第464話 調査報告

「ただいま~」


 俺は買い物袋を下げながら家の中に入る。


「あら、イチロー遅かったじゃない」


「イチロー兄さま、お帰りなさいっ!」


 すぐに二人の返事が返ってくる。


「あぁ、ちょっと手間取ってな… 時間が掛かったんだよ」


 時間は日が暮れて午後の六時。聖剣は兎も角、カローラは腹を空かせていただろうな。俺は一先ず買い物袋をキッチンに置くと、戸棚からホットプレートを取り出し、焼き肉プレートから鍋プレートに換えて今へ運ぶ。


 すると、いつも通り聖剣はSちゃんでレスバ、カローラはゲームしながらパソコンで攻略WIKIを開いている。こいつら、ホントにフリーダムだな…


「あっ、今日も焼肉ですか? ご飯は炊いておきましたよ」


 カローラは俺がホットプレートを持っているのを見て声を掛けてくる。炊飯器を見てみると、確かに炊飯されているようだ。


「ご飯炊いといてくれたのか、ありがとな、でも、食い終わったカップ麺とペットボトルのゴミはちゃんと捨てておけよ」


 昼に食べたであろうカップ麺の容器とゲームをしながら飲んだペットボトルの容器がそのままである。いつもはメイド達が全てやってくれるからな…カローラをこのままにしておいたら汚部屋女子になりそうだ。


「すみません、今片づけようと思っていたんです…」


「何が今だよ… 昼に食ったんだろ? 今午後の6時だぞ」


 カローラがゴミを片づけたテーブルの上にホットプレートを置くと、俺は鍋の中にとぽとぽと豆乳を注ぎ、シャンタン・白みそをパパっと入れる。


「あれ? 今日はミルクシチューですか?」


「いや、鍋料理だよ、今日は遅くなったから、作りながら食べられる鍋にしたんだよ」


 俺は鍋に蓋をするとキッチンに戻り、野菜を切り始める。白菜の根元は火が通りやすいように削ぎ切り、葉の部分はざく切り、その他にらと水菜もざく切りにしておく。しめじとえのきは適当にばらしておく。


 メイン具材の一つの鶏もも肉はさっと湯通しをして霜降りにして、牡蠣は小麦粉をまぶして水洗いをして臭みと汚れをとる。豚肉はそのままでいいだろう。


 後はちくわと油揚げを適当にカットして、焼肉プレートをトレイ代わりに具材を乗せて今に向かう。


「うわぁ! 具だくさんですね!」


「おう、カローラ、蓋を開けてくれ」


 カローラに鍋の蓋を開けてもらうと、俺は鶏肉や白菜の根本、ちくわ、キノコ類を鍋に放り込んでいく。


「あれ? 一度に全部いれないんですか?」


「具材それぞれが火の通りが違うから、順番があるんだよ、早く入れてしまうと、縮んだりへなへなになる食材もあるからな、カローラ、もういいぞ蓋を閉めてくれ」


「へぇ~ そうなんですね」


 そう答えながらカローラが蓋を閉める。


「イチロー、それで今日の成果はどうだったの? 時間が掛かったようだけど」


 一段落着いたところで聖剣が今日の成果を尋ねてくる。


「あぁ、今日遅くなったのは、事件現場に遺族がいたからな… それで話をしてたから時間が掛かったんだよ」


「なんの話をしてたの?」


「なんか思い詰めてて自殺するとか言ってたから、説得して引き留めていたんだよ…で、説得には成功したんだけど、その後すぐに事故現場の検証って訳にはいかないだろ? だから、遺族が立ち去るのを待っていたんだよ」


 神社でご婦人を説得した後、俺はカッコつけて颯爽と立ち去ったんだけど、事故現場を調べるって目的があるから、引き返して陰に隠れてご婦人が立ち去るのを見ていたんだよな…

 端から見たらカッコ悪いけど、こればっかしは仕方が無い。


「イチローにしては気を使ったのね、それで調べて見て何か分かったの?」


「うーん… 事故発生から半年たっていたからな… 反応は小さかったけど、痕跡はあった」


「痕跡ってどんな?」


 聖剣が手を止めてこちらを見る。


「うーん、どんな痕跡かって言うのが難しいんだけど… 普段よく使うような魔法の痕跡とは違ったな… でも、なんか一度経験があるような感じだったんだけど… なんだろ…」


 熱い寒いとか濡れるとか乾いているとか言った感じの感覚なら言語化しやすいのだけど、魔法の痕跡となるとかなり言語化しづらい。例えていうなれば、あまり嗅いだことの無い匂いについて言語化したり人に伝えたりする感覚に近い。


 だから、今回の件も記憶を遡って、その時体験した感覚と照らし合わせなくてはならないのだが、それがなんとも難しい… でも、比較的最近だった気が…


「あっ!」


 思い当たった俺は声をあげる。


「わかったの?」


「あぁ、収納魔法の収納空間を作る時の感覚に似ていたんだ!」


 ディートの部屋で収納空間を作る時のあの感覚… シュリと魔力量比べてそちらに集中していたが、あの時の感覚に近いことに気が付く。


「なるほど…イチロー達がよく使っている収納魔法ね… でも、そもそも世界を渡り歩いたのだから、空間を操作する魔法の痕跡があるのは当然じゃないの?」


 聖剣が当たり前の事に気が付いた事を指摘する。


「…確かにそうだよな… 焚火をした後に炭の痕跡がでるのと同じだよな… まぁ、魔法的な物で空間移動したという事は確定しただけの事だな… 後、分かった事は…おっとそろそろ次の具材を入れるころ合いだな、カローラ、蓋を開けてくれ」


「はい、イチロー兄さま」


 聖剣と同じように話を聞いていたカローラは、ハッとして鍋の蓋を開け、俺は豚肉や牡蠣、油揚げを入れていく。


「で、何が分かったの?」


「カローラ、蓋閉めていいぞ、記事では10人行方不明とあったんだが、実際にあった痕跡は九つだったんだ。数が合わないから変だなって思って…」


「その事ね、私もその事件について調べたのだけど、被害者の一人の女子大生が助けられて病院に運び込まれたそうなんだけど、病院の集中治療室で行方不明になったそうよ」


 そう言って、聖剣がパソコンの画面をこちらに向けて当該記事を見せる。


「なるほど…それで事故現場の反応が九つだったのか… うーん、流石に病院の集中治療室には忍び込めんよな… 転移から日が短い方がもっと痕跡を詳細に調べられると思うんだがな…」


「そうなると、もっと最近起きた事件を調べる方が、手がかりがつかめる訳ですね?」


 カローラが尋ねてくる。


「そうだな、間を置かない方が痕跡からどんな魔法を使ったのか解析できるな。カローラ、もう一度蓋を開けてくれ、最後の具材を放り込むぞ」


 最後に白菜やにら、水菜等と言った葉野菜を鍋の中に放り込む。完成までもう少しだ。



「ということは、得られた情報はそれだけなの? 今後は最新の事故や事件の情報に目を見張ってないとダメね…」


 聖剣はそう言ってパソコンに向き直る。


「いや、あともう一つ、直接帰還方法に関わるものじゃなけど、とんでもない情報があるんだよ…」


「どんな情報なの?」


 聖剣は手を止めて俺を見る。


「…誰かが俺に…探知魔法…ソナーを使ったんだよ…」


 鍋のぐつぐつと煮える音が響いた。


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