第465話 魔法を使った者

「はぁ~ 食った食った~ 久々の鍋は美味いな~」


 俺は満足してパンパンになった腹を擦る。


「コクがある割には、くどくなく後に引かなくていくらでも入りましたよ」


 隣のカローラも満足そうに腹を擦る。


「だろ? 昆布と醤油ベースにポン酢で食うのもいいけど、豆乳に白みそ、それにシャンタンを加えて、鶏、豚から出る出汁が最高なんだよ!」


「なるほど、それで最後のポリッジがあんなに美味しかったのですね~ あんなに美味しいの初めて食べましたよ~」


「あれはポリッジじゃなくておじやって言うんだよ、最後の刻みのりがいい仕事してただろ?」


 そんな感じに俺とカローラが食後の余韻に浸っていると、聖剣がけたたましくキーボードを叩く音が響いてくる。なんとなくイライラしているようだ。


 カチャカチャカチャ!!


「おい…聖剣…何イライラしてんだよ… もしかしてレスバで論破でもされたのか?」


 タンッ!!


 聖剣は激しくキーボードを叩いた後、こちらに向き直る。


「違うわよ!! 私が真実の愛について論破されるわけがないでしょっ!!」


 声を荒げた返答が返ってくる。


「じゃあ…何をそんなにイライラしてんだよ… こっちはいい感じに食後の余韻に浸っているのに…」


「それよ!!」


 更に声を荒げる。


「なにがだよ?」


「確かに私は睡眠も食事もいらない身体だけど、傍で何回も何回もこれ見よがしに食事をされたら溜まったものじゃないわよっ!」


 なるほど、俺たちが美味そうに飯を食ってるからイライラしていたのか…


「じゃあ、お前の分も作ればいいのかよ?」


「いらないわよ!! 食欲がないだけじゃなくて、そもそも食べられないんだから!!」


 じゃあイライラして文句言うなよと言いたくなったが、売り言葉に買い言葉になりそうなので、ぐっと我慢する。


「それよりも、食事で中断されたけど、探知魔法の件はどうだったのよ? 魔法を使った人物は発見できたの?」


 聖剣の方も流石に自分の言動が理不尽なものだと気が付いたのか、話題を変えてくる。


「いや、それが誰がどこから使ったのか全く分からなかったんだよ…」


 俺はポリポリと頭を掻きながら答える。


「誰がどこから使ったのかわからない?」


「えっ? こんなマナが殆ど無くて魔法を使う者など全くいない世界なのに分からなかったんですか?」


 隣のカローラもどうしてそんな簡単な事が分からなかったのかを聞いてくる。


「いや…それにはちょっと訳があってだな… 聖剣、ちょっとゲーゲルマップを開いてくれるか?」


 こちらのテーブルの上はまだ片づけをしておらず、パソコンを取り出せないので聖剣に頼む。


「ちょっと待ちなさい…場所は貴方が調べに行った事故現場でいいのよね?」


「あぁ、そこで頼む」


 聖剣がカタカタと住所を入力して、画面をこちらに見せる。


「ここでいい?」


「あぁ、大丈夫だ。そこのファミレスを調べに行って、遺族の人にあって、その近くの神社で話をしたんだ」


 そう言って俺は画面を指差す。


「神社…ここね」


「そうだ、そこで遺族の自殺の説得をしてたんだよ」


「遺族の自殺の説得って、何を話ししたんですか?」


 カローラが尋ねてくる。


「その遺族の方は被害者の女子高生の母親だったんだけど、死んでその娘に死後の世界で会うとか言ってたんだよ、でも状況から察するにその娘は転生していると思われるから、自殺しても会えないって伝えてやったんだよ」


「でも、そんなこと、急に言われて信じたんですか?」


「いや、信じられないから、俺も同じような状況で異世界に飛ばされたって説明したんだよ。勿論、そんな話も信じてもらえないから、魔法を使って見せたんだよ」


 そう言ってその時使った照明魔法を使って見せる。


「ここに来てから用心深いのに、かなり思い切った事をしましたね…」


「まぁ、人の命が掛かっているし、その遺族も口が固そうだったからな」


「なるほど、その魔法を使ったから探知魔法を使われたのね…」


 聖剣が口を開く。


「あぁ、そうだと思う…で、その方角が…」


 俺は画面のゲーゲルマップの上を指でなぞる。


「…市街地ではなくて… 山ね…」


「あぁ、山だ。写真レイヤーにしてもらえればもっと分かり易いけど、人がいるようには見えないだろ?」


「そうね、普段から山に隠れ住んでいる者でなければ、人のいる市街地から使われたと考えるのが普通だわね…」


 聖剣はそう言ってマウススクロールをクリクリと動かし、画面を詳細地図から広域地図にしていく。


「その方角から山を越えて次の市街地となると…私、距離感は無い方だけど…これって結構距離があるんじゃないの?」


「あぁ、そうだろ? カローラもこの距離で探知魔法を使うとなるとどれぐらい大変だと思う?」


 俺は同じように魔法が使えるカローラに尋ねてみる。


「いや、私もこの世界の地図の読み方なんて分からないんですけど…この距離って具体的はどれぐらいの距離なんですか?」


「うーん、そうだな…カローラの知っている所で言うと…カローラ城からいつも行っているユズビスの街ぐらいの距離かな?」 


「えっ!? そんなに距離があるんですか? そんなに距離があるんだったら、探知魔法でもかなりの魔力を使いますよっ!」


 距離を実感できたカローラは驚いて目を丸くする。


「だろ? 俺も探知魔法を受けた側だからな、すぐ近くではないのは分かったけど、距離が距離だから探しに行けなかったんだよ…」


「確かにそんな距離があるなら探しに行けませんよね…」


「後、なにか疑問に思わないか? カローラ」


 俺はカローラを見る。


「疑問って何がです?」


 カローラは気抜けした顔で俺を見返す。


「探知魔法でもこの距離だとすげー魔力が必要なんだろ?」


「ですね、後精度もかなりなものですよ」


「うん、それもある…でもな、このマナのほとんど無くて魔力の回復が殆ど出来ないこの現代日本で… そんな無駄遣いができると思うか?」


「あっ!」


 俺の言葉でカローラはようやく今回の特異性に気が付く。


「分かっただろ? 魔法を使うものが全くいないこの現代日本で、俺の位置を特定するだけにスゲー精度の探知魔法を回復の見込みがないのにスゲー魔力を使って探ってくる存在…

 ちょっと捨て置けんよな…」


「もしかして…私たちの知り合いの誰かが探しに来ているんでしょうか?」


 カローラは少し興奮気味に声を上げる。


「確証は出来ないが、その可能性は高いな… 今後はそちら方面で調査をしていくか…」


「という事は、ここの街になるのかしら?」


 聖剣が画面の上の都市名をカーソルでなぞる。


「あぁ、亀岡市あたりで調査をしていく…」


 俺はそう答えた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る