第485話 運転免許証
俺は受付で受け取ったカードを眺めながらロビーへと向かう。色々あったがようやく念願の物を手に入れる事が出来た… 感無量と言った感じだ。会ったことはないがシラセアキラさんにありがとうと心の中で呟く。
ロビーに辿り着くと、試験が終わって人々が慌ただしくロビーを後にして外に出ていく中、ロビーの待合椅子の上にちょこんと座って、ステッキに熱中しているカローラの姿を見つける。
「おーい! カローラ!」
俺は手を振って声を掛ける。すると、カローラはすぐに気が付いて顔を上げて手を振り返す。
「あっ! イチロー兄さま!」
俺がカローラの所まで辿り着くと、カローラは椅子の上からぴょんと降りて、俺を見上げる。
「それで、試験の結果はどうでしたか?」
「おぅ! 見てくれ! この通りだ!」
俺はそう言って、先ほど受付で貰ったカードをカローラに見せつける。
「この通り、合格だ!! いや~一発試験で望んだんだが、なんとかなるものだなぁ~」
「おぉ~ おめでとうございます! 今度の写真はちゃんとイチロー兄さまらしい顔で映ってますねっ!」
カローラはそう言って、俺の免許証の写真をマジマジと見る。
俺たちは今、過疎化の町で他人の書類を手に入れ、それを元にちゃんとした身分証を手に入れる為に、運転免許証を取りに来ていた訳である。最初は原付免許だけでもいいかと考えたが、後々の移動の事を考えると自動車の免許があった方が便利だと考えたからだ。
かといって、何日もかけて教習所に通う時間的な余裕がないので、一発試験に望んだわけである。学科の方が聖剣にも協力してもらい、試験中、頭の中で助言してもらい、実技の方は以前も免許を持っていた事もあり、慎重に慎重を重ねて合格することが出来たのである。
「俺らしい写真って…」
免許証の自分の写真をマジマジと見てみる。自分で言うのもなんだか、ガンを飛ばしているヤンキーの様に見える写真だ。
「しまったな… 緊張していたのもあってかなり固い表情になっているな… キラキライケメンフェイスにするべきだった…」
「でも、その方がイチロー兄さまって分かり易いですよ?」
「そ…そうか?」
「えぇ、そうですよっ それより、この後どうしますか? 先ずは寝床を探しますか?」
俺はカローラの言葉に少し考える。
「そうだな… 寝床も重要だが… 先ずは合格祝いの景気づけに美味い物をガッツリと食いたいな…」
「美味い物… 何を食べに行きますか?」
カローラは期待に瞳をキラキラさせながらワクワクする。
「うーん、ここは一発食べ放題でも行ってみるか!」
「おぉぉ! こちらの世界でも食べ放題があるんですねっ! わーい♪ 食べ放題! カローラ、食べ放題 大好きっ!」
カローラはぴょんぴょん跳ねて喜ぶ。
俺たちは早速、近場のイデオンに移動してする。
「うわぁ~ ドンキバールやホーガンも圧倒的なお店でしたが、更にもっと大きなお店があるんですね… まるでお城のようじゃないですか!!」
カローラは到着したイデオン・モールを見上げて驚きの声を上げる。
「飯食う以外にも色々な店があるから、後で回ってみるか?」
「えぇ! ゲームショップがあれば是非とも回ってみたいですっ!」
「ゲームショップか…ブレねぇな… まぁいいが、飯食ってからにするぞ」
そう答えて、好奇心でキョロキョロと建物内を見渡すカローラを手を繋いで繋ぎ止めてグルメフロアへと向かう。
「えぇぇ! 食事する店だけでもこんなに種類があるんですかっ!!」
「あぁ、串カツ食べ放題、焼肉食べ放題、すき焼き食べ放題、中華食べ放題と色々あるぞ、どこがいい? カローラ」
俺がそう尋ねると、初めて大きなおもちゃ屋に連れて来てもらった子供用に色々な物が目移りしてキョロキョロし始める。
「こんなにあるんじゃ、どれか一つなんて決められませんよぉ~」
「いや、だからと言って食い放題を梯子するわけにはいかんだろ… シュリならいけそうだが…俺には無理だ」
シュリなら出禁になるぐらい食いそうだな…
「じゃあ、ここの店全部制覇できるまで、暫くこの辺りに留まりませんか?」
「おまっ、食べ放題制覇って…太るぞ? とりあえず、色々なメニューが楽しめそうな店にはいるとするか」
とりあえず、カローラはそんな大食いではないが、色々な物を少しづつ食べたい口なので、和洋中合わせたバイキングを行っている店に入っていく。
「わっ! わっ! わぁ~!! 城のビッフェとは品数の桁が違いますよっ!! これ本当に全部食べてもいいんですかっ!?」
「全部って… いや、この品数は俺でも無理だぞ?」
元々猫食い体質のカローラでは、到底全メニュー制覇は難しいだろう… ってか、この店の全メニュー制覇だけで数日通わないといけないレベルだろう…
「イチロー兄さま! 他の人に食べられないうちに、早く並びましょっ!」
カローラはトレイを持って早速列に並び始める。
「いやいや、無くなっても補充されるから安心しろ」
俺もそう言ってトレイを持ってカローラの後ろに並ぶ。
「これと…これと… これと… これも!」
カローラが後先考えず、ガンガンと料理をトレイに載せていく。こりゃ、どうせカローラ一人では食べきれないだろうから、俺が手伝ってやらないといけないだろうな…俺は少な目に持っていくか…
そう言う訳で、料理を乗せたトレイを持って、座席に座る。
「じゃあ、頂きますっ!」
「頂きます」
山盛りになったトレイを前に、カローラは早速ガッツき始める。…あんなに山盛りにしてきやがって…
そして、15分後…
「…イチロー兄さま… ちょっと…いやかなりきつくなってきたんですが…」
トレイの大半を残した状態でカローラが青い顔をし始める。
「だから言っただろ? ほら、手伝ってやるから俺に渡せ」
「すみません…イチロー兄さま… 後…」
カローラは自分のトレイを俺に差し出した後、俺の顔を伺うように上目づかいで見てくる。
「なんだよ?」
「イチロー兄さまに手伝ってもらって、こんな事を言うのは何ですが… アイスとってきてもいいですか?」
「お前なぁ… でも、アイスか… まぁいいや、取ってこい、その代わり少しにしておけよ」
俺がそう答えると、カローラはさっきまで青い顔をしていたのに、ホクホク顔でアイスコーナーに向かい始める。
(ちょっと、イチロー… カローラを甘やかしすぎじゃないの?)
そんな時に聖剣がカローラの扱いについて苦言を言ってくる。
「いや、そんなことねぇよ」
そう言いながら、カローラが残したトレイの上の料理を食う。
(でも、現に今もカローラが残した料理を食べて上げているじゃないの、あの子、貴方が甘やかしてくれるのを見越したうえで行動しているわよ)
「そんな事は分かってるよ、その辺りの声に出さなくても普段の仕草でお互い分かってんだよ」
(そうなの?)
「あぁ、料理を盛る時も俺からストップが掛かるのを気にしながら載せていたんだよ、俺も手伝えないなと思ったら、声かけるからな」
カローラも結構我儘をしている様だが、残した料理の中に齧ったものは残していない、全て取り分けられるか切り分けられる物ばかりだ。
(へぇ~ その辺りちゃんと互いに暗黙の駆け引きをしているのね)
「あぁ、俺の仲間はその辺りの一線はみんな弁えている」
「どうしたんですか? イチロー兄さま」
そんな所へ、カローラがアイスの皿を二つ持って帰ってくる。
「いや、ちょっと聖剣と話をしていたんだよ」
「そうなんですか? はい、これイチロー兄さまの分です。レモンシャーベットでよかったですよね?」
そう言って、レモンシャーベットを俺の前に置く。
「あぁ、それでいい、丁度、そんなのが食べたかったところだ」
「ところで、フィーラちゃんと何を話していたんですか? やっぱり早くネットが使いたい放題の居場所を見つける事ですか?」
そう言ってカローラの方はストロベリーアイスを食べ始める。
「そうだな、早く落ち着ける居場所を見つけるのも大事なんだが、ちゃんとした免許証を手に入れたから行きたい場所があるんだよ」
そう言って俺もレモンシャーベットを一口食べる。
「行きたい場所って?」
「俺もカローラにも、そして聖剣にも縁がある場所だよ」
それは二人にそう告げたのであった。
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