第452話 大人買い
店内に入ったカローラは店内の様子をキョロキョロと見渡す。
「ドンキ・バールや先程のホーガンと似てますが、また微妙に違った感じの店ですね…」
「あぁ、こちらは中古品がメインの店だからな、家電系や家具はこっちで買った方がお得かなって思って」
特にパソコンなんかは新品で買う余裕がないので中古で買うしかないだろう…
「イチロー兄さま! イチロー兄さま! テレビもありますよ! テレビ!」
カローラが早速テレビを見付けて店内を駆け出していく。
「こらこら、店内を走るな!」
俺はカローラに注意しながら後を付いて行く。
「これ! これなんかいいですよ! 大きくて! これにしましょうよ!」
そう言ってカローラは展示されていた40型ぐらいの大きなテレビを指差す。
「いや…さすがにそんな大きさのテレビは高い…えっ!? なんだ!その金額は! 40型が19800円!? 2万円切ってんの!?」
俺は値段を見て驚く。中古でも10万はすると思っていたのに2万円を切っているとは…俺が異世界に行っている間に、テレビがこんなに安くなっているとは思いもしなかった。
「ねっ! イチロー兄さま、安いんでしょ? 買いましょうよっ!」
カローラがキラキラと瞳を輝かせながらワクワクして俺を見てくる。
「確かに安くて、これなら俺も欲しいけど… どうやって持って帰るんだよ… 流石に収納魔法に入れられる大きさじゃないぞ?」
収納魔法は手や足を使って身体で輪を作る事によって収納空間の入口になる。普段は腕を腰に当てて輪を作っているが、流石にその大きさではテレビを入れる事は出来ないだろう…手を足のつま先に触れる前屈ならワンチャンテレビを入れられる大きさになるが、カローラの腕力ではテレビをその中に入れるのは難しいだろう…
色々考えた俺は、もしかしてと思い店のカウンターへと向かう。
「すみません、ここって配送ってできますか?」
「配送はやってないんですよ」
ガーンだな…出鼻をくじかれた感じだ…
「でも軽トラックをお貸しすることはできますよ」
「マジで!?」
一瞬諦めかけた俺だが、軽トラックが借りられると聞いて目の色が変わる。
「一時間制限ですが、よろしいですか?」
「借りる借りる!」
俺はそう答えると、鼻息を荒くして先程のテレビを物欲しそうに見つめているカローラの所に戻る。
「カローラ! それ買うぞ!」
「本当ですかっ! イチロー兄さま!」
カローラの顔がぱっと開く。
「あぁ、運ぶ手段が見つかったからな、大きなものでもガンガン選んでいくぞ!」
軽トラックが借りられると分かった俺は、購入する物をどんどん選んでいく。先ずは縦置きの掃除機、次に電気ケトル。米を炊くための炊飯器。とりあえず何かに使えそうなホットプレート。そして調子に乗って家具のコーナーにあった二人掛けソファーとテーブル。こんな良いソファーが2万円で売っているのに見過ごせようか!いや見過ごせない(反語)
そして、俺のメインターゲットであるパソコンの置いてあるコーナーに向かう。
「やはり安いな… そりゃ3年経っているからな… 俺がメインで使っていたCPUもこんな値段になっているのか…」
そんな独り言を漏らしながらパソコンを眺めていく。流石にあの部屋でデスクトップを使うのは場所を取り過ぎると思って、ノートPCに手を伸ばそうとしたときに、聖剣が頭の中に話しかけてくる。
(ちょっと、イチロー、いいかしら?)
「なんだよ? 急に」
(貴方、ぱそこんとやらを買おうとしているのでしょ?)
「そうだけど…なんでお前がパソコンを…ってネカフェで見ていたのか…」
(そうよ、それでぱそこんを買うなら私…いや私たちの分も買いなさいよ)
パソコンを欲しがる聖剣に驚く。しかも自分だけではなく、カローラにも買えと言ってくる。
「えっ!? お前、何言ってんだよ! 使い方も知らないし、そもそも字が読めないだろ?」
(字が読めないのは確かだけど… 使い方なら貴方が使っている所を見て覚えているわよ)
「字を読めないのに何に使うつもりなんだよ…」
(字はおいおい学ぶとして、この世界の常識を知らなくてはならないでしょ… でも、その道具があれば図書館に足を運ばなくても調べる事が出来るのよね?)
「あぁ…そうだが…」
そう言えば、俺が手に入れた時も本を読み漁っていたな… こんな奴でも知識欲に飢えているんだな…
(私は兎も角、カローラをこの世界の知識や常識を知らないままにしておくのは危ないでしょ? でも、カローラ自身が熱心に自ら勉強するとは思えないから、先ずは私が学んで教えていくつもりなのよ)
「確かにそうだな… カローラに色々と教えてやらないとダメだな… かと言って、俺もこれから帰還の方法を色々と調査しなければならないし、付きっ切りって訳には行かないからな…」
確かに聖剣の言う通りであるのだが… 何か引っかかる…
「しかし、シュリやアソシエたちならまだしも、今まで全く接点の無かったカローラに対してやけに親切だな… なんか裏があるんじゃないだろうな?」
(そそそ! そんな訳ないでしょ! わ、私はただついでに知識欲が満たせるから買って出ただけよっ!)
聖剣が動揺を見せる。うーん…カローラを出汁にして自分の知識欲を満たせる道具が欲しいだけなのか…
「…分かったよ…お前たちの分も買ってやんよ…」
そう答えると、俺はノートPCを物色し始める。
「あれ? イチロー兄さま、三台も買うのでしたら、こちらのがお安いですよ?」
値段を読めるようになったカローラが、安いノートを指差す。
「そいつはダメだ! CPUがウランでメモリーが1Gじゃ、まともにネットも見れん、ゴミだゴミ!」
「へぇ~ 見た目は同じようでも中身の性能が違うんですね…」
そんな訳で、昔取った杵柄と言わんばかりにノートを検分していく。
「よし! イングラム5lの7300U メモリーは8G、中古でメモリーも売っているから買い足して16Gにすればサクサク動くだろう」
俺はお手頃価格のノートを三台選ぶ。転生前はAND信者だったのだが、ノートはイングラムばかりだから仕方がない。
(イチロー、部屋では私も外に出るつもりだから、私を納める台座も買っといてもらえるかしら)
おまけにそんな事を聖剣が言ってくる。
「いや、この世界にそんなもんあるわけ…いや、あるか…」
俺は家具の掘り出し物コーナーに向かうと、日本刀を飾る為の台座を見付ける。
「これでいいか?」
(私にずっと横たわっていろと? そんなの嫌よ)
我儘を言ってくる。
「じゃあコートハンガーぐらいしか無いけどあれでいいか?」
そう言ってコートハンガーを指差す。
(仕方が無いわね…あれでいいわ)
横になるのは嫌だけど、コート扱いされるのは大丈夫なようだ。
次に俺たちは併設されているブック・オフィサーへ向かう。カローラ達に字を覚えさせるための本を買うためだ。
「えぇっ!! なんですか!! これは!!」
「しっ! 大声出すなよカローラ!!」
「だって! 元の世界では、本一冊がかなり高額だったんですよっ! しかも、イチロー兄さまのような異世界人が来て、紙の量産と印刷技術を広める前には、それこそ、本一冊家一軒ほどの値段がついていたのに… ここでは子供の小遣い程度で本が買えるなんて… イチロー兄さま…もうここの本全部、買い占めちゃいませんか?」
頭の中で聖剣も同意する。
「何バカな事を言ってんだよ… あの部屋のどこにこれだけの本を置けるんだよ… それに知識を得たいのならパソコン使ってネットで調べられるだろ?」
「確かにそうですね… それなら大きな家を買っちゃいませんか?」
「いや、そんな金はねぇよ… 兎に角今日はカローラが字を覚えるための本を買うだけだ」
そう言って、数多くの本に目移りするカローラの手を引いて参考書のコーナーに向かう。
「とりあえず、幼児用の字の絵本と、小学校1年から6年生までの漢字の練習帳があればいいかな? 一応、アルファベットを覚えるのも買っておくか」
「なんですか?これ… 結構中身がスカスカですね…」
カローラは漢字ドリルをペラペラと捲って声を漏らす。
「あぁ、そこの空白に何度も字を書いて練習するためのもんだよ…ちゃんとやっていかないとゲームを遊ばせないからな」
「えぇ~ そんなぁ~」
カローラは不満の声を漏らす。段々育児をする親の気持ちが分かってくる。
「とりあえず、会計を済ませて家に戻るぞ!」
こうして俺たちは会計に向かったのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます