第542話 ドヤるカローラ
ノートPCはファンの唸り音上げ、液晶画面にメーカーのロゴが表示される。
「こ、これはなにやら凄いですねっ!! この数々の文字が刻印された所が、虹色にひかってますよっ!!」
「いや、驚くのはそこじゃないんだが…ってか、CPUやGPUが凄いだけではなく、キーボードもゲーミング仕様の物を買ったのかよ…」
その後、画面はメーカーロゴが消えて、メモリーカウントが始まる。4…8…16…32… くっそメモリーも32Gだと? 随分といいのを買ってるな…
ちゃらんららん~♪
メモリーカウントが終わりぐるぐるが始まったかと思うと、すぐにウィンドウズの起動画面が表示される。HDのカリカリ音が聞こえないと思っていたが、やはりSSD…それもM.2のメディアを使っているのか。
「す、凄い!! まるで景色を切り取ったようですねっ!!」
「フフフ…それだけではないのよ…」
カローラはノートPCの角に指を当てるとパスワードの入力無しでウィンドウズ画面が現れる。指紋認証付か…本当に高くていいのを買ってるな…
「わっ! また絵が変わりましたよ!! それに何か色々と絵の上に乗ってますね… 壁に掛ける絵として使う場合、これは無い方がいいんじゃないですか?」
「フフフ、ディート、これはそういう使い方をするものじゃなくってよ…最初に言ったでしょ? これは異世界の叡智の結晶だって…」
「確かに叡智の結晶と仰ってましたね… それでどの様な使い方をするものですか?」
カローラはディートを使って、『異世界人に現代技術を見せつけて驚かせる』という愉悦を楽しんでいる様だ。ってか、俺からすれば元々異世界人のカローラがそれをやるってどうなのよ…
「そうね… これさえあれば、この世界では味わう事の出来ない楽しさのゲームをする事が出来るわ… 後、その場にいながら世界中の様々な事を詳細に調べる事ができるわ」
「この場にいながら世界中の事を調べる事が出来る!? それ、滅茶苦茶凄いじゃないですか!! それでどうやって世界の事を調べる事ができるのですか?」
「フフフ、見てなさいディート… このカローラお姉さまが華麗な指さばきで叡智の結晶の使い方を見せてあげるわ…」
そう言ってカローラは手をキーボートとマウスの上に載せて、いざ画面に向き直るが、何故かフリーズしたかのように固まってしまう。
「どうした?カローラ」
「イチロー様…ここってネット通ってましたっけ…」
「いや、通ってるわけないだろ」
「ハハハ、そうですよね…私ったら忘れてました…えっと…あったあった、ハイ、イチロー様、これを繋げてもらえますか?」
カローラは強張った笑みを浮かべたまま、なにやら収納魔法を使い始めて、中から箱を取り出して俺に渡してくる。
「はいって…そんなルーターを渡されても… ここはインターネット回線なんて敷設されて無いから、繋げようが無いぞ?」
「は? もしかして、モデムっていう機械も必要だったんですか?」
「モデム無いのかよ…なら回線通っていてもダメだったな、まぁ、そもそも電線が通ってないし勿論プロバイダー会社もない、そして、電源プラグを繋ぐコンセントもここには無いだろ」
そう言って、俺はルーターの電源プラグをプラプラさせてカローラに見せつける。
「ちょっと待って下さい! ちょっと待って下さい! 確かフィーラちゃんに言われて発電機も買っておいたはずです…それさえあれば… いや、それよりも…ネットが使えないという事は…」
カローラは青い顔をして収納魔法の中や、パソコンを弄り始めたりと色々やり始める。
「イチロー兄さま…一体どういう事なんですか?」
色々混乱し始めているカローラを横目にディートが今の状況を尋ねてくる。
「いや、俺の言っていた世界…まぁ、俺の故郷なんだけど…そこにはインターネットっていう、情報をやり取りするシステムがあってだな、カローラはディートにそれを見せようとしていたんだよ」
「情報をやり取りするシステム…先程カローラさんが仰っていた、この場にいながら世界中の情報を得られるというものですね… それは魔法の鳥を作り出して手紙をやり取りするようなものですか?」
「インターネットは鳥で手紙を…いや…そう言えばツブヤイターのアイコンって鳥だったな…まぁいいや、前にディートがホラリス行きの馬車二台を糸でつないで会話できるようにしただろ? それをもっと高性能にそして世界全体の大規模にしたような物だよ」
ディートは目を丸くする。
「えっ!? あのシステムをもっと高性能にそして世界全体の大規模に!? 例えると、ここにいる僕がカーバルにいる学長と話をできるような感じですか?」
「あぁ、話を出来るどころか、姿も見れるしなんだったら、論文を送って見てもらう事も出来るぞ」
「それ! 凄いじゃないですか!! イチロー兄さまの行っていた世界は凄いんですねっ!!」
「ぎゃおぉぉぉぉぉぉぉぉん!!」
ディートが現代日本の話に目を輝かせていると、後ろからカローラの叫び声が響く。
「カローラ!どうした!?」
カローラに視線を向けるとノートパソコンを前にマウスを握り締め、蹲って小刻みに震えていた。
「私の…私の…スチーミィーのゲームが…」
「カローラ、お前、新しいパソコンに移行してなかったのかよ!」
「だって…IDとパスワードさえあればいつでも移行できるものだと思って…」
カローラが涙目になってこちらを振り返る。
「いやいや、インターネットが通ってないからダメだって… でも、前に付かっていたダウンロード済のパソコンならワンチャン使えるかもしれないな」
俺の言葉にカローラはハッと気を取り直すと、収納魔法の中から前に使っていたパソコンを取り出して立ち上げる。
「あっ! ありました!ありました! こちらのパソコンなら使えます! で、このデータをそちらのパソコンに移行することはできますか?」
「うーん…ちょっと難しい…というか俺には無理だな~」
「じゃあ、せっかく買った新しいつよつよノートパソコンでゲームをすることは!?」
そう言ってカローラは縋るような目をして俺にしがみ付く。
「あきらめろ… そのノートパソコンでゲームをする事は出来ない… そんなもんを手元に置いといても辛いだけだから…ディートにくれてやれ…」
カローラの悲しみと絶望の叫びがディートの部屋に木霊した。
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