第475話 DQN

 俺はロフトの上で目を閉じて、その時が来るまで静かに横たわっていた。そして、時々スマホを見て時刻を確認する。



 そろそろ、深夜の0時か…



 後3分で日付が変わることを確認すると、俺の研ぎ澄まされた精神に反応するものが現れる。



 来たか… 人数は…5人、仲間を呼んで来たようだな…さて…



 俺はムクリと起き上がり、ロフトをおり始める。



「あれ? イチロー兄さま、どうしたんですか?」



 今夜も徹夜体制でゲームをしていたカローラが尋ねてくる。



「ん? ちょっと、コンビニでも行こうとおもってな」



 すると、聖剣が振り返って反応する。



「…私も付いて行った方がいい?」


「いや…大丈夫だよ…」


「そう…」


 聖剣は俺の言葉に素っ気なく答えるとパソコンに向きなおってカチャカチャとキーボードを叩き始める。


 俺は玄関で靴を履き、部屋の外に出ると、先ずはここの駐車場に出る。そして、街灯の下に立ち、わざとらしく背伸びをして、声を上げる。



「うーん! 眠れないから、ちょっと河川敷の方にでも散歩するか…」



 そして、道を近くの河川敷に向けてゆっくりと歩き始める。勿論、神経を張り巡らせて、俺に敵意を向ける5人が後に付いてきている事を確認する。



(よしよし… ちゃんと付いて来いよ…)



 相手にしてみても市街地のど真ん中で襲撃をするよりも、人気の無い河川敷でした方が何かと都合が良いだろう。後、俺とカローラに向かうやり方で二手に別れなかったのも僥倖だ。二手に分かれていたら面倒な事になっていたからな…


 俺は相手との距離を測りながら、とぼとぼ歩き河川敷へと到着する。そして、相手にとって都合の良さそうな橋の下へと歩いていく。すると俺を付けている連中が足を速め、俺との距離を詰めてくる。


 

(そろそろだな…)



「おい!!!」



 俺の後をつけて来た連中の一人が声を上げる。俺はその声に立ち止まりゆっくりと振り返る。すると、現代日本に戻って来た時に出くわしたDQN三人とそのお友達二人が加わって合わせて五人が俺を睨みつけていた。



「おぉ、あの時の三人か、お前たちがくれたものは色々と助かったぞ、でも、あの後すぐに警察が来たみたいだが大丈夫だったのか?」



 俺は軽口混じりにへらへらと尋ねる。



「うるせぇ!!! てめぇの所為で俺たちは笑いものになったんだぞ!!!」



 確か、コイツはタクって奴だったな…



「しかも、俺たちの金やスマホ、服まで奪いやがって…」



 コイツはゲンって呼ばれていた奴だな。

 


「俺の肩を外しやがった恨みは忘れてねぇぞ!! ただで済むと思うなっ!!」



 コイツは最後まで抵抗心を持っていた奴だな…名前はなんて言うんだろ?



「おい、こんな野郎なんてさっさと始末してしまおうぜ」


「そうだ、ガキだけど、結構いい女がいるんだろ? いつも見たく肉便器にして楽しんで、後は売りをさせたら金になるんだろ?」



 後の二人は直接会った事のない男だが、スマホの中に残されていたデータの中に最初の三人とつるんで、この現代日本でとんでもない事をしているのは分かっている…



「あぁ、コイツのズタボロになった写真を見せながら、飽きるまでハメてやろうぜ! 途中で裂けちまうかも知れないけどなっ!!」


「ハハハッ!」



 ギリッ!!



 俺は歯を鳴らす。あれから大人しくしているのであれば、適当な所でスマホを警察に渡して許してやろうと思っていたが、どうも全くこりて無い様だ…



「…お前ら、どうしようもないクズだな… まぁ、その方が遠慮しなくていいが… ほら、何してんだ? 掛かって来いよ」


 

 俺はDQNたちに手をちょいちょいと動かして手招きする。



「あ? お前、この前みたく、俺たちに勝てると思っての? 頭おかしいんじゃねぇのか?」



 DQN達は後の楽しみの事でへらへらとしていた表情を明確に殺意の表情に変えて俺を睨み、隠し持っていたデカい牛刀や鉈やバール、手斧とスタンガンを取り出し始める。分かっていた事だが、こいつらは俺をボコすつもりではなく、完全に殺すつもりで来ていたのだ。



「お前ら… 俺が金を巻き上げた時に言った言葉を完全に忘れているんだな… まぁ、お前らみたいな低能には人間の言葉の忠告が分からないし、覚える事は出来ないか… ほら、人間の俺がお前ら獣の猿に躾してやるって言ってんだから掛かって来いよ!」



 俺はDQN達に挑発の言葉を浴びせる。



「くそぉぉぉ!!! コイツ!!! 俺たちを舐めやがって!!!」



 新人DQNの一人が頭に血が上ってバールを振り上げて突っ込んでくる。俺はすかさず前に出て、そのDQNの踏み込んだ足の膝に前蹴りを喰らわせてやる。



 ガキュッ!



 鈍い音と共に、DQNの蹴られた膝が鶏の様にくの字に曲がり、悲鳴を上げて前のめりで地面に転がる。



「ぐぁぁぁぁぁぁ!!! 足がぁぁぁぁ!!! 足がぁぁぁぁ!!!」



DQNが膝を抱えて地面を転がる。



「お前、器用だな、膝が鶏みたいに曲がってんぞ」



「ヒデ!!! 畜生!!!! 殺してやるぅぅぅ!!!」



 もう一人の新人DQNが鉈を振り上げて飛び掛かってくる。そんな素人の鉈に俺が当たる訳もなく、すっと横に躱して、拳を猫の手の様に握り締め、カウンターで喉元に突き出してやる。



 ぱきゅっ!



 気管支が潰れる感触が手に伝わってくる。



「カハッ!」



 喉を潰されたDQNは泡を吹いて、そのまま崩れるように倒れ込む。



「おい、この前と全く同じかよ、これだから低能は…成長しねぇなぁ~」



 二人のDQNを始末した俺は、最初の三人のDQNに目を向ける。



「おい! ユウセイ…」


「分かってる… 奴には一対一じゃ無理だ… 取り囲むぞっ!!」



 残る三人のDQNは互いに目配せをすると、足をじりじりと動かして、俺を取り囲み始める。



「三人いれば… 勝てると思ってんのか?」



 俺は薄ら笑みを浮かべてDQNを挑発する。



「なにっ!」


「やっちまえっ!!」


 

 小物のようなセリフを吐きながらDQN三人が一斉に襲い掛かってくる。


 俺は、くるりと身を翻して手斧を振りかざすDQNの横に回りこむ。



 ガシュッ!!



「ユ…ユウセイ… ド、ドウジデ…」


「おっ! 俺の所為じゃないっ!!」


 

 DQNのユウセイが振り下ろした手斧は、俺が躱した事により、後ろから迫ってきたスタンガンを持ったDQNの頭部に命中して、その頭をかち割る。



「ゲン!!! 畜生ぉぉぉぉ!!!」



 もう一人の牛刀を持ったDQNが突っ込んでくるが、俺はすぐさま頭をかち割られたDQNの身体を引きその身を盾にする。



「てめぇ!! ゲンを盾にぃ!! 卑怯だぞっ!!!」


「お前がいうな」



 頭をかち割られた仲間を盾にされたことでたじろぐ牛刀DQNに、俺は盾にしたDQNの手を掴んでスタンガンを前に付きだす。



「ぐはっ!!」


 

 牛刀を持ったDQNはスタンガンを浴びて、牛刀を握り締めたまま、俺に膝を折られたDQNの上に倒れていく。



「ちょ! 待て!」



 地面に倒れていた膝を折られたDQNは声を上げるが、牛刀のDQNはそのまま倒れていき、その牛刀がDQNの首筋に突き刺さる。



 かひゅ…


 

 牛刀が突き刺さった首筋から空気が漏れる。



「タクゥ!! ヒデ!!! ちくしょうぉぉぉ!!! ゆるさんっ!!! ゆるさんぞぉぉ!!!」



 手斧を引き抜いたDQNは、自分が招いた結果であることを忘れて、俺に怒りの声を上げ降りかかってくる。



「許されんのはお前だろ」



 俺はそんなDQNの足元を救ってやると、盛大に前のめりに倒れ込み、手に持っていた手斧がスタンガンで痺れていたDQNの首筋にざっくりと刺さる。



 ガシュッ!!



 俺はすかさず倒れ込んだDQNの背中に馬乗りになり、その両手を鶏の手羽先でももぐように背中に思いっきり捻る。



「がぁぁぁぁ!!!」


 パキュッ!パキュッ!



 DQNの両肩が外れてダラリと垂れる。



「てめぇ!! 俺にこんなことをして許されると思ってんのかよっ!!!」


 

 両肩を外されたDQNはまだ威勢よく叫ぶ。



「お前こそ許されると思ってんのかよ、俺の女に手を出そうとしやがって…」



 俺はDQNの手を取ると、その指を割りばしでも折るかのようにパキパキと折っていく。



「がぁぁぁぁぁ!!! てめぇ!!! 許さねぇ… 許さねぇぞ… 俺は上級国民なんだぞ!!!」


「知らねぇよ、この日本にそんなもんあるはずないだろうが」



 俺は冷静に淡々と答える。



「へっ! 聞いて驚くなっ! 俺の親父は政治家なんだ! そしてタクの親父は弁護士、ゲンの親父はテレビ局のお偉いさんだ!」


「なるほど…それでスマホの中にあったデータの様な事をしても全て握りつぶしてきたわけか」


 俺はもう片方の手の指を折り始める。



「ぐぎゃぁぁぁぁぁ!!! やめろっ!! やめろっていってんだろっ! 分かんねぇのかよっ! 俺に歯向かったら死刑にしてやんぞっ!!」


「死刑にするって、どうやってやるんだよ、おら、言ってみろ」


「お、俺の親父や、タク、ゲンの親父に頼んで、お前を死刑にするっていってんだろ!!!」


 DQNはしぶとく叫ぶ。


「そのタクとゲンとやらをお前が手斧でぶっ殺したんだろ?」


「俺がお前が殺したと証言すれば大丈夫だっ!」


「ふーん… お前、まだ自分が生き残れるって思ってんだ…」


「おまっ! 俺を殺す気かっ!? 俺の親父は政治家だっていってんだろっ! 殺されていいはずがない!!」


 DQNがまだ叫ぶ。


「だから、その親父はいまどこにいるんだよ? あ? それと俺は前にも言ったよな…?」


 DQNの顔がようやく青くなり始める。


「カツアゲしていいのは、カツアゲされる覚悟のある奴だけだと…わかんないか?」


 俺は無慈悲な目でDQNを見下ろす。


「だから、殺していいのは殺される覚悟のある奴だけって…」


 俺の冷淡な表情の言葉に、DQNは恐怖で表情を歪ませた。



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