第497話 幼女サバイバル

 ミュリの家に居候するようになってから、数日が経った。まぁ、居候をしているので、食っちゃ寝する訳にはいかず、ミュリがあまり料理が得意ではないのも相まって俺が料理を担当している。ぶっちゃけ、調味料や特殊な食材でなければ自給自足できる状態が整っているので食事のメニューには困らない。

 ミュリが鹿を狩猟していたと言っていたが、それは本当の話で、ミュリが作っている家庭菜園や田んぼの周りに獣害除け用の罠が設置されているので、菜園の野菜を狙いに来た鹿が勝手に掛かるようだ。うーん…野菜だけではなく、田んぼで米の栽培までやって、罠猟で鹿肉まで得ているとは… 需給自足に関してはシュリの上位互換か?


 でも、獲りたくなくても鹿肉が獲れてしまう状況なので、冷蔵庫が鹿肉だらけとなる訳か… しかも鹿肉は普通に調理したあまりおいしくないし、ミュリも幼女体型なのでガツガツ消費することは出来ない。

 と言う訳で、俺は鹿肉の加工に挑戦する。挑戦する加工はジャーキーと生ハムだ。この二つなら冷蔵庫を圧迫する心配は無いだろう。骨等は寸胴鍋で煮詰めて製氷皿で凍らせて、いつでも使える出汁の氷にしておく。


 カローラの方はと言うと、ずっとミュリと一緒にゲームをしている。まぁ、カローラはゲームが好きなくせに下手なので、自然とミュリに接待プレイになっている。わざとらしさが無い分効果的に思える。しかし、素のカローラはゲームが下手だがシュリ成分が加わると結構ガチプレイヤーになるのだとミュリを見ていてそう思った。下手すれば俺でも負けてしまうような腕前だ。


 そんなミュリも一日中ゲームをしているかと思えば、ちゃんと決まった時間に畑の世話をしている。やはりシュリ要素も強いな…


 俺もそんなミュリの畑仕事を手伝うのが日課になっている。ちなみにミュリが畑仕事をしている時は、カローラは申し訳程度に家の掃除をしている。あいつも成長したな…



「ミュリ」



 畑仕事を手伝いながらミュリに声をかける。



「なによ?」


 ミュリはシュリのようにこちらに振り返らず、畑作業に勤しみながら答える。



「よくこんなところで自給自足生活しているな…金持ってんだから自給自足生活なんてしなくても暮らせて生けるだろ?」


「あぁ、その事ね… 私って、こんな体だし、あまり人目のあるところで生活したくないのよ、後、自給自足生活しているのは、転移した時の状況がトラウマになっているのもあるわね」


 そう言って雑草を抜いていく。



「転移した時の状況がトラウマになった? そんな酷い状況だったのか?」


「そうよ、深い山の中…一人で一年間山の中でサバイバル生活をしていたのよ… だから、食料がすぐに手に入る状況でないと落ち着かないのよ…」


「えっ!? そんな身体で一年間山の中でサバイバル生活したのかよ? 勿論、元の世界から持ち込んだ物もあったんだろ?」


 俺はナスを収穫する手を止めてミュリに向き直る。


「無いわよ、着ているもの以外、ほぼ裸一貫でのサバイバルだったわ、しかも転移する前の状況が敵から追われている状況だったから、最初の一週間は追手がくると思って、ずっと繁みとか洞窟とかに潜んでいて、渇きと飢えで死にそうになったのよ」


「マジか… えらいハードな状況だったんだな… それ、大人でも死んでる状況だぞ?」


「それで、もう追手に捕まってもいいやって考えて、隠れるのを止めて、飲み水探したり食べ物を探したりしたのよ、それでも山の中ってなかなか食べるものが手に入らないのよね… どんぐりの木を見つけた時は世界樹でも見つけた気分だったわよ」


 ミュリはそう言うと、草抜きから立ち上がって、ぐぐっと背筋を伸ばす。この仕草もシュリがよくやってたな…


「しかし、そういう状況からよくここまでの状況に辿り着いたな… もしかして、この家も自分で建てたとか?」


「まさか、サバイバル生活を初めて文明レベルも打製石器を使っていた状態から鉄器を使うようになった時に、大雨が降って今まで積み上げてきた文明が氾濫した川の水で全て洗い流れてしまったのよ、それで再び山の中を徘徊していた時に、自然災害の被害状況を調べに来た役人に見つけられて保護されたのよ、当時は野生の金髪幼女が山の中で発見されるって話題になったようね…」


「あ…俺も何年も後からその話をネットで見たけど…あれ、お前の事だったのかよ…」


 時々、ネットでまた山の中に野生の金髪幼女落ちてないかな?って書き込みを見かけたけど、まさかミュリの事だったとは…


「その噂がまだ残っているから、こうして人目のつかない場所で暮らしている訳よ」


「でも、こんな所じゃ色々と不便だろ?」


 ここはちょっとコンビニに買い物とはいかない場所だ。


「知っている? 人はネットとネットショップのジャングルがあればどこでも生きていけるのよ…」


 そう言ってニタリと笑う。この辺りはカローラの血のせいだな…


「ミュリ…お前、変な所で現代っ子だな…まぁ、食料を自給自足してないと落ち着かないというのは分かったけど、いくら何でも野菜も取れ過ぎだろ? とてもじゃないが一人でたべきれないだろ? 今日だけでもナスだけでこれだけ収穫できてるぞ?」


 そう言って俺は籠一杯に収穫したナスを見せる。


「食べきれない分は漬物にしているわよ、自給自足をしているといっても冬場はあまり野菜が獲れないから、漬物にして冬場はしのぐのよ。後は鶏のエサね」


 生活の思考がまんま田舎のおばあちゃんだな…


「なるほど…野菜は十分自給自足できているし、肉は野菜を狙いに来る鹿を捕まえて補っている訳だな…」


「鹿肉が獲れるのはいいけど、一度牛や豚肉の味を知ると今一だけど、肉に困らないのはいいわね」


「その件だけど、俺が今、鹿肉でジャーキーと生ハムを作っているから、かなり改善されると思うぞ?」


 俺はナス一杯の籠を抱えて裏口にある保管室に運んでいく。


「鹿肉で生ハムとかジャーキーがつくれるの!? それはありがたいわね! 今までタンパク質摂取の為に鹿肉を食べていた状態だけど助かるわ! ぶっちゃけ、味なら亀の方がおいしいからね」


「お前…亀食った事があるのかよ…ってか亀って食えるんだな…」


「貴方、冒険者の癖に何言ってんよ、亀はごちそうよ?」


 どうやらミュリは俺よりもサバイバル生活に慣れている様だ… 恐ろしい…


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