第438話 異世界にも現代日本にもクズはいる

※昨日はネットトラブルにより投稿出来なかったので、本日は昼と夜に投稿します




 物音に気が付いた俺はすぐに警戒態勢をとり、カローラに声を掛ける。



「カローラ、物陰に隠れてろ!」


「でも、強そうな気配は全くありませんよ?」



 異世界で鮮血の夜の女王と名を轟かせていたカローラなら、現代日本で遅れを取るような事は万に一つも無いだろう。だか、俺が言っているのはそんな事では無い。児ポ法的にヤバいのだ。


「いいから隠れてろ! 裸マント状態なんだろ?」


「…なんだか嫌な言い方しますね…分かりました…物陰に隠れてます…」


 カローラはそう答えると、隅っこに行って縮こまって座る。多分、カローラにかくれんぼをさせたら下手だろうなと思うぐらいの隠れ方だ。


 そう言えばかなり昔、ヴァンパイアの女の子が裸マント姿のエンディングの再放送のアニメを見た記憶があるな…何だっけな…あれ…まぁ、今はいいや…


 そうしている間にも恐らく数人はいるであろう物音がこちらに近づいてくる。



「さっきの女、良かったな、男の方もたんまり持っていたし」


「次は俺の番だぞ」


「おい! あいつ何だよ?」


 

 三人のDQNが姿を現し、俺の姿を見て目を丸くする。俺の方は俺の方で、近づいてきた物音の正体が、あの時女子高生が通報して来た警察官などでは無かった事に安堵して、警戒を解く。


 最初はこんな所にいきなり全裸の俺が堂々とした姿でいて、目を丸くしていたDQN達であったが、驚きが収まると新しい獲物かおもちゃでも見付けたようにニヤニヤに笑い始める。



「ははっ! 散歩には良い夜だなっ!」


 

 逆毛のDQNの一人がからかうように俺に話しかけてくる。



「あぁ、散歩には良い夜だ」



 警察でなく、ただのDQNと分かった俺は落ち着いて真顔で答える。転生する前の俺なら、適当に答えながら、ポケットの中でスマホを使って110番に連絡している所であるが、異世界での命を懸けた戦いの日々で、こんなDQNなど丸腰でも相手にできるぐらいに鍛え上げているので一向に怖くはない。


 まぁ、鍛えてなくてもスマホどころか服すらないまっぱ状態ではどうしようもないんだが…


「服を汚しちゃって着るものはないのかぁ~?」


「着るものはなしだ」


 そんなDQN達を一欠けらも怖がりもせず、極めて平静に答える俺に、逆にDQNの方が反応に困って仲間たちに振り返る。


「こいつ… 少しおかしいぜ?」


 だか、他のDQN二人は、目敏くカローラの姿を見付けてひそひそ話をしていた。転生する前の俺なら聞こえなかったが、異世界で森の中での討伐で感覚が研ぎ澄まされていたり、また聴力強化の魔法が使えるので、聞こうと思えばまる聞こえだ。



(あそこのガキ、連れて帰ろうぜ)


(えっ?あのガキ? でも、まだ子供だぜ?)


(お前、知らないのかよ、今時はあんなガキの方が金になるんだよ、世の中には物好きな変態がいるからな…)


(マジかよ…それでいくらぐらいになるんだ?)


(一発で二桁は固いぜ、一日フル回転させれば100は余裕で稼げるぞ)



 …元々、この現代日本に俺もいたから分かっていたけど、異世界にも、そしてこの現代日本にもどうしようもないクズはいるものだ…最初の会話も別のカップルを襲ってきた後の会話なのだろう…


 俺はここは故郷の現代日本で、相手はただの一般DQNだから今の日本の状況を聞き出すだけで手荒な前は控えようと考えていたが、あの二人の言葉で腹は決まった。



「お前らの服をよこせ」



 俺はただ冷徹に命令するように、目の前のDQNに告げる。



「ははは、お前、何言ってんだよ」


「すぐにだ」



 俺の言葉を冗談と受け取ってヘラヘラと笑うDQNに、再び真顔でつげると、DQNも冗談ではなく俺が本気で言っている事に気が付き始めてへらへらと笑う表情が消えていく。



「…お前、舐めてんのかよ…」


「お前の様に汚ねぇ奴なんか舐めねぇよ、それよかさっさと服をよこせ」



 DQNの顔から世の中を舐め腐ったニヤついた表情が完全に消え、怒りに顔が紅潮していく。



「こいつ! ふざけやがって!!」



 俺に煽られたDQNはDQN特有の格闘術のかの字も知らない構えで俺に殴りかかってくる。もちろん、俺はそんなへっぽこ拳に殴られるようなヤワな人生を送ってない。こちとら、一発当たっただけでお陀仏のマジの殺し合いに身を投じてきた人間だ。


 かと言って、こんなDQNに本気を出すほど大人気が無い訳でもない。俺はすっと片足を前に上げると、勝手に向こうから俺の前足に突っ込んできて、股間を直撃する。ちなみに生足だったので足の裏にDQNのナニの感触がモロに伝わってくる…気持ち悪い…



「ぶぉっ!!!」



 俺に突っかかってきたDQNは股間を抑えながらのたうち回って仲間のDQNの所へと転がっていく。


 その状況に舌なめずりしながらカローラを見ていた他の二人も事態の異変に気が付く。



「おい! どうしたんだよっ! ゲン!」


「あっ、アイツに…やられたんだよ…」


 

 仲間にゲンと呼ばれたDQNが無様に地面に転がって情けない顔をしながら俺を指差す。



「おい! お前っ! ゲンに何やったんだよ!」


「俺は何もしていない、そいつが勝手に突っ込んできて自爆しただけだ」



 俺は腕組みしてドヤ顔で答える。ちなみに勿論、マイSONをぷらぷらさせたままのまっぱ状態だ。



「こいつっ! ふざけやがって!」



 そう言いながらもう一人のDQNが俺に突っ込んでくる。こいつも格闘技なんか全然やってない動き出し、言ってる内容もほぼ一人目と同じセリフだ。こいつらがただ単に語彙力が無いのか、それとも量産型DQNなのかどっちだよ…


 そんな事を考えながら、俺はDQNの拳をすっと避け、その足元に片足を差し出してやる。すると予想通りに俺の足に躓き、盛大に転がっていきビルの壁に激突して気を失う。



「タクゥゥゥ!!! 貴様ぁぁぁ! 許さん… 許さんぞぉ!!」


 

 おっ! こいつは二人とはセリフが違う、しかもなんだか戦闘力52万様っぽいぞ!


 そして、残ったDQNは懐をまさぐり、折り畳みナイフを取り出して、チマチマと刃を出し、俺に差し向ける。


 これには少しゲンナリだな… そこはバタフライナイフとかでチャキチャキチャキ!とカッコよく取り出すところだろ? 何をリンゴの皮でも剥くみたいにチマチマと取り出してんだよ…


 ナイフを取り出したDQNは調子こいてすぐにでも飛び掛かって来るかと思っていたが、一向に飛び掛かって来ない。どうやら仲間二人があっという間にやられてビビっている様だ。



「ほれ、俺はこの通り、マジで丸腰だ」



 俺は股間のマイSONをぷらぷらさせながら、手を開いて見せる。



「来いよDQN、怖いのか?」


 

 俺はDQNを言葉と素振りで煽ってやる。すると、俺の挑発にひっかかったDQNはプルプルと震えて顔を紅潮させて雄叫びを上げる。



「野郎! ぶっ殺してやぁぁる!!!」



 お前、どのベネットだよ…でも、まぁいいや…


 俺はナイフを持って突き出してきた腕の手首をぎゅっと握り、そのままぐいっと外側に捻ってやる。



「いででででででででっ!!!!」



 手首を捻られたDQNは情けない声を上げ始める。さっさとナイフを手放せば俺も手を捻るのを止めてやるのに中々ナイフを手放さない。これはまだ反抗の意思がある証拠だ。


 仕方ないので、俺はDQNの手首を捻ったまま、突き上げるように腕を持ち上げた後、一気に引き落とす。するとパコッ!という音とともにDQNの腕がダラリと垂れる。



「アッー!」



 DQNは短い悲鳴を上げた後、カランとナイフを投げ出して、俺によって脱臼させられた肩を抱えて地面に突っ伏した。


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