第545話 馬の心が分かってきたようだな

 ディートにお土産と言う名の課題を渡した後、城の人々にお土産を渡して回る。蟻達には個体判別がつくように全部見た目が異なるイヤリングを、肉メイド達は食べ物を口にしないのでブラとパンティーを、城の文官たちには鉛筆や消しゴム・ボールペンなどの筆記用具。そして城全体の人の為にお菓子を山盛り買ってきたので食堂に置いておいた。


 また、食堂に行くついでにカズオには調味料や調理道具のセットを渡す。


「旦那ぁ、あっしがこんなにお土産を貰ってもいいですかい?」


「あぁ、構わん、調味料はそれぞれ少量しかないけど、カズオならそこから何かインスピレーションを得られるだろ?」


「そうでやすね…頂いた道具も合わせて色々と新しい料理に挑戦できそうでやす」


 そう言ってカズオはニコニコの笑顔でお土産を眺める。守りたくはならないがいい笑顔だ。




 次にヴィクトル爺さんのいるチーズ工房へと向かい、お土産に各国の様々なチーズの詰め合わせを渡す。


「イチロー様、これは…!?」


「あぁ、俺の行っていた世界の様々なチーズだ。爺さんなら良い刺激になると思ってな」


「早速、味見の為に食して見ても構いませんか?」


 爺さんは好奇心いっぱいの少年のような目をしてお土産のチーズを見る。


「構わんよ、でもコイツとコイツはガワは食えないから中身だけ食べてくれ」


「ほほぅ… こちらは口の中でとろける様なクリーミーさがあり… こちらの物はガツンと来る塩味と旨味が凄いですな… こちらのものは立ち昇る猛烈な香りが素晴らしい…」


 どれも有名どころのチーズなので、ヴィクトル爺さんは瞳を輝かせる。


「再現したいチーズがあったら声をかけてくれ、俺も協力するから」




 そう言い残すと俺は城を出る。そして次に向かうのは少し面倒な奴の所だ。その相手は俺の顔を見るなりムスっとした機嫌の悪い表情をつくる。


「義弟よ! 今回、私への新しい嫁の土産が無いとはどういう事だっ!!」


 馬の世話をしてもらっているケロースだ…


「流石に馬を持って帰ってきたり、ホラリスの馬を渡す訳にはいかなかったんだよ…」


「どこに行っておったかしらんが、ホラリスから戻って来るならホラリスで私の新しい嫁を手に入れる事が出来ただろっ!」


 なんでどこぞに行く度に、ケロースの新しい嫁を買ってこなければならんのだ…


「まぁまぁ、そんなに目くじらを立てるなよ、その代わり良い物を買って来たから」


 俺は収納空間から本と箱を取り出す。


「これは?」


「向こうの世界の牝馬名鑑の本だ」


 先ずは牝馬名鑑を手渡すとケロースは眼の色を変えてページを捲り始める。


「おぉ! こ、これは素晴らしぃ!! どの娘も絶世の美女ではないかっ!!!」


 やっぱケロースの目にはそう映るんだな…


「あぁ… この健康的で引き締まった肉体… 素晴らしいプロポーション… 愛らしい娘や麗しい娘が満載ではないかっ!! 見ろ! この魅惑的で扇情的なお尻など生唾ものだ!」


 馬の尻を見てどうだと言われても… ケモナーの方やあのゲームのファンでも、流石に生の馬の姿でここまでは欲情しないだろう…しないよな?


「して、そちらの箱には何が入っているのだ?」


 牝馬名鑑に十分満足したケロースはこんどは箱の方にも期待の目で興味を示す。


「あぁ、これは向こうの世界に『ホース娘かわいいダービー』ってもんがあってだな、それに登場する娘たちのカードだ」


 そう言って箱を開梱して中のカードパックの一つを開封する。


「おぉ! これは馬の娘たちの人化した絵姿だな! どの娘も可愛いではないか… ん? もしかして、この絵姿はこの娘の人化した姿なのか!?」


 ケロースはカードの絵を見ながら、牝馬名鑑の該当ページを開く。


「えっ? ケロース、お前分かるの!?」


「当たり前だ! これほど特徴的ならば分かって当然であろう! しかし、これは…こちらの本とこのカードで二度味わえるな…」


 ケロースは日本語なんて読めるはずがないので、特徴だけでガチで当ててきたことになる。馬に関してはやっぱスゲーな…


「これで新しい嫁を連れて来られなかったけど、いいだろ?」


「あぁ! 構わん! これほどまでに素晴らしい淫本と春画を貰って不平など出るはずがない! しかし、我が義弟も良く分かっておるの… 全裸の馬の姿と着衣の人化姿を合わせるとは…なかなか良い趣味をしているではないか!  義弟よ、お前もようやく馬の心というものが分かってきたようだな」


 牝馬名鑑を淫本でカードが春画って…ケロースの感覚ではそうなるのか…レベルたけぇよ…

 でも、言われてみれば、全裸だけではなく同一人物の全裸と着衣の姿両方があるっていうのは… 妄想を掻き立ててエロさが増すよな…

 まぁ、エロスに関してはケロースのいう事に概ね同意だが、でも馬の心ってのは…正直分からん。


「じゃあ、俺は他にもお土産を渡して回るから、後は勝手に楽しんでおいてくれ」


「あぁ! そうさせてもらう!」


 その後、ケロースの妹ユニポニーにも服のお土産を渡すと厩を後にする。後ろからケロースの『これディアナもキエルも嫉妬するでない!』という言葉が聞こえてきた。牛にもケロースが馬の写真で興奮していることが分かるんだな… ケモナーの世界は奥が深い…



 そんなこんなで厩を後にして、次はビアンに会いに行くため鍛冶場に向かう。しかし、そこで目にしたのは以前の鍛冶場ではなく、かなり大きく増設された鍛冶場…いや、ここまで大きくなると作業場というか工場に近い見た目だ。


 恐らく、俺のいない間、ヴァンパイアの襲撃や疎開民の需要に応える為、生産効率を上げる為に増改築を行ったのであろう。


 大きく開かれた工場の入口には、手伝いをする蟻族や領民からの希望者が忙しく出入りしている。入口から中を覗いてみると、工場内は縦の二つに分割されており、右側では木工作業、左側では鍛冶などの金属加工が多くの人員によって作業されていた。


 一応左右で分断しているのは火が出やすい鍛冶仕事と、燃えやすい木工作業を分けて火災に警戒したものと思われる。



「はぁ~ うちも随分と効率化されたもんだ… ビアンとロレンスの二人でチマチマと作業していたのが懐かしいな…」


 そんな独り言を漏らしながら、土産を渡す為にビアンとロレンスの姿を探す為工場内を見渡すが、二人の姿が見当たらない。そこで、運搬作業をしている者に声をかける。


「ビアンとロレンスの姿が見当たらないんだが、二人はどこにいるんだ?」


「あぁ、ビアン鍛冶長とロレンス木工長ですね、お二人は今、あそこの事務室におられますよ」


 そう言って吹き抜けの二階部分に見下ろす様に設置された事務室を指差す。


「ありがとな! 作業がんばってくれ!」


 俺は教えてくれた作業員に礼を言うと事務室に繋がる階段を昇って行ったのであった。



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