第437話 状況確認

 俺は何か話そうと口を開きかけたが、今の俺の頭の中にある事は憶測でしかないし整理がついてない。また、この現代日本についても簡単に一言二言で説明出来る事ではないと気が付いてすぐに口を閉じる。



「ここ… なんだか… 立派な建物がある割には薄汚いですし… なんだか何処かの都市のスラムの様ですね…」



 言葉を返さない俺に、カローラは不安そうな顔をしながら辺りをキョロキョロと見回す。


 その間にも、俺はカローラにどう答えるか思い悩んでいた。


 異世界も現代日本もどちらかが現実でどちらかが夢・幻ではなく、両方が確固とした現実であるのは、目の前にいるカローラの姿から確信できる。


 では、俺達に何が起きたのか…


 異世界での最後の瞬間は、確か聖剣取得の承認式の最中、俺が魔法陣の上に立っていて、魔法陣が起動する時に、カローラがウルトラスーパーレアを引き当てたもんで、俺に駆け寄ってきたんだよな…


 という事は、カローラが魔法陣の上に飛び出してきたから何か不具合が起きてこんなことになっているのか?


 いやいやいや、いくら魔法陣の起動中に対象外の人が飛び出してきたからといって、対象者を異世界に飛ばすような魔法陣の構築がおかしすぎるだろ… ゲームで言えばバグでPCが壊れるレベルの不具合だろ…普通、こんなの起きんぞ…


 俺はチラリとカローラを見る。カローラは初めて家の外に出したペットの様に脅えた表情で俺のそばに寄り添っている。


 普通はここまでの現象が起きることは無いが、俺とカローラの存在は特別だ… もし、魔法陣がその対象者の血を使ってあれこれ判別している代物ならば、俺はカローラが滅びかけた時に血を分け与えて復活させているし、俺自身も駐屯地の戦闘後、死にかけていたのをカローラの血によって命を生き永らえさせている。つまり、血液的には俺とカローラの存在は同一なのかも知れない… ならば、あの魔法陣が対象者を異世界に飛ばすような誤作動を起こすのもあり得るかも知れないな…



「そう言えば、苦労して手に入れた聖剣はどうなったんだ? やはり、向こうの世界に置いてきたことになるのか?」


 俺は承認式の事を思い出したついでに聖剣の事も思い出す。この状況で聖剣を使ってどうこう出来る状況ではないが、あれだけ苦労と恥を掻いて手に入れた聖剣である。手放すのは少し惜しい気がしたからである。



『ちゃんといるわよ… ちょっと、私も状況に困惑して何も声を出せなかったのよ』



 聖剣の声が頭の中に響く。



『パパ…この人…ずっとパパの中にいるんだけど… どうにかならないの?』



 マイSONの声も頭の中に響く。お前もちゃんといるんだな… まぁ、先程、現物を見ているし、いなくなったら滅茶苦茶困るが…



『ちょっと! 何よ! その言い方! まるで私が邪魔者みたいじゃないのっ!』


『えぇぇ~ でも…おばさん…邪悪な気配がするし、僕、怖いもん…』


『おばさんって何よっ! お姉さんって言いなさい!』


『でも… 態度と言うか物言いが、僕の興味の範囲外だし… 僕は出来れば、さっきパパに何かを向けようとしていた女の子がいいなっ』


「ちょっと…俺の頭ん中で喧嘩をするのは止めてくれないか… だたでさえ俺自身も今の状況に困惑しているというのに…」



 頭の中で言い争いを始める二人に声を掛ける。まるで、言い争う二人の間に俺がいて、互いが俺の耳元で言い合っている様であった。



「…? イチロー様、突然何です? 何の事を仰っているんですか?」



 そこへ俺の頭の中で聖剣とマイSONが言い争いをしている状況が分からない、カローラが見上げてくる。



「あぁ… 俺の中にいる聖剣がマイSONと言い争いを始めてな…」


「聖剣とマイSON? あぁ、イチロー様の…なるほど、分かりました… あっ!」



 そこでカローラが何かに気が付いたような声を上げたかと思うと、自分の身体をまさぐり始めて、何か探し始める。



「どうしたんだ? カローラ…」


「カードですよ! カード! 折角、ウルトラスーパーレアを引いたのどこ行っちゃったんだろうと思いまして…」


 着ていた服が無い事から、手にしていたカードも同様なのは分かりそうだが、あれだけ苦労して手に入れたウルトラスーパーレアのカードを諦める事が出来ずに、カローラは髪の毛にまで絡まっていないか探し始める。



「ない!ない!なぁぁぁい!! こうなれば…ワンチャン…」



 髪の毛にも絡まっていない事を確認すると、カローラは腰に手を当てて身体と腕で輪を作り、そこにもう片方の手を突っ込む。



「違う! これも違う! 違う違う!」



 そう言って収納魔法からカードを取り出して確認し始める。



「えっ!? ここでも収納魔法使えんの!?」


 

 俺はカローラが収納魔法を使う姿を見て目を丸くする。



「え? なんの事です? ここ魔法を使っちゃいけない所なんですか?」


 

 キョトンとした目で俺を見てくる。



「いや…そんな事は無いが… …うん…使えるんだったら問題ない…何も問題ない…」



 俺がそう答えると、カローラは再び収納魔法からカードを取り出して、ウルトラスーパーレアを収納していないか確認し始める。


 カローラはここが現代日本である事を知らないので、平気で魔法を使い始めたが、俺はここが現代日本だと分かっているので、まさか異世界の魔法が使えるとは思いもしなかった。


 なので、俺も腰に手を当てて輪を作り、収納魔法を使ってみる。



「おっ! マジで使えた… 魔法ってここでもちゃんと使えるんだな…」



 そう言って、俺は収納空間に手を突っ込み、色々物色していく。



「うぉぉぉ!! 見当たらないっ! やっぱり、ここに飛ばされた時に置いてきちゃったんだ!!!」


 

 カローラはそう叫んで、悔しそうに地面に拳を叩きつける。



「やはり、そうだったか… それでカローラ、お前は収納空間に着替えはいれてないのか?」


 俺は自分の収納魔法から外套を取り出して尋ねる。



「ホラリスに来るときは入れてましたけど、到着してからは外に出してメイド達に管理してもらっていたので…ありません…」


「…そうか…じゃあ、しゃあねぇな…」


 残念そうな顔をして答えるカローラに、俺は取り出した外套をカローラに掛けてやる。


 ここが異世界であれば、カローラには自分の髪の毛で身体を隠してもらうのもアリだが、ここは現代日本なので、児ポ法やら何やらで、カローラを裸にしておくのはマズイ。


 しかし、よくシュリの奴に俺の外套で手を拭かれたり、誰かを拭いたりされるので、予備に一着外套を収納魔法に入れていたが、こんなことならもう何着か…いや、外套だけじゃなく普通の着るものを入れておくべきだったな…


 でも、そもそも、服一式必要な事態になるとは思わなかったが…


「ありがとうございます、イチロー様… ところで話は戻りますが…」


 カローラがそう言いかけた時、道の方から誰かが近づいてくる物音が響いてきた…


連絡先 ツイッター にわとりぶらま @silky_ukokkei

pixiv http://pixiv.net/users/12917968

『悪霊令嬢』が第11回ネット小説大賞を一次選考通過しました。

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