第447話 日本円大量ゲットだぜ!

 俺は必要なものをリュックサックに詰めてネカフェの外に出た。この現代日本は久しぶりなのもあるが、現代日本にいた時でも夜型の生活をしており、朝に街に出る事なんてなかったので、都会の街並みを忙しなく通勤する人々の姿に新鮮味を感じる。


「やっぱ、俺…現代日本に戻って来たんだよな…」


 そう独り言を呟きながら感慨に浸っていたが、すぐさま目的を思い出す。


「今は懐かしさを感じている場合じゃない、さっさと行動しないとな…」


 そういって周りを見渡してコンビニを探す。やはりコンビニはどこにでもあるもの、すぐに見つかったので足早に向かって入店する。


 ちゃちゃちゃちゃ♪ ちゃちゃーん♪ ちゃちゃちゃちゃ ちゃーん♪


 まさか、この入店の音楽が懐かしいと感じる日がこようとは… 


 再び懐かしさの感慨に浸りそうになるが、頭を振り払ってコピー機の所へ向かう。


 俺の幻惑魔法で写真を誤魔化した免許証がコピー出来なければ、計画の全てが頓挫する。実戦での一発勝負のようなギャンブルの様な行為することはできない。そんな事をしてコピーが上手く行かなければ一発で国家権力からのお尋ね者状態になってしまう。


 だから、いの一番で、幻惑魔法をかけた免許書がコピーできるかどうかを確認しに来たのである。


 俺は財布から免許証を取り出し写真に幻惑魔法を掛けた。うん、ちゃんと俺の顔になっている… 俺はコピー機の蓋を開き、そっと免許証を載せ蓋を閉める。そしてコインの投入口にお金を入れる。


 俺はゴクリと息を呑み込んでから、コピー開始のボタンを押す。


 ウィーン…


 コピー機はモーターの駆動音を立てながら免許証を読み込み始める。


 頼む! コピーで来てくれ!


 俺が祈り始めた途端、さらっとコピー機から紙が吐き出されるような音が響く。


「えっ? もうコピーできたのかよ…はぇーなぁ…」

 

 俺は身を屈めて下を覗いてみると、一枚の紙が排出されていた。


 俺は紙に手を伸ばし、再びゴクリと息を飲んでから、恐る恐る印刷面を裏返す。


「!!! よしっ!!!」


 俺はコンビニ店内なので小さくガッツポーズをとる。ちゃんと幻惑魔法をかけた写真がコピー出来ていたのだ!


 これで計画通りに動く事が出来るぞ!!


 俺はコピーした紙をリュックサックに詰め込むとさっさとコンビニを出て次の目的地へと向かう。


 目指す先は換金ショップである。


 なぜ換金ショップかというと、異世界にいた時にマグナブリルに次のような事を言われたからである。


 それは王族や貴族が、男も女も豪華な貴金属の装飾品を身にまとって、なんだか成金っぽいなと話すと、マグナブリルがその訳を話してくれた。



「確かに、貴族同士、特に女性に多いですが、見栄の張り合いで豪華な装飾品を身にまとう事もありますが、基本的には有事の際に身体一つで逃げ出した時に、身に着けていた装飾品を換金して逃走資金や復興資金にあてる為でもあります。そういった訳でイチロー殿も趣味ではなくても幾つか高価な装飾品を身に着けるよにお願いしますぞ」


 この様に言われたのである。結局、身に着ける事は無かったが、助言を受け入れ収納魔法の中にいくつかの価値のありそうな装飾品をしまい込んでいる。余りにも価値が高すぎて売りさばけなければ、いざとなれば異世界の貨幣がある。これも換金することが出来るであろう。


 そんな訳で、俺は貴金属の買取店に辿り着く。俺は神妙な面持ちで店内へと進んでいく。


「いらっしゃいませ! 何の買い取りでしょうか?」


 ビシッとスーツを着込んで手に白い手袋を付けた男性の店員が声を掛けてくる。


「あの… 貴金属の買い取りは出来るでしょうか…?」


「はい! 出来ますよ! どのような品ですか?」


「これなんですが… 買い取ってもらえますか? その…私の友人が彼女を妊娠させてしまったようで… すぐにお金が必要なんです…」


 俺はこの現代日本で換金できるかどうか試す為に、先ずは比較的安価なネックレスを取り出す。比較的安価と言っても100gぐらいの重さはある代物である。


 店員はネックレスを手に取り、品定めをし始める。


「どうですか…? 買い取ってもらえますか? その…本当にすぐにお金が必要で…」


 俺はいかにもお金に困っているような表情で話す。


「お客様、少しお待ちいただけるでしょうか、純度を調べてきますので」


 そう言って、店員は貴重品トレイに俺が渡したネックレスを載せて、店の奥の検査機でネックレスを調べ始めた。


 自分自身でも収納魔法にしまい込む前に、ディートから教えてもらった純度の計測魔法で、ほぼ純金である事は分かっているので24Kかそれに近い純度の金であることは分かっている。


 俺はチラリと店内の買い取り価格を見ると24kで1グラム1万円程の値段がついている。ならばあれ一つで本来は100万円ぐらいの価値はあるはずだ。


「お待たせいたしましたお客様、こちらのネックレスの純度は20Kになりますね、重さは…108グラムとなります」


 そう言って俺の目の前で電子計りにネックレスを載せて重さを見せる。


 ほぼ24Kを20Kとは…足元を見てきたな… しかし、俺の様な若者が不相応な物を持ってきて買い取り拒否をされる方が俺としては困る。だから、金に困っている様な素振りをして店員にカモに思わせたのである。


「20Kで108グラムと言うといくらになるんですか?」


「只今20Kの買い取り金額は1グラム8410円となっておりますでの108グラムとなりますと90万8280円になりますね」


「そ、そんな金額になるんですか!?」


 24Kだと1万ちょっとなのに20Kだと8400円か… まぁ、いいや…


「こちらの金額でよろしいですか?」


「はい! お願いします!」


「ではこちらの契約書類にご記入と身分証の提示をお願いします」


 俺はそそくさと契約書の記入を行い、例の運転免許証を提示する。


「それではこちらが買い取り金額90万8280円になります」


 結構な厚みの札束が目の前に出される。異世界に向かう前の俺であれば、歓喜の声を上げ、札束を握り締めてつよつよPCを買いに走ったであろう。


 だが、今の俺にとってはこの世界での生命線である。俺は演技ではなくゴクリと息を飲み込んで金に手を伸ばし、財布の中にしまい込むと俺は出口に向き直る。


「それではまたのご来店をお待ちしております」


 店員はカモにした俺に満面の笑みを作って見送る。


 そして、俺は店を出た後、コロンビアのガッツボーズをとる。これだけあれば、他の計画に支障が出ても挽回できる!!


 こうして、俺は十分な資金を手に入れたのであった。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る