第531話 皆との晩餐

 頂きますの声を上げると、俺は早速箸を手に取りラーメンに突っ込む。そして、濃厚なスープの絡む麺を摘まみ上げ、勢いよくズズズと啜る。



「うほっ! やっぱ、うめぇ~っ!! こってりしているけど、鶏ガラベースだから思った以上にくどくねぇんだよなっ!」


「当り前じゃ、わらわが丹精込めて育てたジャガイモも使っておるからな」


「トンカツも美味しいですよっ!」


「めちゃくちゃ多いけど、うまっ!」



 シュリ、マリスティーヌ、カローラも喜んでラーメンを味わう。となりのマグナブリルはと言うと、レンゲでスープを一口啜り、五臓六腑に染みわたらせた後、感嘆の声を上げる。



「あっさりとしているのに、濃厚な旨味とコク… いやはや、カズオ殿の料理は最高ですな… この歳になるとシチューですら重く感じるので、このスープは私にはもってこいですな」



 マグナブリルも結構いい歳だからな… こってりよりあっさりの方が身体に合うだろう。



「イチローさん、まだトンカツを食べていないんですか? 早く食べてみてくださいよ! 絶対美味しいですからっ!」


 

 マリスティーヌが俺の丼の中の手つかずのトンカツを見て声をかけてくる。



「そうだな… もしかしたら、天上天下一品のこってりスープに合うかも知れんからな…」



 俺は丼の上のトンカツを一切れ摘まむ。上の部分はまだサクサクした感じで、下部の方はその衣にこってりスープを吸い込んでいる。


 俺はそのトンカツを恐る恐る口元へ運び、一口齧り付く。上部のサクりとした食感と下部のこってりスープを吸い込んだ衣からスープの旨味が舌の上に広がり、その上で噛み締めた豚肉の中から肉汁の旨味が溢れてくる。



「どうですか? 美味しいでしょ?」


「不味くは…無いな…」


 

 とはいえ、天上天下一品のこってりスープに合うかと言われれば、パイナップルに例えていうと、酢豚とピザの真ん中あたりだ。つまり俺にはあまり合わない。普通の食い方の方が良いと思う。


 そんな事を思いながらトンカツを食っていると、なぜだかシュリの胸元に目がとまる。



「おい、シュリ…」


「なんじゃ、あるじ様」



 シュリは口をもぐもぐしながら俺に答える。



「お前…また俺の乳を小さくしやがったな…」


 

 シュリは俺の言葉にじっと俺を見つめた後、ごっくんと口の中の食べ物を飲み込み口を開く。



「あるじ様の乳ではない、わらわの乳じゃ」


「この際、どっちでもいい! どうしてまた小さくしてんだよ」


「ここ最近のヴァンパイアの襲撃で民はこの辺りに疎開してきておる。しかし、畑を放っておくわけにもいかんじゃろ? だから、わらわが各地を回って畑仕事の手伝いをしておるのじゃ」


「あぁ、なるほど、シュリが領民の畑仕事の手伝いをしていたのか…」



 道理で帰路の途中の村は人気がないのに畑が青々としていたのか…



「労働が増えた分、溜めておいた脂肪が縮んでも仕方なかろうて」



 シュリはそう言うとずるずると麺を啜り出す。



「シュリ…俺のトンカツをやるから、また乳を大きくしろ」



 そう言って、俺は手つかずのトンカツをシュリの丼に載せる。



「いや…タンパク質の肉を貰っても、脂肪の塊の乳は大きくならんじゃろ… じゃが、あるじ様の厚意じゃ、ありがたく頂くが…」



 シュリは口では無駄と言いつつも少し嬉しそうな顔をしてトンカツを齧り付く。



「私の方は元々トンカツは好きですけど、タンパク質の肉を摂らないといけない状況ですからね」


 そう言いながら、マリスティーヌもトンカツに齧り付く。



「なんでマリスティーヌがタンパク質を摂らないといけない状況なんだよ?」


 

 疑問に思った俺はマリスティーヌに尋ねる。



「それはですね、ヴァンパイア対策で聖水製造とかの対ヴァンパイア装備とかの制作作業をジョンさんと一緒にするようになってから、あの人、作業の始まる前に毎回、腹パンで私がヴァンパイアじゃないか確かめてくるんですよ」



 マリスティーヌの隣で無心にラーメンを食べていたカローラの手が止まる。



「毎日、作業前に腹パンって…俺からジョンに止めるようにいってやろうか?」


「いえ、大丈夫ですっ! 自力でジョンさんの腹パンに対抗する術を身に付けましたからっ!」



 タンパク質が必要な状況にマリスティーヌの言葉… 俺の脳裏にニュータイプが閃いた時の様に、どこぞのビキニアーマーの女王の姿が脳裏に過ぎる。



「マリスティーヌっ! お前っ! まさかっ!!!」


 

 俺は恐ろしい予感に思わず、席を立ちあがる!



「えぇ、かなり腹筋が鍛えられてきたんですよっ! うっすらと腹筋が見えるぐらいに、見てみますか?」


「おい!! やめろっ!!」



 俺は必死に制止の声を上げようとするが、それよりも速くマリスティーヌは修道服の裾を掴んで捲り上げる!!



 幼女体型のカローラのイカっぱらとは違って、陸上部の少女のような引き締まったウエスト… 確かにうっすらと見える腹筋の隆起… やや縦に伸びるへそ… そして健康的に映える鼠径部… ん? 鼠径部!?



 ブフォッ!!



 隣でスープを啜っていたマグナブリルが噴き出す。



「おっ! おっ! お前っ!! なんで履いてないんだよっ!!!」


「えっ? 気にするところはそこですか?」


 

 マリスティーヌは首を傾げながら答える。



「逆になんでお前は気にしないんだよっ! ってか、俺はパンツ履けって言ったよなっ!! なんで履いてないんだよっ!!」


「私はこのアシヤ領の統括司教になったんですよ! それぐらいの自由が許されてもいいじゃないですか~っ!」


「いや、権力を手に入れて…求める自由が履かない自由って… マリスティーヌ…お前、そんなにパンツ履くのが嫌なのか?」


「イチローさんに逆に聞きますけど… イチローさんがスカート履けって言われたらどうしますか? スースーして落ち着かないでしょ?」



 マリスティーヌの言葉に、俺はハニバルで蟻族の巣穴を襲撃した時の事を思い出す。

 あの時の俺は股間のマイSON無双に高揚して、『フハハハ!ズボンなんて飾りだ!エロくない人には分らんのだ!』とか宣いながら、フルマイSONしていたが、結局、『ズボンがなきゃ恥ずかしいもん(ハート)』って感じにズボンを履いたからな… それと一緒なのか… いや、どう考えても違うような…


 マリスティーヌの言葉に、俺は自分の黒歴史を振り返りながら熟考していると、シュリが慌てた声を掛けてくる。



「大変じゃ! あるじ様! マグナブリル殿が死にかけておるぞっ!!」


「えっ!?」


 

 シュリの言葉に隣のマグナブリルを見てみると、『ガハッ!ガハッ!』と咳き込みながら胸を掻き毟り、目を白黒させていた。





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