第460話 Sちゃんねるで下調べ
言うは易く行うは難し…俺は今、その言葉の意味を実感している。
二人の前で、本来遺体が出るはずの事件で被害者が行方不明になっている事件を調べれば、手掛かりを見つける事が出来るかも知れないと告げたが、実際に調べて見ると事件そのものを探す事が難しい…
行方不明と検索しても失踪者の事ばかりで、その他の検索ワードを付けて検索しても、ヒットする情報は日本国内だけのものに限らず、海外の情報まで出てくる。
流石に海外まで調べに行くのは難しいな… 治安の悪い地域だと別の意味で行方不明になってしまいそうだ…
俺が異世界であった転生者の情報から調べていくという手段もあるが、これも中々難しい… 例えばハルヒさんの名前を調べようとしても、その漢字を聞くのを忘れていたので、調べる事は出来ないし、特別勇者のマサムネを調べようにも、本人の話では自衛隊で海外に派遣中の事故死だから調べに行くことが出来ない。他の連中もハルヒさんと同じで漢字を知らないので調べようがない。
名前の漢字まで分かるのは山田太郎と良く話していたぼっさんこと母田参次さんであるが、ぼっさんはネットが普及する前の話だからネットでは調べられないし、山田太郎の方については本家のドカベンの情報しか出てこない…
後はノブツナ爺さんだが…500年ほど前の話になるからな… とりあえず、墓でも参っておくか? 向こうに戻った時に、爺さんの墓に参ってきたぞと言ったら、面白い反応が見れそうだ…
手詰まり感を覚えた俺は、一度気持ちをリセットする為にコーヒーを入れようと立ち上がる。
「あら? イチロー、あまり芳しくない顔をしているわね… 情報が見つからないの?」
「あぁ…ネットで膨大な情報を調べる事が出来るが、逆に膨大過ぎて調べたい情報が埋もれて見つけ出せない所があるからな… ってか、お前、今度はSちゃんを見ているのか?」
聖剣のPC画面をチラリと見ると、俺が生前良く入り浸っていたSちゃんの画面が開かれていた。
「えぇ、初めはまとめサイトを見ていたのだけれど、参照元で見る方が、現在進行形の話題に触れる事ができるから」
聖剣の画面を更に見てみるとトリップ付きのコテハンで書き込みをしている…
「お前…トリップ付きのコテハンなんて…はまり込んでいるな…」
「えぇ…ここはとても居心地が良いわ… まるで安住の地を見つけた気分よ…」
「おまっ… 安住の地を見つけたって…」
その時、俺の脳裏にある事が閃く。
「ゲーゲルの検索では調べにくかったけど… Sちゃんの過去ログ検索なら…」
「なに? どういう事?」
「あぁ、ゲーゲル検索は、最近の話題や、引用されているページ程、優先的に検索結果の上に上がってくる仕組みだから、俺の必要とする情報が埋もれてしまっている状態なんだけど、Sちゃんの過去の情報をまとめたログを調べたら、欲しい情報が見つかるんじゃないかと思って…」
「なるほど、そんな機能があるのね、では、まとめサイトで見た話しも最後の結末まで調べられるかしら…」
聖剣は聖剣で見たい情報がある様だ、俺はコーヒーの事など忘れて再びパソコンの前に座り、Sちゃんの過去ログを調べて見る。
「当たりだ!! 俺の欲しい情報が出て来たぞ!」
「私もまとめサイトに記載されている以外のレスを見る事ができたわ!! なるほど… みんなそんな話をしていたのね…」
俺と聖剣が喜びの声を上げてSちゃんのスレを見始める。
「私も攻略情報を調べている時にSちゃんに辿り着く事がありますね… いつでも誰かいて、すぐに質問を代えてしてくれる人がいるので便利です」
「…カローラもSちゃんを使っているのかよ… この部屋の三人揃ってSちゃんのスレ見てるってどんな状況だよ…」
他の人が見たら、Sちゃんの工作員部屋に見えるだろうな…
そんな事を考えながらも、俺は失踪や誘拐などを除く、本来遺体が残るはずの事件について行方不明者が出ていないか調べ上げていく。
「Sちゃんでも思った以上に出てこないな… まぁ、何か事件が起こるたびに猫も杓子も異世界転生している訳じゃないからな… そんな事があったら、異世界が日本人だらけになるわな…」
そんなにゴロゴロ出てくる訳でも無いが、それでもちらほらと遺体が残っていてもおかしくないのに行方不明者が出ている事件が幾つか見つかる。
「えぇっと… 若者四人を乗せた乗用車が、信号待ちの列を追い越そうと、反対車線に飛び出し、交差点に進入していたタンクローリーが回避しようとしたが側面に衝突し、そのまま近くにあったファミリーレストランに突入。そして積載していたガソリンに引火して爆発炎上… この事件で、乗用車に乗っていた四人の若者、タンクローリーの運転手、そして、ファミリーレストランに来ていた客と従業員5人が巻き込まれる。激しい延焼の為、被害者の遺体は未だ見つからずに捜索中…」
俺はそんな事件を見つけた。事件発生は半年前で場所は…京都…
その後の事件の記事を調べて見たが、被害者の遺体が発見されたとの情報はなく、行方不明か、ガソリンの炎上の為、遺体が燃え切ったと記されている。
俺の場合とよく似た状況である。火事で10人の遺体が見つからないのは流石におかしいし、場所も京都なので、調べに行きやすい距離である。
「とりあえず、この事件の場所を調べて見るか…」
とりあえず、見通しのついた俺は、画面から顔を離して、ソファーに体を預けて伸びをする。
「イチロー兄さま」
すると隣でゲームをしていたカローラが声を掛けてくる。
「なんだ? カローラ」
「今日の夕食は何にしますか?」
俺はカローラに言われてパソコンの画面にある時間を見る。すると夕方の5時を回っていた。
「もうこんな時間なのかよ… 夕食の買出しにいかんとダメだな…」
「イチロー兄さま、お願いがあるんですが…私も買い物に付いて行ってもいいですか?」
カローラがそんな事を聞いてくる。
子供が本来学校に行っているはずの時間は、カローラを外に出したくなかったが、夕方の五時なら問題ないだろう。
「あぁ、構わないぞ」
「わーい♪ ありがとう~♪ 買い物! わたし、買い物大好き!」
カローラは定番の喜び方をする。
「そう言えば、買い物をするついでにカローラで試したい事があるんだよ」
「私で試したい事?」
カローラは首を傾げる。
「あぁ、以前、日焼け止めを塗って、太陽光をある程度防げただろ? それで別の日焼け止めならどうなんだろうかって思って」
「あぁ、以前の物は、熱いお風呂に入る様な感じで五分程なら、太陽光を我慢できる感じでしたね」
「ヴァンパイアが日光を浴びる感覚って熱湯基準なのかよ… まぁいいや、ちょっと待ってろ」
俺は先日の大阪に行った帰りにドラックストアで買った日焼け止めを収納魔法から取り出す。
「先ずは右手にはこっち… 左手にはこっちを塗ってみるか…」
俺はカローラの小っちゃい手それぞれに別々の日焼け止めを塗ってやる。
「じゃあ、カローラ、ちょっと遮光カーテンを捲って自分で感触を試してみろ」
「では、ちょっと試してきますね」
カローラはそう言うと、ちょこちょこと歩いて窓際に歩く。そして、腫れ物にでも障る様な感じでちょっぴりカーテンを捲って、それぞれの手を晒す。
「どうだ? カローラ」
「ん~ 左手の方はちょっとヒリヒリしますね… でも、右手の方は全然ヒリヒリしませんよっ! もしかして、これを全身に塗りまくれば、私、デイウォーカーになれるんじゃないですかっ!」
カローラは鼻息を荒くして少し興奮する。
「全身に塗るって…お前、全裸で外に出るつもりかよ… 保護者である俺が児ポ法で捕まるから止めてくれ… しかし、PAよりもSPFが高い方が効果があるのか… これを日に当たりそうな顔と手足にも塗っとけ」
俺はカローラが効果があると言ったほうの日焼け止めを投げて渡す。
「フフフ…これで私は完全無欠のデイウォーカーです… もはや、伝説のヴァンパイアになりましたよ…」
カローラはニヤニヤと薄気味悪い笑みを浮かべながら日焼け止めを塗り始める。
「カローラ、言っておくが、あまり日焼け止めを過信するなよ、手を洗ったりお風呂に入ったり、服に擦れても落ちると思うから、念のために日傘だけは常備しておけよ」
「えっ!? 永久に続くものではないんですか!? それは残念ですね… まぁ、一時的にもデイウォーカーになれるんですから良しとしますか…」
カローラは残念そうに項垂れる。
「それじゃあ、ちょっと買い物に出かけるか!」
俺とカローラは近くのスーパーに買い物に出かけたのであった。
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