第516話 事件の詳細

 俺たちが応接室に案内された後、ミリーズは話をする前に少し用事があると言って部屋を出る。ミリーズが用事をしている間に、先程の聖女候補生の小っちゃい方がティーワゴンを推してお茶の給仕をし始める。

 その給仕のやり方が、 普通なら給仕は立ちながらお茶を客に差し出すだけだが、どういう訳かこの娘たちは俺の隣に腰を降ろして身体を摺り寄せながらお茶を煎れてくる。マジでキャバクラっぽい… まぁ…うちのちっちゃいアリメイド達も同じような事をするので人の事は言えないが教会の…しかし聖女候補生が同じようにキャバクラみたいな事をするのはどうなんだ?


 そんな事を思いながらお茶の接待を受けていると、先程一度席を外していたミリーズが初老のご婦人を連れて応接室に現れる。


「イチロー、待たせたわね、こちらの方を紹介するわ」


「初めまして、私はこの聖女候補生育成所の院長を勤めておりますフランソワと申します。勇者イチロー様」


 年齢や質素ながら纏っている服装からして教会内部でも高位の存在であるのに、初老のご婦人は俺に対して深々と頭を下げて礼をする。そんな院長の対応に、俺も慌ててソファーから立ち上がって頭を下げる。


「こちらこそ初めまして、アシヤ・イチローと申します。こっちが俺の仲間のカローラです」


「カ、カローラです」


 カローラもソファーから立ち上がらせて、俺に合わせて院長に頭を下げさせる。


「話は聞いているわ、どうぞお掛けになって」


「それでは、イチローが消えている間に何があったのか話していくわね」


 ミリーズが聖女候補生たちに目配せすると、キャバ嬢状態だった小っちゃい聖女候補生たちもそそくさと応接室を後にして、俺とカローラ、ミリーズと院長の四人だけの状態になる。


「先ずはイチロー達が消える原因になった事だけど…」


 口火を切ってミリーズは話し出す。


「あぁ、あの魔法陣によって意図的に仕組まれた所為なんだろ?」


「あっ、イチローも分かっていたのね…」


「勿論だ… カローラが駆け寄ってきたぐらいで、あんなことになるなんていくら何でもおかしすぎる」


「うんうん、もしかしたらあの事件が私の所為にされてるんじゃないかと…ちょっと心配してた」


 俺の隣でカローラが自身の無実を訴える様にそう述べる。


「えぇ、イチロー達が消えた当初は、一部の枢機卿たちがカローラが駆け寄った為だと声高に言っていたわ」


「えぇ~ やっぱり私の所為にされていたの!?」


「でも、安心してカローラちゃん、事件の後、アソシエとプリンクリン、そして事件の知らせを聞いたディート君が駆けつけてくれて三人で魔法陣を調査してすぐに、あの魔法陣がイチローを何処かへ転移させるものだと判明したわ」


 ミリーズはカローラを安心させる為に微笑を浮かべながら経緯を説明する。


「しかし、アソシエ、プリンクリン、ディートが調査したと言っても、教会側がそんな不祥事を認めたのか? 一応聖剣の勇者である俺を意図的に転移して追放するなんて、普通にみたら人類に対しての敵対行為だろ?」


「そうね、でもディート君やマグナブリルさん、カミラル王子やマイティー女王、カーバルの七賢者、後カイラウルの王族の支援もあって教会も責任を認めざるを得なくなったのよ」


 そう言ってミリーズは一口紅茶を含んで喉を潤す。


「ん? ディートやマグナブリルは分かるけど、カミラル王子やマイティー女王、そしてカーバル爺さん達や… 俺が会ったことも無いカイラウルの王族がなんで俺の支援をしたんだ? それにどんな支援をしたっていうんだよ」


「ディート君が調査した魔法陣の図面をすぐさまカーバルに送って、ディート君だけではなく、カーバルの七賢者の名をもって、あの魔法陣がイチローを転移させるものであると公に証明したのよ」


「あの爺さん達が!? まぁ、本人たちの趣味や性癖、人間性は置いといて、学術的な権威で言えばこの大陸一だからな… まぁ、ディートたちとカーバルの爺さん達が魔法陣の事を証明してくれたのは分かった。でも他のカミラル王子たちの支援ってのは?」


 俺も紅茶をちょろりと飲む。


「ディート君やカーバルの七賢者の調査報告を受けて、カミラル王子を筆頭にその調査報告を支持、そして教会に責任追及をしはじめたのよ。なんでもマグナブリルさんの話では、カーバルの調査報告や、カミラル王子やその他の国の教会に対する責任追及がなければ、イチロー個人の資質に問題があったとして処分したと言い逃れる可能性が高ったそうよ」


 個人の資質に問題があるって… 俺は確かにイアピースやウリクリなどを解放した表向きな実績はあるが、個人の資質と言われると、カーバルの爺さん達と同じで、色々身に覚えがあるので反論できねぇ…


「それで、イチローと関わりが深いイアピースとウリクリだけの表明なら関係者ということでその表明に重みが無かったかもしれないけど、ハニバルのあるべアールや、獣人連合、そしてまったく無関係と思われるカイラウルからもイチロー指示の表明があって、教会側も無視できなくなったのよ…」


「べアールは蟻族から解放したでのは分かるけど… 獣人連合ね… ハバナとミケも一応フェインとマセレタの王女だからな… でもカイラウルはホントなんでだろ? ロアンと一緒にいた時は確かにカイラウルを中心に活動していたけど、その時の俺は名が知られて無かっただろ?」


「ここに来る前に、一つの集落で炊き出しをおこなったでしょ? あの行いが生き残ったカイラウルの王族の耳に入ったそうなのよ」


「あの炊き出しがか…」


 あの炊き出しは俺がロアンのパーティーを追放された当初に行った悪行に対する罪滅ぼしであり禊だ… だが、その事は他のメンバーどころか、アソシエやミリーズ、ネイシュ達にも話してない、俺とカズオとシュリだけの秘密… これは絶対に墓まで持っていかんとならんな…


「しかし、教会自ら不祥事を認めるってただ事では済まなかっただろ…ってかあの事件の黒幕って一体誰だったんだ? 教会全体の総意とは思えないのだが… しかしながら、末端の一個人の仕業とも思えない。そこそこの権力者の思惑だったんだろ?」


 俺はチラリとミリーズの顔を見てその返答を待つ。


「えぇ、教会全体の総意でもなければ、教会の頂点である教皇の意思でもないわ」


 そう言ってミリーズは俺の瞳を直視する。


「今回の計画を企てたのは…枢機卿の…カール卿よ…」


「カール卿? 誰だ? それ?」


「ヒルデベルト司教の弾劾に前にイチローに話しかけて来た枢機卿よ」


「あぁ、思い出した。顔は笑顔を作っているのに目は全然笑ってないあのおっさんの事か… で、なんでそのカール卿は俺を飛ばしたんだ?」


「その事については私から説明致します…」



 今まで沈黙を保っていたフランソワ院長が静かに声を上げた。



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