第459話 手掛かり
「あぁ…食った食った…」
「私も満足しました~」
俺とカローラはソファーの上で、満腹になった腹を擦る。
「貴方たちは食事をとって満足しているけど、私の方はパソコンの電気が落ちちゃって、大変だったのよっ!」
そんな俺たちにおこな聖剣が文句を言ってくる。
「おう、すまんな、次に焼肉をする時には気を付けるから」
しかし、ノートパソコンなのに電気の使い過ぎによる停電で、電源が落ちるとは…おそらくバッテリーが死んでいるんだろう… なるほど、性能の割には値段が安かった訳だ…
「しかし、パソコン一台にテレビ、ホットプレートと炊飯器、その上で電気ケトルを使うと電気が落ちるとは… ここの物件はあんまりアンペア容量が高くないみたいだな… いや、同じ部屋で電気を使ったから落ちたのか?」
やはりデスクトップPCを買わなくて正解だったな… デスクトップだったら落ち捲っているだろうな…
「ところでイチロー兄さま、調べ物の方はどうだったんですか? 何か帰還に関する情報は手に入れられたのですか?」
隣のカローラが聞いてくる。
「それはだな…」
俺が答えかけた時に聖剣が割り込むように声を上げる。
「あっ! そう言えばイチロー!!」
「なんだよ?」
カローラから聖剣に向き直る。
「スカイペで頼んでいたものを準備してくれたの?」
「スカイペで頼んでいたもの? あぁ、ネットで買い物できるようにだったな…ちょっと待ってろ」
俺は財布からカードを取り出すと、ぺっと聖剣に投げて渡す。
「なにこれ?」
「プリペイド式のクレジットカードだよ、とりあえず五万程突っ込んでおいたけど、あまり無駄使いするなよ」
「あぁ、これがクレジットカードというものなのね、分かったわ、ありがとね」
聖剣は礼を言うと、すぐさまカード番号をパソコンに打ち込み始める。
…聖剣の奴…何かっているんだろう…まぁ、男には秘密にしたいと言っていたから詮索しないで置くか…
「イチロー兄さま…それって私も使えるんですか?」
となりのカローラが自分も使いたそうな顔で見てくる。
「あぁ、別に構わないけど… でも、カローラは親衛隊の奴らにジャングルギフトを貰っていただろ?」
「それはそうなんですけど…ジャングルギフトでは、こちらの課金が出来ないんですよ…」
そう言って、親衛隊から貰ったステッキを掲げて見せる。
「課金って…お前…もうそんな事まで覚えたのかよ… まぁいいよ…その代わり課金した分はジャングルギフトで日用品を買わせてもらうからな」
「分かりました… 背に腹…いや ジャングルギフトに課金は代えられませんからね…」
「…そんなんで上手く言ったようなドヤ顔をされてもな…」
ドヤ顔をするカローラにそう答える。
「ところで、話は戻りますけど、調査の方はどうだったんですか? 現状の事や帰還方法についてはなにか分かったんですか?」
カローラがまともな顔に戻って尋ねてくる。
「あぁ、そのことか、分かるかも知れなかったけど、分からなかった…って感じだな」
「具体的にはどういう事なんですか?」
カローラは首を傾げて尋ねる。
「ネットで異世界転生や異世界転移を調べてもまともな情報なんて出てこないから、唯一確実な事例である、俺が異世界転生する切っ掛けになった、この現代日本での俺の死んだと思われる場所を調べに行ったんだよ」
「この現代日本でイチロー兄さまが…死んだと思われる場所?」
俺の言葉にカローラは呆気にとられた顔をして、手を止めて俺の話に耳を傾けていた聖剣は、突然激しく、キーボードを叩き始める。
「イチロー… 今、ネットで調べたんだけど… 異世界転生って調べたら、一杯検索結果が出てきたんだど… ちゃんとネットにも情報があるじゃない」
「いやいや、それらは実体験のない空想で書いた創作物が殆どだから、実際に有益な情報は無いぞ」
ネットで異世界転生を調べた聖剣にそう返す。
「そうなの?」
「あぁ、普通、異世界転生なんて向こうに行ったきりになるんで、元の世界に情報なんて残るはずがないだろ? 死んだときの死後の世界と一緒だよ」
死後の事を例に挙げて説明する。すると隣に座っていたカローラが口を開く。
「分かりますけど? アンデットにして喋らせればいいだけですので」
「いや…カローラの場合は確かにそうだけど… 魂が成仏して天界にいっちゃったら流石に分からないだろ?」
「いえ、分かるけど?」
今度は聖剣が口を開く。
「えっ!?」
「まぁ、全員がって話ではないのだけれど、生前、偉大な功績を残した人間は神格化されて、死後も神として降臨してもらって話す事が出来るわよ。だから、死後の話も天界の話も聞けるわよ」
「済まん… 正直、異世界を舐めてたわ…」
俺は素直に過ちを認める。
「まぁ、イチロー兄さまの転生に関しては、ほぼ行ったきりで情報が無いという事はわかりましたから、それで、調査の結果はどうだったんですか?」
カローラが話を本筋に戻してくれる。
「あぁ、それで俺が死んだ場所に行ったんだけど、なんせ原因が火事だからな… 建物が取り壊されて無くなっていたんだよ…」
「なるほど、それで調査できなかった訳ですか…それで何も情報を得る事が出来なかったわけですね」
カローラはそう言ってコクリとコーラを飲む。
「いや、何も…って訳じゃないんだ…」
「何か手がかりを手に入れられたんですかっ!?」
俺もコクリとコーヒーを啜る。
「あぁ、現場まで足を運んで聞き取り調査をした結果、死んだの俺の遺体は発見されなかったんだよ… まぁ、火事だったんで、周りには骨まで残らず完全に焼かれたという事になっているらしいがな…」
「その情報にどういう意味があるんです?」
カローラは俺の話を要領を得ない感じでキョトンとする。
「人間の体って奴は、例えシュリの収束ブレスをモロに浴びたとしても、骨一つ残らない事なんて起こらない… それがもっと火力の低いマンションの火事なら尚更だ」
「という事は…」
手を止めていた聖剣が言葉を漏らす。
「あぁ、今回の俺たちみたいに、以前の俺は体ごと異世界に転移…いや、一回目の時は体が再構築されたから転生かな… まぁ、体ごと異世界に移動したんだよ」
「それがどう手掛かりになるんですか?」
カローラが再び尋ねてくる。
「本来なら遺体が残るはずの事件で…被害者が行方不明になっている事件を調べれば…その中に異世界転生した者がいるかも知れない… その現場を調べれば、異世界に移動する何らかの手掛かりが見つかるかもと考えている」
俺はそう答えた後、再びコーヒーを啜った。
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