第508話 金稼ぎの難しさ
俺は道具をスポーツバッグに詰め込み、キリリと襟を正す。
「あれ? イチロー兄さま、そんな恰好をして何処かにお出かけなんですか?」
「ふっ… ちょっと世界のイチローになってくる… 俺の活躍に期待してくれ…」
「世界のイチロー? なんの話ですか?」
カローラは意味が分からず首を傾げる。
「フフフ、これから野球のプロテストを受けに行ってくるんだよ! この俺が日本どころかワールドクラスのホームランをかっ飛ばしてくるぜ!」
そう言ってバットでホームランポーズをとる。
「おぉ~私、野球は知りませんけど、頑張ってきてください!」
「あぁ、俺もパワプロでしか野球を知らないけど頑張ってくる!」
そして、その日の夕方…
「テストはどうでしたか? イチロー兄さま」
「…テストを受けさせてもらう前に門前払いだった…」
俺は肩を落としながら答える。
「どうして門前払いだったんですか? 身体能力なら十分大丈夫だと思うのですが…」
「身分証が免許証しか無かったのがダメだそうだ… 後、この免許証に使わせてもらっている人物が今年で28歳だから年齢的にオーバーしているそうだ… くっそ…身体強化魔法で活躍できると思っていたのに…」
折角、買い込んだバットとスパイクシューズ、ユニフォームが台無しになってしまった…
「それで…どうするんですか?」
「まだだ…他にまだ手立てはある!! カローラ! 今日俺宛に荷物が届いてなかったか!?」
俺はユニフォームを脱ぎ捨てながらカローラに尋ねる。
「そう言えば、ジャングルからイチロー兄さま宛に荷物が届いていましたよ」
カローラはそう言うと、ちょこちょこと歩いてジャングルのニヤついているような矢印が印刷された箱を持ってくる。
「おっ! 来ていたか! フフフ…これさえあれば、家にいながらでも億万長者に…」
俺はカローラから手渡された箱を開封していく。
「なんですか?それ」
「ゴープロだよゴープロ、フフフ…これでようつべ界を駆け上ってやるぜ!!」
そして、一日後…
「何故だ…どうしてだ… 嘘だろ… 投稿してから丸一日経つというのに… 再生回数が3回だなんて… しかも誰だよ…ご丁寧に低評価までつけやがって…」
俺はようつべの管理画面を見ながら頭を抱える。すると隣で様子を見ていたミュリが声を上げる。
「そんなの当り前じゃないの…あんな動画で再生数が稼げると思っていたの? イチロー、貴方、ようつべを舐め過ぎよっ! 私も低評価を押させてもらったわ!」
「お前かっ!! お前が俺の動画に低評価を付けた3人のうちの一人かっ!!」
俺は今にも噛みつきそうな顔でミュリを睨みつける。
「ちょっと! 3回しか動画が再生されてないのに低評価が3って… 全員に低評価つけられているじゃないのっ!」
「どうしてだ… どうして誰も動画を見てくれない… しかもなんで全員低評価を付けていくんだよ…」
俺は再び頭を抱える。
「それは、今時無名の人間のマインクリエイトの実況動画なんて誰も見ないわよ… しかも動画の冒頭部分でピカキンの真似して、『ルンルンハローようつべ』なんてやっていたら、低評価付けられて当然よっ!」
「いや…昔のニフニフ動画ならこのノリでいけるはずなんだがな…」
「じゃあニフニフ動画ですればいいじゃないっ! まぁ、あちらでもダメだと思うけどね…」
ミュリはそう言って鼻で笑う。
「くそぉ~ 異世界に言っていた三年間で時代遅れに成っちまったのか… でも、最新のゲームをやれば…ワンチャン…」
「いや、最新のゲームでやっても厳しいと思うわよ… それこそ個人ようつべぇなんて腐るほどいるから… どこかの箱に入って宣伝してもらわないとダメなんじゃないの?」
そう言って、ミュリが個人勢ようつべぇたちの状況を見せる。猫も杓子も異世界転生していたように、ようつべ界隈も猫も杓子もようつべぇになりまくって行って、本当に腐るほどいた。
「まじで腐るほどいる… こんな中でどうやって注目してもらえるんだよ…」
俺は頭を抱える。
「先に釘を刺しておくけど、炎上系とかは注目されやすいけど、特定もされて住んでいる所も暴かれるから、やったらこの家から叩き出すからね」
ミュリがマジ真剣な顔をして睨んでくる。
「しねぇよ…いくら俺でもそれぐらいの分別はある…」
そう答えながらチラリとミュリを見て、俺はある疑問を思い浮かぶ。
「そう言えばミュリ… お前、こんな山奥でニートの夢の住居みたいな結構贅沢な生活しているけど、その金はどうしてんだよ?」
俺はミュリが何かいい稼ぎ方を知っているのではないかと思って尋ねる。
「えっ? 私? 私は養父母が残してくれた遺産を資産運用しているから、生活費には困らないわね」
「へぇ…そうなんだ…」
俺はミュリのその言葉で新たな稼ぎ方を思いつく。
そして、数日後。外から戻った俺は、今でお茶をしているミュリの所へ向かう。
「あら、イチロー戻ったの? 今までどこいったのよ?」
「ミュリ…お前に託したいものがある…」
俺はそう言って、収納魔法の中からバサバサと札束とテーブルの上に取り出す。恐らく三千万ぐらいはあるだろうか…ミュリも目を丸くする。
「ミュリ、先日資産運用で生活費を稼いでいると言ってたよな? この金も増やしてくれないか?」
するとミュリがすっと立ち上がり、俺の手を握る。
「イチロー… 私もついて行ってあげるから一緒に警察に行きましょう…」
「は? なんでお前と一緒に警察にいかなくちゃならんのだ?」
俺は意味が分からず目を丸くする。
「しばらく外に出て家に帰ってこないと思ったら…外で盗みを働いていたなんて…」
「ちげーよっ!! 収納魔法の中に納めていた換金できそうな装飾品を売り払って来ただけだよっ!」
盗みをしてきたと勘違いされた俺は必死に弁明する。
「イチロー! 私から目を逸らさず話しなさいっ! …やっぱり… 目が欲望で澱んでいるわ… やっぱり後ろめたい事があるのね!」
「いや、これだけ金があるなら一回ぐらい風俗に行こうかと考えていただけだっ! へんな誤解するなよ!」
「風俗に行こうだなんて爛れた欲望を考えているから誤解されるのよ…」
居間のテーブルの端っこでPCを弄っている聖剣が口をはさんでくる。
「いや…オブシダンでBLプレイをしているお前に言われてもな…」
ノートPCの画面には俺にとっては口にするのも悍ましい光景が映し出されている… 女性から見たエロゲーもあんな感じなんだろうか…
「分かったわ…とりあえず、本当にまともな手段で手に入れてきたのよね… でも、イチロー改めて言っておくわ… こんなお金を渡されても、貴方が期待している様な金額に増やす事は出来ないわよ…」
ミュリが呆れたように溜息をつきながら話す。
「どうしてだ? 資産運用で生活費を得ているのだろ?」
「生活費を得ていると言っても10万いくかいかないか程度よ… 家賃も掛からない食費も自給自足出来る… だから電気代と通信費ぐらいしか固定費が掛からないから後は、ちょくちょくとお小遣いにしているだけよ… そんなに買い被らないで」
「マジか…」
こうして、とりあえず思いついた金稼ぎの方法は悉く失敗したのであった…
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます