第474話 晩餐

「ただいま~」


 俺は玄関を潜って只今と言う。


「あっ、イチロー兄さま、お帰りなさい」


「イチロー! 帰ったのねっ! 凄い情報があるのよ!!」


 部屋の奥から二人の声が響く。


「ん? 凄い情報? どんな情報があったんだ?」


「亀岡方面で魔法を使う人の姿の動画が取られたらしいのよっ!」


 部屋の中に入ると聖剣が興奮した声を上げてくる。


「えっ!? マジか!?」


「えぇ、本当よ! SNSでも騒がれているわっ! 見てよ! イチロー!」


 そう言ってパソコン画面を見せてくる。


「どれどれ…」


 聖剣に差し出された画面を見てみると山の頂上で光が待っているのが映っている。しかし、人の姿は木の陰に隠れて見えない…


「マジだ… これ魔法だよな… しかし…ここ、何処かで見たことがあるな… 場所はどこなんだ?」


「亀岡市内の中央、頼政塚って所らしいわよ! 有益な情報でしょ!? これで主食の購入権を一つ貰えるのよねっ!!」


 聖剣がやけに積極的で興奮していたのはBL本の購入権を手に入れる為だったのか…

 しかし、場所が頼政塚って…もしかして…


「で、これはいつ撮影された動画なんだ?」


「今日の午後三時の物らしいわよ! 近くにある小学校の子供たちがUFOだって騒いだから、先生がスマホで撮影したらしいわっ!!」


 聖剣が息巻いて説明する。


「すまん…これ、俺だわ…」


「は?」


「いや、俺が頼政塚に上がって魔法を使っていた時の動画なんだよ…」


 俺は申し訳そうに頭を掻きながら答える。


「えっ!? 一体どういう事なんですか? イチロー兄さま」


「いや… 亀岡でもう一度魔法を使ったら、以前ソナーを打ってきた奴が反応してこないかなって思って使ってみたんだよ… 周りに人気はなかったから大丈夫だと思っていたんだけど… まさか下から撮影されているとは…」


 こんな風にスマホで撮影されていたという事は、あの時感じた望遠魔法での視線は勘違いだったのであろうか… いや、普通に眺める感覚ではなかった… 何か独特な感じがあったのは確かだ…


「えっ? えっ? ちょっと…それってどういうことなの!? もしかして、イチローだったから、私の主食の購入権は貰えないって言い出すんじゃないでしょうね!」


 聖剣は断ったら今にも切りかかってきそうな、勢いで問い詰めてくる。


「わかった! わかった! ちゃんと購入権1冊分やるから落ち着けよ! とりあえず、夕食の準備をするからその後で良いだろ?」


「ちゃんと貰えるのならそれでいいわ♪」


 そう言って聖剣はご機嫌になってレスバを始める。ホント…自分にフリーダムに生きてんな…


「じゃあ、夕食の準備してくるから」


「わーい! 楽しみにしていますっ!」


 カローラが子供っぽく無邪気に答える。


 てな訳で、俺はキッチンに向かい、冷蔵庫から材料を取り出して夕食の準備に取り抱える。


 先ず、鶏もも肉を適当な大きさに切って、ビニール袋に入れ、ニンニク、生姜、酒にみりん、醤油を入れて揉んでおき暫く放置する。

 次にお湯を沸かして卵を放り込み茹で卵を作る。その後はささみを一個一個丁寧に切り開き、そこへ短冊状に切ったチーズを挟んで爪楊枝で縫うように封をする。

 そのささみを小麦粉、溶き卵、パン粉の順に付けていき、フライの準備をしていく。

 ゆで卵が出来たら、水に晒して粗熱をとり、鍋に油を入れて温めておく。油を温めている間に玉ねぎをみじん切りにして水に晒して手でぎゅっと絞ったあと、玉ねぎ、手でつぶした茹で卵、マヨネーズを少々のレモン汁とドライパセリを塩少々を加えてタルタルソースの出来上がりだ。

 タルタルソースが出来た所で、油が温まっているので、ささみチーズフライを油に投入していく。



 ジョワァ~ プチプチプチ!



 揚げ物の音が響き渡る。その音に轢かれてカローラが物欲しそうな顔でチラリと覗きに来る。



「揚げ物ですか?」


「あぁ、唐揚げとささみチーズフライだ。油使って危ないから、カローラは部屋で待ってろ」


「分かりましたっ!」


 

 カローラは嬉しそうな顔をして部屋の中に戻っていき、俺は付け込んでおいた鶏もも肉を新しいビニール袋に入れて唐揚げ粉を注いでカサカサと袋を振って鶏もも肉に唐揚げ粉をまぶしていく。



「よし揚がったな」



 最初に入れたささみチーズフライが揚がったので取り出し、次は鶏もも肉を油の中に投入していく。そして唐揚げが上がるまでの間に爪楊枝を取り除き、キャベツの千切りを刻んで水にさらしておく。


 そして、唐揚げが揚がりそうな頃合いに千切りの水を切って皿に盛り、ささみチーズフライ、そして揚がったばかりの唐揚げを乗せる。



「よし!! 揚げ物満腹セットの完成だ!!」



 俺は皿とタルタルソースを持って部屋の中に入る。すると、カローラが餌を前にマテをさせられている犬のような顔をして待っていた。



「おぉぉ!! いい色にいい香り!! 最高ですねっ!!」


「イチロー、貴方、そんななりして料理は上手よね…」


「さぁ! 食うぞ!!!」


 俺は皿とタルタルソースをテーブルの上に置くと、俺とカローラのご飯をよそい始める。ちなみに、聖剣は早速俺の頭に触手をくっ付けて感覚を共有している。


「では、いただきますっ!」


「「いただきます!」」


 俺は早速唐揚げに箸を伸ばし、がぶりと一口かじる。すると、表面のカリっと揚がった食感の後、中からジュワ!っと鶏の肉汁と油が口内に流れ出し、鶏の旨味が口内に広がる。



「うまぁ~っ!!! 我ながら美味くできてるな! やはり目清の唐揚げ粉は美味い!!!」


「ん! おいひぃ!! ホント、イチロー兄さまの作る食事はご飯が進みますよねっ! こう口の中に味が残っているうちにご飯をかきこまないとって思っちゃいますっ!」



 そう言ってカローラがご飯と唐揚げをもりもりと食べる。



「お次はささみチーズフライにたっぷりとタルタルソースを掛けて… 一気にがぶりと…

 うまぁっ!! 誰が最初に思いついたのか知らないけど、さっぱりとしたささみにこってりとしたチーズ、そこへコクたっぷりのタルタルソースって最高だなっ!!」


「うおォン! なんてことですか! 食べ始めているというのに、さらに腹がへっていくかのようですよっ!」


 カローラもガツガツとささみチーズフライをタルタルソースで頬張る。


 その後も俺たちは夕食をガツガツと食べ続けて、ご飯もお代わりし、気がつけば、おかずもお櫃のご飯も完食していた。


「ふぅ…御馳走様でした」


「御馳走様」


 完食した俺たちは食後の余韻に浸る。


「そう言えば、イチロー兄さま」


「なんだ? カローラ」


 ソファーに身体を預けていた俺は顔だけカローラに向ける。


「動画で魔法を使う姿が写っていましたけど、反応はどうだったんですか?」


「あぁ、またソナーを打って確かめるような事はしてこなかったんだけど、どうやら隠れて望遠魔法を使い、俺の姿だけは確認していたようだったな…」


 するとカローラが少し眉を顰めて考えてから口を開く。


「それって、向こうが自分の存在をアピールしてこなかったという事ですか?」


「…そうなるな…」


 俺はカローラから目を逸らして答える。


「という事は…ソナーを使ったのは、私たちを探しに来た仲間じゃないって事になるのでは…」


「…その可能性もあるが…今は可能性だ… まだどうなのかは分からない…」


 俺は独り言を呟くように答えた。


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