮がそのままにしてあった。
「この部屋を見る限り、きっちりと掃除してあるから、シュリが戻って来ていたら、こんなバナナの皮をそのままになんてしてないよなぁ…」
そう言いながら、俺は自分が食べたバナナの皮を拾い上げ、シュリの代わりに少し部屋を掃除する。
「はぁ… ホント、シュリの奴…どこ行っちまったんだよ…」
俺は頭を抱えながら溜息を付き、シュリのベッドに腰を下ろす。
もぞっ
ベッドに腰を下ろした瞬間、ベッドの中で何かが蠢く。
「すまん! シュリ! お前、ベッドで寝ていたのか!?」
俺はすぐさま立ち上がり、ベッドに向き直ってベッドを確認する。
しかし、シュリが小柄だといってもシュリが寝ている様なふくらみは無い。
「あれ? 俺の気のせいか?」
そう思った瞬間、再びベッドの中で何かが蠢く。俺はゴクリと唾を飲み込んでバッとかけ布団を捲る。
「えっ? は? ト…トカゲ?」
掛け布団を捲ったベッドの中には、猫サイズのトカゲがいた。
「なんでトカゲが?」
トカゲの存在に困惑しながら、とりあえずそのトカゲを観察する。トカゲと言ってもヤモリのようなシュッとした細いタイプのトカゲでなく、なんて言うか…イグアナに近い灰褐色のオオトカゲだ。
トカゲは舌をチラチラさせながら顎の下のたるんだ皮を呼吸の度に膨らませていたが、俺が顔を近づけてマジマジと観察していると、回れ右をしてベッドの中に潜り込み始める。
そこで俺はある事に思いあたる。
「お前…もしかして…シュリ…なのか?」
だが、トカゲは答える事は無かった…
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