第445話 はじめてのゲーム
「うわぁ~!! なんですかっ! なんですかっ! ここ! 凄い所じゃないですかっ! 色々な本が一杯ありますよっ! それになんですか! これ! 不思議な板に何か絵が動いてますよっ!!」
カローラがネットカフェの中に入るなり、棚びっしりに納められたコミックや、モニターに映し出される下面に声を上げる。
「ここがネットカフェだ。本も読み放題だし、パソコン・ネットも使いたい放題だ。後、ドリンクも飲み放題だぞ」
「えっ!? それは本当ですか? まるで夢のような所じゃないですかっ!」
カローラはおもちゃ屋に初めてきた子供のようにはしゃぐ。
って…夢の様な所って…お前、いつも城でメイドに飲み物を入れてもらいながら似たような事をしているじゃないか… まぁ、城の談話室はここのネットカフェ程の蔵書は無いけど…
「とりあえず今から12時間、本を読んだり、ジュースを飲んだりしながら過ごす事が出来るぞ」
俺はパソコンの前に座りながらカローラに答える。ブース席に入らずオープン席に着いたのはカローラに目が届くようにしたかったからである。
「一体どんな本があるんでしょうね… ん… なんだか絵がいっぱいで面白そうですが…字が読めないですね…」
カローラが本棚から手に取ったコミックを開いて残念そうにそう述べる。
「そうだな、コミックはある程度字が読めないと楽しめないからな… とりあえずはゲームでもしてみるか?」
「イチロー兄さま! ゲームができるんですか!? なんのカードゲームです!?」
「いや、カードゲームじゃないけど、もっと凄いゲームが出来るぞ、カローラ、お前も俺の横に座れ」
するとカローラはちょこちょことやってきてちょこんと俺の隣に座る。
「先ずはマウスを操作して画面のカーソルを動かしてだな…」
「マウス? あぁ、この黒いネズミみたいなやつですね、これで画面のカーソルを…」
すると、カローラはマウスを掴んでそのまま画面に押し当ててぐりぐりとやり始める。
「そう来たか…まぁ、始めて使うなら仕方ないな… こうやってマウスをテーブルの上で動かすだけでも画面のカーソルが動いているだろ?」
俺は自分の手元でマウスを動かしてやって見せる。
「あっなるほど!手元で動かすんですね」
俺の姿を見てカローラも手元でマウスを動かし始める。
「それで遊びたいゲームのアイコンをクリックしてだな… って、カローラ、指で画面を押さなくてもいいぞ、マウスの右頭の所を押し込めばクリック出来るから」
画面に指を伸ばしかけていたカローラに注意する。
「それで、イチロー兄さま、画面に一杯何かありますけど、どれをクリックすればいいんですか?」
「そうだな…」
俺は画面を見て思い悩む。DQNからスマホを奪って使った時に気が付いていたが、俺が異世界にいってから三年の月日が流れている。その三年で当然流行りのゲームも変わっていて俺でも何が何やら分からない。
三年前から続いているゲームもある事にはあるのだが、そんなのはFPS系なので、字が読めなくて初心者のカローラにはハードルが高すぎるであろう。
そこで俺は、俺とカローラの仲を妬ましそうに見ていた店員のごろーに声を掛ける。
「店員さん、ちょっといいかな?」
「あっはい! 何でしょう?」
俺に声を掛けられると思っていなかった店員はビクリと肩を震わせた後、平静を装ってやってくる。
「妹にゲームをさせてやりたいんだが、私も良く分からないんだが、妹でも出来そうな簡単なゲームを教えてくれないか? 出来ればキーボードは難しいと思うからマウスとかで出来るゲームを」
「お兄さん、私に教えてくれる?」
俺に声を掛けられた時は妬ましそうな顔をしていた店員だが、カローラからお願いされるところっと態度を変える。
「………なるほど…分かりました… 僕が手取り足取り教えて進ぜましょう(キリッ)」
店員はカチャリと眼鏡を掛けなおすと、カローラを後ろから覆いかぶさるようにマウスを操作し始める。
「先ずは、マウスだけ遊べるミミズゲームでもしてみようか、お嬢ちゃん」
「ミミズゲーム?」
「こんな感じにマウスでカーソルを動かすとミミズがその方向に動いていくから、餌を食べて大きくしていくんだよ」
「わっ! わっ! すごーい! すごーい! 絵が動いてるっ!」
この程度で喜ぶならゲームではなく、動画でも見せておけばよかったかな?
まぁいいや、これでカローラがゲームに熱中している間に、俺は必要な調べ物をするか…
俺はブラウザを立ち上げ、マンスリーマンションについて調べていく。すぐにいくつかの業者が検索にヒットする。そこで契約に必要な物を調べる。
先ずは本人確認の書類。これはDQNから奪った免許証が使えるが、契約時にコピーをとると書いてあるな…幻影魔法を使ってコピーしても大丈夫かどうか、後で調べないといけないな。
次に銀行口座か… こちらの方を先に調べないといけないな…
俺は口座開設について調べる。すると窓口に本人の確認書類と印鑑を持っていけばすぐに通帳が作れるようだ。なので、マンションの方へと戻る。
マンションの契約には、後は通帳と印鑑、契約金があれば契約できるようだな。となるとこの辺りの家賃はいくらぐらいなんだろう…
俺はマンスリーマンションのページから近辺の物件を検索する。
「この辺りで大体6~7万か… 払えない事もないが、今の金だけではギリギリになるな… 二か月分先払いとかだとアウトだ…」
電気代や水道代などのインフラの事や、食事の事を考えると絶対にアウトだ。他に金を作らないとダメだろう。まぁ、DQNから奪ったスマホが三台あるから幾つか売れば足しになるだろうし、他にも当てがある…
まず金を作って、印鑑を購入して銀行口座を開設すれば、マンスリーを契約することが出来るだろう。入居まで時間や電気が通るまで時間が掛かる様なら、またここで過ごせばよい。
とりあえず、カローラの事もあるから早急に効率よく回らないとダメだな…
金、印鑑、銀行口座、住居、電気ガス水道。この順で回って後はカローラの念のためにカローラの日傘を買ってやらんといかんな…
明日の段取りを決めた俺は、必要な物とその場所をスマホに登録する。ちなみに使っているDQNのスマホにメールやら着信やら着ているが全部ガン無視である。しかし、色々と面倒なので、お金に余裕が出来たのなら買い替えが必要だろうな…
また、写真アルバムをチラリと覗いてみると、出るわ出るわ、DQNの悪行の数々…
うーん、どうしよう… これは一応警察に届けたほうが…いや届けないとだめなレベルで悪さをしている… このアルバムの中身を見た上でなかった事としてスマホを売り払うのは流石に良心に響くな…
「うわわわぁぁ~! うわぁぁ~!!」
カローラの奇声に気が付き隣を見てみると、カローラがゲームコントローラーを持ちながら、身体を左右にうねうねとくねらせていた。
「…何やってんだよ…カローラ…」
「イ、イチロー兄さまっ! 見て分からないんですかっ! 馬車を運転しているですよっ!」
「カローラちゃん! がんばって!」
うねうねと身体を動かすカローラの後ろで店員が応援している。ちらりとカローラの画面を見てみると、レースゲームをしている様である。車をしらないカローラには馬車の一つだと思ったのであろう。
「うぉ! うぉぉぉ! うわぁぁぁぁ!!!」
カローラは更に奇声を上げると画面に合わせて身体を動かし過ぎて、ポタリと椅子から転げ落ちる。
「あっ! カローラちゃん! 大丈夫!?」
「大丈夫か? カローラ」
「ふぅ…大丈夫です」
カローラは興奮して高揚した顔で立ち上がる。
「しかし、世の中にはこんなに面白い物があるんですね、初めて知りましたよ! 久々に手汗を掻きましたよ」
「お、おぅ…そうか… それより、俺は調べ物が済んだから、明日の朝までひと眠りしようと考えているんだが、カローラはどうする?」
「こんな楽しい物があるのに眠ってなんていられませんよっ!」
鼻息を荒くして答える。
「そ、そうか…でも、ほどほどにしろよ…」
俺はカローラに告げると、少し離れた場所でひと眠りし始めたのであった。
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