第543話 カローラの汚名挽回?

「くっ!… ソリティアやマインスイーパーすら入っていないなんて…」


「いや、いくらつよつよPCと言えども、ソリティアとマインスイーパーしか出来ないって空しすぎるだろ…」


 ディートがカローラの買った新しいつよつよPCを使い、その隣でカローラが以前のPCを使いながら、パソコンの使い方をディートに説明している。


「本当にこの叡智の結晶は凄い代物ですね… 映像が保存できるし、その上で動く… 音楽も、楽器一つではなく合唱で鳴らす事も出来るし、人の歌声も響かせる事が出来る… 本当に中に小さな人が入っている訳ではないのですよね?」


 ディートがノートパソコンに目を爛々と輝かせながら聞いてくる。


「うーん…生身の小さい人なんて入ってないんだが、構造を例えて説明するなら中に人工頭脳みたいな物が入っていると考えてくれればいい」


「人工頭脳… 自然発生のものではなく、人の手によって位置から頭脳を作り上げたものなのですか?」


 ディートの顔が嬉しそうな好奇心の顔から、真面目な顔へと変わる。


「と言っても人間みたいに喜怒哀楽の感情がある訳ではなく、与えられた問題に対して答えを返すだけの物だ。生命倫理に反するようなものじゃないから安心してくれ」


「なるほど、高度過ぎて人間でも入っている様に見えましたが、基本は自動計算器を高度にしたものなのですね」


 ディートは地頭がかなり良いだけあって、本質をすぐさま理解して、ほっと安心したような顔をする。


「そうだ、カローラみたいに高度な計算を使ってゲームなんかに利用する事もあるが、本来の目的は人間では処理しきれなかったり時間の掛かる計算や情報を処理するものだ。試しに何かの計算をやってみるか?」


「では、一度どの様なものか見せて頂けますか?」


「では、ディート、私がエクセルの使い方を教えてあげるわ」


 俺とディートの会話にカローラが名乗りをあげて割って入る。


「えっ? カローラ、お前エクセルなんて使えるのか?」


「イチロー様こそ何を言っているんですか、ゲーマーならエクセルを使いこなして、アイテムのドロップ確率や狩場の経験値効率、アイテムの合成の素材管理をするのが普通でしょ?」


「カローラ、お前マジでそんな事しながらゲームしてたの? 俺なんかその辺のメモ書きに覚書していた程度だわ…」


 カローラが思っていた以上にパソコンのエクセルの高度な使い方をしていてビビるというかちょっと引く… 普段、食っちゃねしているだけなのにゲームに限ってはこんなに本気を出すなんて…カローラだけだよな…? 他のゲーマーはそんなことしてないよな…?


「フフフ、いいでしょう…では私のエクセル使いをお見せしますよ… 試しにディート、このポーションを作るには、なんの素材がどれぐらい必要か、また金額なんか教えてくれる?」


 カローラはそういうと、テーブルに置いてあったポーションを指差してディートに尋ねる。


「それですか? ちょっと待って下さいね… 確かこの辺りにレシピがあったはず…」


 ディートはその辺りに乱雑に置かれた本に挟まれたメモ書きを探し出して、各素材の相場を書き込んでカローラに手渡す。


「なるほどなるほど…こうなっているのね…」


 カローラは手慣れた手つきで項目や数値を打ち込んでいき、打ち終わるとドヤ顔をしてディートに振り返る。


「これでどう? ここの必要量の数値を変えると、それそれの素材の必要量や合計金額まですぐに出てくるのよ。他にも下のタブを切り替えると他のポーションのレシピも登録できるのよ」


「凄いじゃないですか! これなら散らかったメモ書きを整理できますし、他にも色々つかえそうですねっ! 確かに叡智の結晶と言われる意味も分かりますっ!」


「便利だろ? ただな…スゲー問題があるんだよ…」


「問題? どんな問題なんですか?」


  興奮するディートに声を掛けるとこちらに振り返る。


「これ…現状では半日も動かせないんだ… 言っておくが、一日に半日ってことじゃなく、半日ほど動かしたら後は永遠に動かせなくなる」


「えっ!? 半日しか動かせない!? それはこの叡智の結晶を動かす為のエネルギーが必要ということですか? 魔力じゃだめなんですか? ってただの魔力で解決するならそんな言い方をしませんよね… 何が動力源なんですか?」


 ディートはノートパソコンに触れながら尋ねてくる。


「電気だ」


「電気? なら魔法で電気を生成できるんじゃないですか?」


 そう言って指を立てて、その指先に電気をパチパチさせる。


「それが…なんでもいいから電気を流せばいいってもんじゃないんだよ… 見ての通り、かなりの精密な仕掛けのものだから、既定の電気以外を流すと壊れるんだ」


 俺はそんなディートに電源プラグをプラプラさせながら答える。


「なるほど、その事を相談されにきたんですね…しかしながら、僕にもこの代物は高度すぎるのでどの様に手を付けて良い物やら…」


 ディートは困ったような申し訳なさそうな顔をする。すると、側にいたカローラがいきなり不敵な笑い声を上げ始める。


「ふっふっふ… こんなこともあろうかと…」


 そう言って収納魔法の中に手を突っ込む。…カローラ、お前、いつから真田さんやウリバタケさんになったんだよ…


「こんな本を買っておいたのよ!!」


 そう言って一冊の本をディートの目の前に取り出す。


「こ、これは…なんの本ですか?」


「電気工学の本よ!」


「電気工学?」


 ディートはカローラが差し出した本を手に取りペラペラと捲りはじめる。


「カローラ、お前、そんなもんも買っていたのかよ…しかも、自分が勉強するのではなく、ディートにさせるつもり満々だったな?」


「いや、ディートになら、これもお土産になるかと思って…」


 カローラの目が少し泳ぐ。しかし、すぐに誤魔化す様にディートに向き直る。


「それで、ディート、どうなの? できそう?」


「うーん… ほぼ新しい概念の技術なので凄く興味を惹かれる所はあります…がしかし、カローラさんの要求されるものを実現するには年単位の時間が掛かりそうですね…」


「えっ!?そんなに!?」


「はい…昔から電撃を与えると光る物質があったので、電気を使って何か明りを作るぐらいの事は割と早く実現できると思いますが… この様に高度な機械のエネルギーとして電気を作り出す事になると… しかも、壊れやすい物だと伺いましたので、かなり慎重に事を運ばねばなりません…」


「そんなぁ~ こちらに戻る前にポロワールドの更新かけてきたところなのに、何年もお預けされるの… はっ! そう言えば、もう一つの手段がありました!」


 カローラは何かを思い出し、俺に前のめりになって顔を近づけてくる。


「確か、イチロー様の収納空間にアレを入れてもらってましたよねっ?」


「あぁ、発電機だろ? ちょっと待ってろ」


 俺はカローラに強請れると、椅子から立ち上がり、少し離れた場所に発電機を取り出す。


「イチロー兄さま、それは?」


「発電機と言って、さっき言っていた電気を生み出す機械だ」


 そう答えて、俺はパンパンと発電機を叩く。


「えっ? そんなものがあるなら僕が研究して電気をつくる方法を考えなくてもよいのでは?」


「いや、コイツも魔力ではなく、特殊なエネルギーで動くからな、ずっと使うならそのエネルギーを作ってもらわないとダメなんだ…」


「そのエネルギーとは?」


「油だ…ガソリンと言う名の油だ。しかも、肉や穀物からとれる油とかではなく、もっと燃えやすくて揮発性の高い油なんだ」


「燃えやすくて揮発性の高い… アルコールみたいなものですか? ちなみに現物はありますか?」


「あぁ、あるぞ、今出すから待ってろ」


 そう言って俺は収納空間に手を突っ込む。20lのガソリン缶で買って来たので元々ある程度の重さがあるがやけに重く感じる。


「ちょっと待って下さい! なんですか!? それは!」


 収納空間からガソリン缶を取り出そうとしていた俺にディートが声をあげる。


「いや、ガソリン缶だが…って、なんじゃこりゃっ!!!」


 ディートに言われて手元を見て、俺も驚きの声を上げる。


「それって…人の頭…ですよね!?」


 俺が収納空間から取り出そうとしていたのは、ガソリン缶ではなく、人の頭だった…




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