第442話 現代日本での食事
「ここですか?」
「あぁ、ここだ」
俺と手を繋いでいるカローラはワグドナルドと書かれた看板を見上げる。ちなみに手を繋いでいるのは、靴を買ってやったので自分で歩かせたのだが、手を離すとすぐに何かに興味を引かれて手綱をつけてない子犬の様に走り出す為だ。
また、トイレで着替えが終わった後、値札をフル装備で出てきたので全て外してやったりした。異世界であれば俺が着付けさせてやるのだが、この現代日本ではなによりも恐ろしい児ポ法があるので滅茶苦茶不便だ。
あと、DQNから奪った服は袋にまとめてコンビニのゴミ箱にポイしておいた。あと着替えやそれ以外の小物はリュックサックを買ってその中に詰め込んでいる。
俺達はとりあえず店内に入ってカウンターの前に進む。そして、注文カウンターの上にあるメニューを見てカローラに尋ねる。
「カローラはどれを食べたい?」
「えっ? この店ってここで注文するんですか? 席まで聞きにきてくれるんじゃないですか?」
「ここは忙しい人の為のそう言う店なんだよ、でどれがいい?」
「どれがいいと言われましても… 見た目だけではどんな物なのか分かりませんよ…」
カローラは何がどうであるか分からない感じなので、少し眉を顰める。
「そうか…じゃあ牛、鶏、魚、エビ…何がいい?」
「では鶏で」
カローラの希望を聞くと俺はカウンターで注文を待つ女性の前へ進む。
「ご注文はお決まりでしょうか?」
「バッファローチキンのセットを一つ、俺は肉厚ビーフ&ポテトのセットをドリンクとポテト両方Lで、飲み物は両方コーラで、後三角チョコパイ 黒とミルクキャラメルを一つづつ」
「ご注文は以上でしょうか?」
「そうだな…本当はテイクアウトしたいところだが、君のスマイルをここで貰えるか?」
俺はキラキライケメンフェイスで女の子に答える。
「合計で2010円になります」
女の子は強張った顔で答える。ノリの悪い子だな…
その後、支払いを済ませた後、商品を載せたトレイを持って来たおばちゃんが満面の笑みで商品を渡してくれた。…いや、あんたにはスマイル頼んでないんだが…
トレイを受け取った俺は二階に上がって、周りに人のいない席を見付けてそちらに向かって腰を降ろす。
「これからの事を色々と考えなくちゃいけないが、とりあえず飯を食うか、腹が減ってはなんとやらと言うかなら」
「ところでイチロー兄さま、これ、どうやって食べるんですか?」
カローラは紙に包まれたハンバーガーを見て、首を傾げる。
「あぁ、ここにあるテープを剥がして捲ると中身が出て来るだろ? 後は紙に包んだまま食べれば手は汚れないし、具が反対側から零れない」
俺はカローラのハンバーガーを剥いてやり、ついでに飲み物にストローを刺してやる。
「おぉ~ こうやって食べるんですか… しかし、紙を皿代わりに使うとは、注文方式の割には随分と贅沢な食べ方ですね…」
カローラはハンバーガーを手に取ってキョロキョロと見回す。
「異世界ではそこそこ高価だが、ここでは紙の安価に作っているだよ」
解説しながら俺もハンバーガーを手にとり紙をめくる。
「じゃあ食うか! いただきます!」
「いただきます!」
二人合わせてハンバーガーに齧り付く。
「!!!」
「んぐ!!」
二人で驚きに目を丸くした後、ハンバーガーを噛み千切り、モグモグと咀嚼した後、ゴクリと飲み込む。
「うめぇー!! 久々に食べたのもあるが滅茶苦茶うめぇー!!!」
「なんですかっ! これ! カズオの料理に勝るとも劣らないですよっ!!」
そう声を上げると俺もカローラも二口目を食らいつく。
「うめ~ うめ~なぁ~ 以前はなんとなく食っていたハンバーガーだが、久々に食うとこんなに美味いんだな… きっとラーメンを食ってたマサムネのこんな気持ちだったんだろう…」
「このパンも凄いですよね!! こんなふかふかなパン、私でも食べた事がないですよっ!」
異世界にいた時でも良くパンは食べていたが、現代日本の様にイーストの研究はまだ進んでおらず、こんなふっかふかでもっちもちのパンを焼く事は出来ない。
「このハンバーガーがこんなに美味しいのなら… こっちのポテトは…? ん! 美味しい! 滅茶苦茶美味しいですよ! イチロー兄さま!! ただポテトを揚げただけなのにこんなに美味しいだなんてっ!」
カローラがポテトをモリモリと頬張り始める。
「カズオにも何度か作ってもらったんだが、ここのポテトの様に上手く上がらないんだよな! やっぱ本物は違った美味さがある!!」
俺もカローラにつられてモリモリとポテトを頬張り始める。
「あっつ!あっつ! ポテトを頬張り過ぎて口の中が… 飲み物飲み物っ !!!」
あつあつポテトを頬張り過ぎて口の中を火傷仕掛けたカローラはストローを咥えてずずっと飲んだ時に大きく目を見開く。
「なっ! なっ! なんですかっ!! これ!! 口の中がしゅわしゅわして弾けるようですよ!! しかもそれが心地よくて! 味も丁度良い甘さで、コクがあるのに凄くスッキリしてて… これはもしかして…噂に聞く神の飲み物…ネクタルというものですかっ!!」
カローラは料理漫画に出てくる登場人物の様に驚く。
「いや…ただのコーラだが…」
コーラに感動するカローラにつられて俺もコーラを啜る。
「うめぇぇ!!! やっぱワグドナルドで飲むコーラはうめぇ!!! やはりペットボトルで飲むものとは一味違うな!! うめぇぇ!!!」
異世界でもビールのような泡がでる飲み物は飲んだことがあるが、コーラの様な炭酸飲料は久しぶりである。
「イチロー兄さま! ハンバーガーやポテトの他にも何か頼んでましたよねっ!? それも食べましょ!」
「あぁ、チョコパイか、待ってろ、別々の味を買ったから半分こにして両方の味を楽しもう」
ハンバーガー、ポテト、コーラと三つの味に感動してチョコパイにも期待するカローラの為にパイを半分こにして渡してやる。するとカローラはすぐに食らいつき、再び大きく目を見開く。
「美味い! 美味いですよっ! イチロー兄さま! 普通の食べ物だと思ってましたけど、まさか甘い物だったとは… しかも温かいスイーツなんて初めてですよっ! しかも美味しい!」
「この表面のサクッ!とした感触と中のトロトロした感覚が両立しているのも凄いよな!」
「しかも、このトロッとした味わいの後に、このコーラを飲むと… あぁ…幸せ… イチロー兄さまはいつもこんなものを食べていたんですね… 普段の食べ物に対するこだわりが分かりましたよ…」
そう言ってカローラは悦に浸る。
するとそんな所へ、俺達が騒いで食べているのが気になった店員が二階に上がって様子を見に来る。
「あっ! そこの方!」
そんな店員を見付けてカローラが声を掛ける。
「どうされましたか? お客様」
「私、ここの料理をいたく気に入りましたわ! 感動と感謝の言葉を送りたいのだけれど、シェフを呼んで…んぐっ!」
俺は慌ててカローラの口を塞ぎ、愛想笑いを浮かべながら店員に向き直る。
「すみません、妹はなんかのアニメに影響されたらしくて…それを真似しようとした見たいです…」
「ふふふ、そうでしたか、それではお食事をお楽しみください」
店員も愛想笑いを浮かべると、俺達が美味さに騒いでいただけであることが分かり、一階へと戻っていく。
そんな店員の後ろ姿を見送った後、俺はカローラに顔を近づけ小声で話す。
「ここではシェフを呼んで声をかけたりしないんだよ」
「えっ!? そうなんですか!? こんなに美味しい物を作っているのに報われないなんて気の毒ですね…」
カローラも小声で返してくる。
「とりあえず、冷める前に食っちまうぞ」
「分かりました、イチロー兄さま」
その後、俺達二人はワグドナルドを堪能したのであった。
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