第489話 魔法の追跡
誰かが魔法を使っている反応を感じる… 元の世界では辺りに魔素が満ちているので、ちょっとやそっと誰かが魔法を使っても、誰も気に掛けないが、この魔素が殆ど存在しない現代日本では、魔力を感じる事の出来るものであれば、すぐに気が付く。
それは例えて言うなれば雑踏の中で声を出しても誰も気に掛けないが、静寂の中で大声を出すのに等しい行為だ。しかも現在使われている魔法の強度は、俺が使っていた照明魔法とは比べ物にならない強度の魔法を使い続けている…
一体、何者がなんの魔法を使っているんだ!?
「イチロー兄さまっ! これ、凄い威力の魔法ですよっ!」
「あぁ! 分かっている!」
俺は運転しつつも困惑する。この強度の魔法をこの魔素のほとんどない現代日本で使う事は自分の居場所を知らせるようなものだ。しかも、こんな強力な魔法を使ったら、ここでは魔力が殆ど回復しないので、数か月…いや年単位で魔力が枯渇した状態で過ごさなければならない…
「この魔法の強度もスゲーけど… これだけ使い続けているって… どれ程の魔力量もった人間なんだよ… ただもんじゃねぇぞ!?」
「これって… かなりの魔法の使い手じゃないですか? …もしかして、私たちを探しに来た仲間に何かあったのでは!?」
カローラの言葉を聞いて背過ぎに悪寒が走る。
もしかして…カローラの言った事はあり得るのか!?
俺とカローラは俺がこの現代日本出身だったから、なんとか一般人に紛れて過ごす事が出来たけど、もし俺たちの仲間が来ていて水先案内人の様な人間が居なければ、トラブルを起こして…
俺は仲間たちが警察から発砲されている所や、車と事故を起こしている所を想像してしまう。十分あり得る状況だ。
「マズいな… とりあえず、魔法を使っている場所に急いでいかないと!」
「そうですねっ! イチロー兄さま!」
「カローラ! 俺はとりあえず運転に集中するから、お前はソナーをうって、大体の距離と方角を測ってくれ!」
「分かりましたっ!!」
車を運転している状態では、正確な方向や距離を割り出せない。当然ソナーをうつことも出来ない。ここはカローラに任せるほかない。
カローラは目を閉じてソナーを使う。俺の方は丁度都合の良いコンビニを見つけて車をコンビニの駐車場へ滑り込ませる。
「カローラ! どうだ!? 方角と場所は分かったか!?」
俺は車を止めるなり助手席のカローラに向き直って尋ねる。
「ちょっと、待って下さい… 今、探っていますので…」
目を閉じたカローラはいつになく真剣な顔でソナーを使い続ける。
「分かりましたっ!」
そして、カローラはパッと目を見開き声を上げる。
「どっちだ!? どれぐらいの距離だ!?」
「あちらの方向! 距離は…凡そ…城からユズビスの町までの…1.5倍ほどですかね?」
そう言って、海岸線とは逆方向の山側を指差す。
「ちょっと待ってろよ…車のナビを進行方向を上にして… ユズビスまでの1.5倍ほどの距離を… あれ?」
「どうしたんですか? イチロー兄さま」
「いや、カローラの言ってる場所って… 俺たちがキャンプをしていた場所の近くだぞ?」
俺はナビが表示する地図のカローラの示した地点を指差す。そこからそう遠くない所に俺たちがキャンプをしていた場所の名称が見える。
「えっ!? そうなんですか? じゃああの時って、以前イチロー兄さまにソナーを打った者が近くにいたってことですか?」
「相手が移動しているかもしれんし、何とも言えん…」
「それで、その場所には車ならすぐにいけるんですか?」
「いや…普通に走っていたら一時間以上かかるな…」
カローラの示した場所を目的地に設定すると、ナビは到着まで1時間半掛かると告げてくる。
「一時間以上も掛かったら、魔法を使っている者はまた何処かに言っちゃうかもですよ!!」
ナビを最短時間に設定すると京都縦貫道を使ったルートを表示する。
「高速道路を使えば…よし! 一時間を切れるぞ!!」
有料道路を使ったルートを設定すると、俺はハンドルを切り、アクセルを吹かして車を走らせる。
「イチロー、一応忠告しておくけど、運転免許証を新たに手に入れたと言っても他人の物よ… 交通規則には十分気を付けなさい」
聖剣が忠告を飛ばしてくる。
「分かっているよ、途中で警察に捕まりでもすれば、チャンスを逃すところか、刑務所行きかも知れんからな…」
そう答えつつ車を走らせ、有料道路の入口に入り、車を飛ばし始める。
「よし! いい感じに飛ばしている車がいるから、その後ろについて飛ばしていくか!」
「あおり運転に間違われないように車間距離は取りなさいよ!」
聖剣の奴、部屋では24時間営業でネットをしていただけあって、こんな事まで詳しいな…
「分かった!」
そうして俺たちを乗せた車はぐいぐいと京都縦貫道を南に向けて走り続ける。
「これ…自分で飛行魔法で飛ぶよりも速いですね… ちょっと怖いぐらいですよ…」
「この現代日本にはもっと速い乗り物もあるんだぞ? こんなの遅いぐらいだよ」
車の速度にビビるカローラにそう答える。
「しかし、最初に魔法を感じてから随分立ちますけど… まだ魔法を使い続けてますね…」
「あぁ…そうだな… ちょっとこれ…マジでかなりの魔力量の持ち主だぞ!?」
俺やカローラならこれと同じ強度の魔法を同じ時間だけ使う事は可能であるが、逆に言うと異世界のそこらにいる普通の魔法使いレベルではない事を物語っている。
やはり、俺たちを探しに来た仲間が何らかのトラブルに巻き込まれたのであろうか…
「イチロー兄さま! かなり反応が近くなってきましたよっ!」
「あぁ! 分かっている!! 次の出口で降りて下道を走るぞ!!」
前をいい速度で先行してくれた車に、心の中で礼を言いながら、俺は車を左に寄せて、拘束の出口に向かう。
「イチロー兄さま! なんか検問所みたいなのがありますよっ! 待ち伏せですか!?」
「あれは、ただの料金所だ、俺たちを待ち伏せていた訳じゃねぇよ」
俺はETCカードを持っていないので、現金支払いの料金所に入り、チケットをつっこんで財布を取り出して料金の支払いを行う。
「あぁ! めんどくせぇ~!!」
俺は五千円札を突っ込み、停止バーが上がるとお釣りを取らずに車を走らせる。
「なんだか、魔法の強度が弱くなってきましたよっ! これじゃあ、見つけられないかもっ!」
助手席のカローラが声を上げる。
「大丈夫だ! カローラ! この辺りの道は山道だから、他人と見間違えたりしねぇ! 逃げたって山の中だ! なんとかなる!」
そう言って俺は車で下道を走らせる。するとT字路が見えてくる。
「イチロー兄さま! そっちの脇道です!」
となりのカローラが声を上げる。
「そっちの脇道は山道だな…地元民しか使わなそうな道路だな…」
カローラの指示に従い車を脇道に入れる。すると、結界か力場に進入した時のような違和感というか抵抗感を感じる。
「イチロー兄さま! あれ!! あれじゃないですかっ!!!」
カローラの指差した先には、道の中央で停車するダンプとその脇に倒れる人とそれに寄り添う人影が見えたのであった。
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