第428話 はじまり
ミリーズに続いて大聖堂の中へ進んでいくと、煌びやかな光が差し込む、天井の滅茶苦茶高い大聖堂の内部が見えてくる。俺達が出てきたところは、正面入り口から入るところよりも一段高くなっている様で、大聖堂内部が見下ろせる形になっており、そこにまるでゴミの様に人々がひしめき合って集まっていて、ちょっと、目がぁ~目がぁ~と言っていた人の気分を味わえる。
また、眩しいほどの光が差し込んでくる上座の方に目を向けると、さらに一段高くなっていて、そこには祭壇と神々を模した神像が幾つも並んでいる。
この大陸で信仰は一神教ではなく、多神教…それも四大神や六大神程度の指で数えられる程度の数ではなく、どこぞのアイドルグループかよと言わんばかりの神の多さである。
なので、祭壇の上に祭られている神はまるでひな祭りのひな壇か学校の集合写真を取る時の様に数多く並べられている。
普通なら、信仰する神によって宗教戦争が起きてもおかしくない状況であるが、ここの神は偉大な功績を残した人間が神の座に至った所謂現人神が多く、その功績も芸能が勉学、剣術が上手かったなどのものなので、神の名のもとに人間同士が戦争をするという事は殆どない。
起きるとしても推し活するファン同士が推し活対象の事で言い争いをする程度のものだ。
一応、現人神ではない、世界創生などに関わった神もいるそうだが、余りにも偉大過ぎてとっつきにくい所や、降臨の儀で姿を現わした事がないので、盛んに信仰されていない。やはり、姿を見せて声を聞かせてくれる神の方が人気があるようだな…
しかし、流石教会本部の大聖堂だけあって、時に信仰を持たない俺でも神気というか、聖なる空気を感じ取れる。
「カローラもアシュトレトも大丈夫なのか?」
俺はヴァンパイアのカローラと小悪魔のアシュトレトが心配になって二人に尋ねる。
「私は幸運の神様に祈りを捧げるために礼拝堂には何度も足を運んで祈りを捧げていますから、大丈夫ですわ」
カローラが澄ました顔で答える。
「私は、なんだか極寒の中にいるような感じと… 自分自身が別物に書き換えられるような感じがして、辛いです…」
アシュトレトの方が、自分の肩を抱きかかえて、凍えるように震えている。
「とりあえず… 消滅してしまうような事は二人とも無い様だな… 自分が別物になってしまうというのは分からないが、寒いのは後で温かい物を飲ませてやるから我慢してくれ…」
酷な話であるが、アシュトレトには我慢するようにとだけ伝える。
俺達がそんな会話を交わしている間に、ミリーズが既に大聖堂の中にいた枢機卿達に挨拶をしていた。
「これはこれは、カール枢機卿、ジャクソン枢機卿、ジェームス枢機卿、ハマー枢機卿、お久しぶりでございます」
先程のじいさん枢機卿達とは異なり、こちらは壮年世代の枢機卿達のようだ。
「おやおや、これは聖女ミリーズ様ではございませんか! 御久しいですなっ!」
「旅立ちの時以来ですな、聖女ミリーズ様」
「ご健勝のようで何よりでございます」
爺さん達よりよっぽどまともな対応をしてくるな…
「こちらこそ、聖都ホラリスに戻っておりましたのに、挨拶が遅れて申し訳ございません。皆様のご健勝そうでなりよりで御座います」
ミリーズは上品に微笑んで答える。
「ところで聖女ミリーズ様」
「なんで御座いましょう? カール枢機卿」
「今日の朝の礼拝は特別な行事があるので、必ず出席するように言われたのですが… ミリーズ様は何があるのかご存じですかな?」
「さぁ? 私も詳しい事は存じませんの、カール枢機卿」
ミリーズはピクリともせず、微笑んでそう答える。
「そうですか… では、ミリーズ様の後ろにおられる御仁はどなたですかな?」
そう言ってミリーズと話していたカール枢機卿は俺を見る。
「こちらは三ツ星勇者で、イアピース国アシヤ領領主、男爵のアシヤ・イチローでございますわ」
「ご紹介に預かりました、あしや・イチローでございます」
ミリーズに紹介されて、俺も一歩前に進み出て自己紹介をする。
「あぁ! 300年ぶりに聖剣を引き抜いて、聖剣の勇者となられた御方ですか! 一度お会いしたいと思っていた所なんですよ」
そう言ってカール枢機卿は俺に近づいて握手を求める。
「こちらこそ、是非ともお見知りおきを…」
ゴーン…ゴーン…ゴーン…
そう言って、俺が手を差し出そうとした瞬間、大聖堂の中に、腹まで響き渡る鐘の音が鳴り響く。
「おや? 朝の礼拝の時間となりましたな… お互い握手しての自己紹介は礼拝の後に致しましょう」
そう言って、カール枢機卿は差し出した手を引っ込めて、恐らく決められている自分の所定位置へと戻り、祭壇側に向き直る。他の枢機卿やミリーズもそうしているので、俺やお前の二人も見習って祭壇側に向き直る。
すると、俺達が入ってきた入口とは反対方向から、祭服を来た別の枢機卿が伴を連れ立って入場して、俺達のいる所より一段高い場所にある教壇の元へと進んでいき、教壇の所に立って、海上の皆に向き直る。
流石は教会本部だけあって、学校の集会のようにひそひそ話をするような者はおらず、なみすら立たない水面の様に、皆静まり返っていた。
「これより、朝の礼拝の時間である! 私、スタインバーガーが今日の担当を務める!」
教壇に立つスタインバーガー枢機卿の声が、大聖堂内部に響き渡る。
「しかし、礼拝を始める前に、一つやらなければならない事がある!」
その言葉に疑問の声こそ上がらなかったが、動揺してか、微かに衣装の擦れる音が背中から聞こえてくる。
「その内容とは…とあるものより、教会内部に重大な事案が発生したとの知らせがあった!!」
ガコンッ!!
スタインバーガー枢機卿の声と共に、教会騎士によって正面入り口に閂が掛けられて、教会騎士によって正面入り口が警護される。
この大聖堂を隔離して、内部の人間を外に出さない処置に、流石に騒めきの声が上がり始める。
「皆! 静粛に! 静粛にするのだ!!」
教壇の上からスタインバーガー枢機卿が騒めく会場の皆に声を上げる。
その声に不安に正面入り口に振り返っていた者たちは、スタインバーガー枢機卿に向き直る。
「これより、教会内部に潜む裏切者の摘発を執り行う!!!」
スタインバーガー枢機卿の固い決意を感じられる声が大聖堂の中に響き渡った。
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