第493話 幼女の正体

 俺はカローラの言葉に激しく困惑する。見た事も聞いた事もないこの金髪碧眼の幼女に、俺とカローラ、オマケにシュリの血が流れているだと!?

 

 俺の血だけが流れているなら、俺の知らない所で両親が励んで妹が生まれたって可能性もあるが… 髪の毛だって、この歳でブリーチで決めて脱色して金髪にして瞳はカラーコンタクトとかもあり得るが… いや、両親のどちらかに金髪碧眼の白人の遺伝子が微粒子レベルで存在していた可能性もある…


 だが、カローラとシュリの血が混じっている事だけはどうにも説明がつかない…

 


「なぁ、カローラ…俺以外にもマジでお前とシュリの血が入っているのか? 何かの間違いじゃないのか?」


「いえ、間違いありません。シュリの血はイチロー兄さまが最初に私の城に乗り込んで来た時に、飲んでいますから… シルバードラゴンの血なんて普段飲まない特別な血ですからよく覚えてますよ。自分自身の血は先程の治療時に私の血を使う時に、零れそうな血を舐めとる事があるので分かります」


 カローラはそう言って、針で突き刺した指を見せる。


「なるほど…カローラの血が入っているのは間違いないのか… でもシュリの方は珍しいドラゴンの血なんだろ? 他のドラゴンってことはないか?」


「それもないですね、カーバルでの実験の手伝いで他のドラゴンの血もテイスティングしているので、他のドラゴンとシュリの血の区別はつきます」


「でも、血の味って生活習慣で変わるんだろ? だったらこの幼女がシュリと同じような食生活をしている可能性は?」


「確かにその事もありますけど、シュリやイチロー兄さまの血は、普段の食事として取り込んだのではなく、私の欠損していた存在マテリアルを補うために取り込みましたからね… こちらの世界でいう所の遺伝子構造を読み取っているんですよ… だから、間違えようがありません」


「マジか…間違いないのか…」


 

 俺は勘違いでもなければ思い違いでもない確定したカローラの言葉に改めて困惑する。確定で俺とカローラとシュリの血が流れているこの幼女は何者なんだ? もしかして、俺の存在を警戒したり敵対する組織が、密かに血や遺伝子を集めて、ドラゴンゴールにでてきたセルみたく作り上げた人造幼女とか何かか?


 いやいや、まさかそんな組織はいないだろうし、やるなら向こうの異世界でやって、わざわざこの現代日本まで送り込んでこないよな…



『イチロー兄さま、メデュリナス大陸語は分かりますか?』



 そんな困惑する俺に、カローラが唐突に異世界の別大陸の言語メデュリナス語で話しかけてくる。



『あぁ、ある程度は話せるが、そんなに詳しくはないぞ?でも、なんでメデュリナス語で?』



 俺はロアンのパーティーにいた時に覚えたたどたどしいメデュリナス語で答える。



『ある程度、会話が出来るのなら大丈夫です… 一応、これからの話はこの幼女には聞かせない方が良いかなと思って言語を変えてみたんですよ』


『聞かせない方がいいって…どんな話だよ?』



 俺は慣れないメデュリナス語で尋ねる。



『もしかしたら…この幼女も、私たちと同じように、向こうの世界からこちらに来たんじゃないでしょうか? しかも、私たちがいた時間軸よりも後の時間軸で…』


「はぁ~!?」



 俺は思わず普通の言葉で声を上げてしまう。



『それしか考えられないですよ… 私とシュリ、そしてイチロー兄さまの血が混じった人物が存在するなんて…私たちのいた時間軸よりも後の世界か、それこそパラレルワールドぐらいしか…』


 これは…一体どう解釈すればいいんだ? 俺は未来でカローラとシュリと致して孕ますのか、それともアソシエ達の子供とカローラやシュリ達の子供が何処かで交わるのか…


 カローラはこの幼女に俺とカローラとシュリの血が流れていると言ったが、それはすぐさま、俺とカローラ、俺とシュリの子供の子孫という事にはならない…


 俺とカローラはこのままここで暮らして、カローラがアダルト状態になって俺の子供を産んで、その子供が異世界に飛ばされてシュリの子孫と子供を作る可能性もある…


 その場合は、シュリと致せなかった事になる…くっそ…こんな事で悩むのだったら、総排泄腔とか問題にせず、さっさと手を出して確証を作っておくべきだった…



『イチロー兄さま…何か別な事で悩んでおられるようですが、朗報というか私に良い考えがあります』


『良い考え? どんな事だ?』


 カローラに向き直って尋ねる。



『私の考えた仮定通りならば、この幼女は私たちの元居た世界の未来から来た事になります。そして、この幼女は元の世界に戻る方法を知っているのではないですか?』


『それはありうるな!』



 俺は未来においてシュリと致しのかの事は置いておいて、カローラの話に乗り始める。



『ならば、この幼女を篭絡して元の世界に戻る方法を聞き出すのが良いのでは?』


『そうだな…俺の自慢の猪ソーセージをたらふく食らわせて篭絡してやるとするか…』


 

 俺はヒヒヒと悪だくみをする商人のようなゲスな笑みを浮かべながら、カローラの言葉に相槌を打つ。



『…悪いけど… 私は猪ソーセージぐらいで篭絡されるような安い女じゃないわよ…』



 突然に吊るされていた金髪幼女がメデュリナス語で口を開く。



「「えっ!?」」



 俺とカローラは目を丸くして、二人して幼女に向き直る。すると幼女は呆れたような目で俺たちを見ている。



『言っておくけど、二人でしていたひそひそ話もメデュリナス語での会話も全部聞こえていたわよ…』


「マ、マジで!?」


 

 もうメデュリナス語で話すのは無意味だと思った俺は日本語で尋ねる。



「そうよ、私の方も貴方たち二人を警戒していたけど…どうやらベルクードの人間でもセントシーナの人間でもなさそうね…安心したわ…」


「ベルクードって…! 大陸の南西地方だし、セントシーナって別大陸の大国名じゃないか!! って事は…お前は…」


 幼女の口から俺の知っている大陸の地方名や別大陸の大国名が出てきたので驚く。



「えぇ…お察しの通り、貴方たちがいた世界から飛ばされた人間よ…」



 幼女は吊るされながらそう答えたのであった。





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